食糧事情

「これはダメですね。同じ形で模様のないモノなら大丈夫ですよ。でもこっちはいいですね」


長老の持つ植物の知識でカバーしきれていない部分があることが判明したので、ラパスはそれを埋める手伝いをしていた。

みんなが集めてきた植物や昆虫、そして特に長老が詳しくないキノコ類を選別してあげている。


「ラパス様、こちらの草はどうでしょうか?」

まだ若いが索敵班で働く優秀な若者が、訊いてくる。彼は食べ物を探すことにものすごく熱心だ。

「この草は根っこごと持って来てくれると助かります。あと、この木の実はどこで見つけましたか?」

キノコ類の分類ついでに、普段利用しない草木を見つけたら持って帰って来てもらい、病気やケガなどに有効な植物を探している。

ファンタジーな薬草ほどの効果はないが、それでも薬草は薬草だ。

それなりの効果はあるので季節ごとに探しておいて損はない。


「この実は川のそばの木になっていました。食べられますか?」

「食べられますが、まだ熟していないのであと一月ひとつきほど待つ必要がありますね。緑色から赤色もしくは黒っぽくなったら収穫しましょう。

でも、この木に白っぽい虫がついていたら傷つけないように、葉っぱと一緒に持って帰ってきてくれますか?」

「その虫は食べられますか?」

「ええ、まあ、食べられますが、できればここで養殖をして増やしたいですから食べないでくださいね。あと、カタツムリも見つけたら持って帰ってきてください。

それじゃあ、他のキノコも見ていきますね」

「はい、おねがいします」


取ってきたキノコは結構な数になったが、間違うと大変なので時間をかけて丁寧にチェックする。


「残念ですが、今回は簡単に栽培できそうなキノコはありませんね。

でもまだ春なので仕方ないでしょう。秋になればもっと見つかるはずなので焦らず行きましょう」

栽培はついででしかない。それよりも大切なのは草木の分布を記録してマッピングしていくことだ。

どこに何が生えているという知識をみんなで共有すればより安定して食料を得ることが出来る。


「「「はい、ラパス様!」」」


シェルター周辺の警戒を担当する索敵班の他に弓矢の使い方を覚えた例の若者も返事をする。

彼は誰よりも弓矢の練習を行っていたため、現在quiquii族の中で一番弓が上手くなっている。

そのため、最近彼も外の見回りに連れて行ってもらえるようになったのだ。


子供から大人への過渡期に差し掛かっているので、外に出れることが誇らしげだ。ただ、隊長いわくこの年代の子供は命を落としやすいので、彼が外に出る時はいつも心配になる。


ちなみに彼のことは最初『弓の上手い子』と呼んで区別していたが、今は『ロビン』と隠れた名前を付けて区別している。ロビン・フッドのロビンだ。


ロビンは早く弓で獲物を仕留めたいようなのだが、quiquii族のしきたりでまずは身を隠せるようになること、次に敵から逃げられるようになること、その後でようやく敵を攻撃することが認められる。

