レンガで窯作り

名前つけ祭りが終わり興奮が過ぎ去ったあと、本格的な設備強化が始まった。


まず、地下に水が湧くようになり、ふんだんに使えるようになったので毎日手の空いた者に泥をこねさせ始めた。

そのこねた泥に枯れた草などの繊維を混ぜ型枠に入れ形を整えてから取り出し、天日干しにする。


ちなみに型枠は手先の器用なヤジリに作ってもらった。寸法は適当でも良かったのだが、どうせなら今後のことも見据えて元N国の規格寸法10x21x6センチに合わせてもらった。


日干しの途中で半分にカットした、半分サイズも作成。


日干しレンガが出来上がると、今度はそのレンガを使って窯を作ってもらう。

ここでの責任者は燻製部屋作りでも活躍した大工のタクミだ。


彼女が中心になり泥でレンガを積み重ねていく。

下に火室、上はレンガを横に二列敷いた底と中央に仕切りを作り、焼きたいレンガを縦に積む。


壁もしっかりと泥で固める。

天井用には少し薄くて大きめのレンガ、もとい瓦もどきを用意してあるのでそれを四方の角に斜めに積み穴を徐々に小さくし完全に覆い隠す。

ただ、ここは空気が抜けるので泥で固めることはしない。


火室に火を入れゆっくり温度を上げる。

最初は水蒸気がたくさん出て温度は上がらない。窯自体も焼き締める必要があるから急がない。

温度が上がりだしてからさらに半日ほど焚き続け、終わったら夜の間に冷ます。


次の日、十分冷えたことを確認して天井の瓦を外し、中から出来上がったレンガを取り出す。


そこからは初日より窯自体の水分が抜けているので温度は上がりやすいが、繰り返し作業となる。窯焚き作業の責任者は生産班のハマ(ハンマー使いなので)に任命する。



出来上がったレンガを使い別の窯を作るのはタクミ率いる生産班だ。

今度の窯は炭焼き用だ。

大体の構造は同じなので彼女なら大まかな指示だけで十分作ることができる。


炭焼き窯を作っている間に行うのは、生産班で斧を持つジャックやその手伝い達で彼らは炭にする木を切る係だ。

大木を倒すというより倒木から薪を作る感じだ。まだまだ、周囲に倒木が多いのでこの方が楽なのだ。

いくつもの窯を作り、同時に焚いているので燃料の薪も必要だから手の空いた戦士たちにも手伝ってもらっている。


炭焼き窯が出来上がると上から木を詰めていく。

一番外側は細い枝や葉っぱなど燃え尽きてもいいものを詰め込む。

煉瓦窯と炭焼き窯の違いは空気穴が四方の底についていることと、燃焼室がなく寸胴になっていることだ。


そして、火は上から入れる。

ここでも瓦もどきを使い天井を塞ぐが、中央だけは開けておく。

そこには火の付きやすい細めの木や草を詰めてあるので、火種を入れると空気の流れに逆らい段々と下へ火が下がっていく。


温度が上がるに連れて、壁から煙が出てくるので泥で塞ぐ。


一番下まで火が到達したのを空気穴から確認できたら、全部の穴を塞ぐ。

四方の穴は半分サイズのレンガと泥を使って、天井の穴は瓦もどきと泥で。

ここでも煙が漏れ出てきた場所には泥を付けて塞いでおく。

こうして、塞いだ窯をまた一晩放置し冷ます。


次の日はさらにもう一台の窯を作る。

今度の窯はもっと細く高い構造で、窯というよりは煙突だ。

底はピット状につくり、ノロを外へ出すための溝も切ってある。

空気穴も2箇所開けてある。

そう、これはたたら製鉄炉だ。

かなり高温まで温度を上げる必要があるので、初日は乾燥させるため、低い温度で焼くだけに留める。


この温度になると自然な吸気だけでは不十分なので、フイゴの制作も行う。

まだ、空気を漏らさない構造のフイゴを作れるほど精密な工作はできないので、粘土を使った陶器製のフイゴを作る。

ノズルの長い急須のような形だ。

中に4枚の板を取り付けた棒を差し込みその棒を火おこし器用の弓で回すだけだ。

簡単な作りの原始的なフイゴだ。


翌日、製鉄を始める。

鉄の材料はシェルター内に大量に残るサビだ。

ボイラー、ポンプ、エレベーター、鉄筋、調理器具、その他諸々の鉄製品の残骸だ。


まずは煙突内に詰め込んだ木炭に火をつける事から始める。

この頃には生産班は火の扱いには十分なれているので手際がいい。


いつも使っている窯と違い火力が強いので、フイゴで風を送るたびに煙突から炎が吹き出す。

本来、温度計などない状態で行うので火の色などで判断する必要があるのだが、ここは、ラパスの持つセンサーで確認する。


なかなかうまく温度が上がり1時間もかからず1300度に達したので、サビ鉄を加え始める。もちろん木炭も同時に追加する。一応、食べ終わったカタツムリの殻も放り込んでおく。


カタツムリの殻はほぼ石灰なので不純物の融点を下げて溶かし出すのに役立つと考えてのことだ。ゴミを焼却処分するためではない。


下がった温度が十分に上がればまた、サビ鉄と木炭を加える。


その繰り返しを続けること約3時間、木炭が先に尽きてきたので終了とする。


結果から言うと、鉄はできた。


初挑戦にしてはよい品質のものだ。先人たちが試行錯誤を繰り返した近代的たたら製鉄のノウハウを使わせてもらったかいがある。それと、サビのカタマリは砂鉄より不純物が少ないのかもしれない。


鉄はできたがまだ、鉄器時代のスタートラインに立てただけだ。

鍛冶を行うには知識だけでなくスキルが必要なので、ここからの進みは遅い。

生産班のモチベーションは高いが、新しく覚えることが多すぎるのでこれ以上無理に進めるべきではないかもしれない。


とりあえず出来上がった鉄の中で状態の良いものをハマに渡し、炙っては叩くという作業をしてもらう。これで不足していた斧が一丁できれば製鉄は十分だろう。


製鉄炉はこの一回だけで終了とし、水が入らないよう泥で固め保全しておく。

炭焼き窯も同じく多少の在庫を確保しつつ、保全・終了とする。


代わりに陶芸用の窯を作る。

シェルターのある斜面に隣接した場所に作る。

後でもしかしたら登り窯に改造できるかもしれないのでこの場所にしているだけで、今は普通の丸窯だ。


それに調理用のストーブもシェルター内に作ってもらう。これは煙を外へ出すための煙突作りの方に時間がかかった。


水と泥というふんだんにある材料なので、毎日継続的に作業を行えばいろいろと形のあるものが作られていく。

そのうち、レンガ造りの家などもできればいいと思うが今年は無理だろう。


調理用のオーブンが作れるだけのレンガが確保できたところでレンガ窯も停止させる。


最終的に6つの設備がレンガで出来上がった。

・レンガ窯 →休止

・木炭窯 →休止

・製鉄炉 →休止

・陶芸窯

・調理ストーブ

・調理オーブン


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