鎧人との遭遇

キャァァァァアアアアーーー!


グレートボアとの戦いに勝利した余韻に浸るゴブリンたちの耳に届いた。


「あれは川の方向です。quiquii族の者ではないですが、誰かが魔物にでも襲われているのかもしれません。見に行きますか?」

死闘を制した隊長は放置しておいてもよいと考えているようだ。

「ボアを解体するのは時間がかかります。様子を確認しておいた方がよいでしょう」

ラパスからするとquiquii族以外の知的生命体も見れるなら見ておきたい。

「分かりました。ではここで解体する者やその護衛以外で動ける者を連れて行きましょう」

結局、様子見なので戦闘能力より見つからないように近づく方が重要と考え、ハンタ班長以外の索敵班(ロビンを含め)3名と隊長、そしてラパスが行くことになった。


川辺の土手を木の影に隠れながら近づくと、隊長があれは鎧人だと断言した。臭いで分かるらしい。


茂みの途切れるぎりぎりの所まで近づき観察すると、どうやら魔物はおらず3人の成人男性と1人の若い女性、1人の女の子が話しているようだ。


ラパスの高性能な集音機能なら話し声は聞きとれるはずだが、何を言っているのか分からない。


『言語解析プログラム起動』


何を言っているのかは分からないが、見ているだけでもどういう関係なのかは大体理解できる。


三人の男と二人の女性は仲間ではない。


女性は男性を恐れている。


男性は女性に危害を加えようとしている。


そして、男性の方が女性より強く武器も持っている。


若い女性は女の子を守ろうとしたのだろうが、すでに武器を失い、戦う手段もなく男性たちに捕らえられている。恐らくこれから男性三人に乱暴をされるところなのだろう。服を引きはがされている。


女の子は小さすぎるので乱暴をされることはないだろうが、抵抗するすべもないらしく手足を縛られている。


「鎧人は野蛮だ。女子供に対しても暴力を振るう」

隊長が独り言ちる。

「だが、これは鎧人の問題。こっちに来ない限り手出しする必要はない」

「隊長、それは彼ら、というか彼女らに関わるとquiquii族に不利益があるから言っているのですね?もし、不利益を被らないなら、助けたいですか?」

「...鎧人助けても、攻撃されるだけ...でも、quiquii族は子供を守る」

「もしかしたら攻撃されない方法があるかもしれません」

「ラパス様が大丈夫と言うなら。助けたいです」


『言語解析完了』


「大丈夫です。助けましょう」


隊長は、先ほどまで使っていた毒をしびれ毒に切り替えるよう指示し、索敵班一郎の吹き矢とロビンの弓で先制攻撃を加える。


動かない的に当てることくらいは簡単に出来るようになっているので、すんなりと二人の男を無効化する。


だが、二人が叫ぶ声を聞き三人目が警戒するが、すでにズボンを降ろした状態なのでもたついていると、その隙をついて女性が反撃に出る。


男のベルトについていたナイフを取り、突きかかったのだ。


茂みの方を向いていた男は不意を突かれた様子だったが、それでもベルトからナイフを抜き取った気配を察したのか、ぎりぎりでナイフを回避する。女の方を振り向きざまに足で腹を蹴り飛ばす。


そのまま、腰の剣を抜き女に振り下ろす。


が、当然二人しか無効化出来ないことは最初から分かっていたので、三人目には投石器から放たれて石が飛んで来た。石は無防備な男の後頭部に当たり男の攻撃は中断する。


頭を抱えうずくまる男の腕にロビンの放っ第二射目の矢が刺さり無効化される。

全員無効化され危険がないことを確認したラパスは女性たちへと話しかける。


「大丈夫ですか、御二方?」


男三人がいきなりの攻撃を受け無効化されるまで1分もかかっていない。

突然のことで驚いている女性たちの前に出たのはラパス一人だ。

ゴブリンが出てくると再度パニックに陥るはずだから。


女性たちは答えない。


いや、一人は腹を蹴られ転がっているし、もう一人は縛られたままなので返事をする余裕がないのだ。


ラパスはまず縛られていた女の子の縄を解く。


「君はケガをしてないか?」

「私は大丈夫。それよりリンを見てあげて」

腹を蹴られた女性はリンと言うらしい。


近づいて様子を確認する。

「リンさん、身体を起すよ。痛かったら言って」

そう言って蹴られた箇所を確認する。

「痛い!」

右の肋骨にひびが入っているようだ。

「ひびが入っているようですね。あまり動かない方がいいですが、これからどこへ行く予定だったのですか?」




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