とてもquiquii的で生き残ることを最優先した合理的なしきたりだと思うが若者受けはよくないみたいだ。


「ラパス様、東の枯れた大木の付近にグレートボアの足跡を見つけました。

川へ向かうルートのそばですから討伐が必要だと思います。

いかがでしょうか?」早く戦いたいロビンは意気込んで報告して来る。


「子供よ、勝手な報告をするな。あの足跡は古い。

この間、ラパス様が倒されたボアのものかもしれんだろ」

子供と呼ばれたロビンは悔しそうな顔をするが、大人の戦士を差し置いて勝手に報告するのはよくないことなので、言いかえすことは出来ない。


「す、すみません」

「まあ、若者は気がはやるものですからね。それに、グレートボア用の罠もいくつか完成したわけですし、そろそろ積極的に探してもいい時期だと思いますしね」

「それじゃ、ボクもっ…」

「いえ、ロビンにはまだ早いでしょう。これは危険な任務ですから焦らずまずは先輩方から課せられたノルマを達成してください」


「「「「!!!!!」」」」


「ロ、ロビンって、ボクの名前ですか!?やったー、ラパス様がボクに名前を授けて下さったー」

この喜びようを見ると、いまさらなかったことには出来なさそうだ。

「すみません。各人を区別できないと不便なので名前を勝手につけてしまいました」

ロビン以外のみんながとても羨ましそうに彼を見ている。


「ラパス様、もしかしてわしら全員に名前をお与え下さるのじゃろうか?」

みんなが訊きたかったことを長老が代表して訊いて来た。

しかも、期待に目を輝かせて。

もう、ロビンとサトシ以外には名前を付けていないとは言えないとは口が裂けても言えない。

「え、ええ。もし、それで問題なければ」


「「「「ありがとうございます」「わぁぁーーー」「ヤッター」」」」


皆が口々に喜びの声をあげているのを聞いて、そんなに名前が欲しかったのなら早く言ってくれればいいのに、とラパスは思うのであった。

いろいろ気を使って勘ぐっていたが、必要なかったようだ。


名前を付けることは決まったが、そんなに簡単に名前が出てくるわけでもないし、せっかくならみんなの特色が現れるような名前にしたいので、一人づつ名前を言い渡すという建前で少し時間を稼ぐ。


当然、一番最初に来るのは長老で、次に隊長など肩書のある面々である。彼らとは一番多く関わっているのでまだ名前を付けやすい。


「長老に相応しい名前はこれしかないでしょう。『ヨーダ』でいかがでしょう?」

「わしの名前はヨダですか。おおー、ありがたや。この年になって名前をいただけるとは、このヨダもう思い残すことはありませぬじゃ」

いや、それじゃ依田よださんみたいなのでそれほど長老っぽくないです、とはもう言えないぐらいの感動っぷりだったので、それでいいことにしておく。


「次は隊長ですね。隊長の名前は『ケン』でどうでしょうか?古代語で剣を意味しています」

これはロビンに弓にちなんだ名前を付けたので、その方が分かり易いと思ったのだ。

「素晴らしい名前をありがとうございます。わたしの武器は剣なのでぴったりです。どうも遠距離武器の素質がないみたいですから、今後もこれを磨いて行きます」

隊長も弓矢、吹き矢それに投げやりなどすべて頑張っていたが、初めてのことを学ぶ速度は若い子らの方が早いようなので、隊長には指揮と守りを担当してもらう方針が決まっていた。

隊長は胸に拳を当てる敬礼のポーズを取り、部屋を出る。


次は班長たちだ。

この日はそんな風に一日が過ぎていった。




・戦闘員:14名

警護班

 -隊長ケン:  男、25歳、小剣

 -ノッポ:   男、18歳、手鎌+投げやり

 -ミカ:    女、14歳、こん棒→投げやり

索敵班

 -班長ハンタ: 男、27歳、小剣+吹き矢

 -しずか:   女、25歳、投石器

 -一郎:    男、16歳、こん棒→吹き矢

 -ロビン:   男、 9歳、弓

防衛班

 -班長ランス: 女、19歳、手槍+投げやり

 -ジャック:  男、30歳、手斧

 -マイナ:   男、24歳、つるはし

 -ハマ:    男、20歳、ハンマー

 -次郎:    男、15歳、こん棒

 -四郎:    男、13歳、こん棒→吹き矢

 -五郎:    男、12歳、こん棒→投げやり


・非戦闘員

食料調達

 -キノミ:    女、20歳

 -アジミ:    女、13歳

 -バグズ:    男、11歳

 -ウタ:     男、10歳

 -マイ:     女、 9歳

調理

 -シェフ:    女、28歳

 -スー:     女、18歳

 -オヤジ:    男、30歳、保存食

 -クロ:     男、 8歳、保存食

生産

 -タクミ:     女、13歳 、大工

 -ヤジリ:     女、 8歳 、矢尻・小物

 -サトシ:     男、 7歳 、学生

その他

 -ヨダ:     男、51歳、長老

 -オジ:     男、32歳、雑用

 -オカン:     女、30歳、保育・雑用

 -エミ:     女、 8歳、子守・雑用

 -チョコ:     男、 5歳、雑用

 -幼児3名:未定

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