三日目 安全対策3 弓矢

索敵班や戦士たちが材料を集めてくれている間に壊れた弓の修理を行う。

見たところ弦が切れているだけだ。弦に使える素材も集めないといけないが、とりあえずは彼らが持っていた麻のロープをほぐして弦に仕立て直す。

この間仕留めたグレートボアの皮を生皮きがわに加工してくれているのでそれが出来上がれば、使うことも可能だろうがまだ出来上がっていないので今は麻のロープ一択だろう。


ちなみに、長老によると彼らは皮をなめすことは出来るようだ。

何人かが木の実を口に入れかみ砕き、その後グレートボアの皮をなめていたのを見かけたがあれがなめし工程なのかもしれない。

もしくは皮に残った肉を食べていただけなのかもしれないが。


それはそうと、弦作りを始める。少しするとサトシが起きて来たので、手伝ってもらう。

彼は作業を始めるとすぐになぜ他の紐ではダメなのか知りたがった。

そこで、弓は張力で矢を飛ばすと言う説明をしてあげた。


なるべく強く弓を張れば張力が高まるのでより速くそして遠くまで矢を飛ばせる。

その為、強い紐を使った方が有利なのだと説明すると、今度ロープのままの方が強いのになぜロープを細く編み直しているのかを知りたがった。

まったくその通りだ。


説明不足を補う。

まずロープのままだと重くなる。そして、空気抵抗を受けるのでたとえ張力が高くても弦の返りが遅くなり、矢の速度も遅くなる。

なにより無駄に多くの材料を使用してしまうのでもったいない。


説明をしている間に紐が撚り上がり、弓の修理が終わった。


今度は矢の製作を始める。と言っても、まだ竹を取りに行った班が戻ってきていない。

矢じりは別に必要ないのだが、せっかくなのでグレートボアの骨を使って作ることにする。



専用の道具がないのでナイフで削るだけのちまちました作業になる。サトシは原理が分かってしまうと興味がなくなり飽きてしまった。まだ、子供だから仕方がない。


その代わり非戦闘員の女性一名がとても上手に加工を行ってくれている。

一度やって見せただけなのに、その後は独りで黙々と作業を行っている。

その正確で素早い作業には文句のつけようがないので口出しはしないで置く。


そうしている間に、戦士たちが竹を持って帰って来たので、矢のシャフト作りを始める。

索敵班には鳥の羽を集めて来てくれるよう頼んでいるのでもう少しかかるようだ。


シャフトづくりに重要なのはまっすぐであること。そして、矢は消耗品なので同じ長さのものを大量に作る必要がある。


自然の素材なのでまっすぐなものを探すのは本来難しい。

だが、今回は必要とされる矢の長さが短いことから難易度はそれほど高くはないし、多少の歪みは火で炙って修正可能だ。


同じサイズにするのは熟練職人ではないので感覚には任せられない。

そこで、基準となる長さの木の棒を作り、それに合わせて竹を切ってもらう。


シャフトにするのはすべて小指ほどの細い竹なので簡単な作業だ。

ただ、ある程度太さを揃えたいのでここでも基準器を作る。

基準器も竹製だ。

この基準となる竹の内側を通れないとダメという太過ぎを取り締まる基準器、そしてこの竹の内側を通ってはいけないという細すぎを取り締まる基準器の二つだ。

あまり厳しくしても意味がないかもしれないのでとりあえずは矢じり側の太さだけをチェックすることにした。


こうして選ばれたシャフトを今度は回転させながら火であぶり、わずかな歪みを取って行く。

その次は、真っすぐになったシャフトから節を削り平らにする。そして、矢じりを取り付け、後は羽を待って取り付ければ完成だ。


まだ完全な分業制にはしていない。

みんなには色々体験してもらいたいからだ。

唯一矢じりづくりの女性だけは完全に分業体制だが、矢じり作りが一番手間なのでそれはそれで問題ないだろう。

ここがボトルネックになるため矢じりをつけるなら矢の生産量は限られてしまう。


そこで、一部は真っ直ぐな木の枝や太い竹を割って、矢じりを取り付けない矢も作る。

矢じりの部分はただ削って尖らせるだけなので簡単に作れる。

一応焼いて固くするのでそれなりの貫通力はあるだろう。


その様なことをしていると、索敵班も帰って来て羽も手に入った。

羽は半分に割って、一本の矢につき3枚の半割れを樹脂と紐で取り付ける。

これで矢の完成だ。


「誰か試してみたい人はいますか?」

そう問いかけると真っ先に手をあげたのは最初から弓矢に一番関心を持っていた若者だ。

再度隊長に確認すると、頷き返してきたので、実験台になってもらう。


弓のつがえ方や引き方、狙いの付け方など一通り教えるが、ラパスとて机上の知識しかない素人なので教えられるのは一般論だけだ。

後は慣れてもらうしかない。


余った竹を使った的をいくつも並べ、試し打ちをしてもらう。


一射目は当然外れる。

というか、届いてすらいない。

周りから笑い声が起きる。

恐らく強く引いて弓を壊わすのを恐れおっかなびっくり引いたのだろう。


二射目は先程より力を入れて引いたようで距離的には届いていたが、見当違いの方向へ飛んでいった。

リキみ過ぎたようだ。

もともと素人が修理した弓と一から手作りした矢だ。

バラつきがあり、ベテランでも的に当てるのはたやすいことではない。

素人にはもっと大きな的でないと難しいかもしれない。

とりあえず前に飛んでいるのだから及第点をあげるべきだろう。


三射、四射と外しながらもしばらく練習を続ける。


「ラパス様、見本を見せて頂けないでしょうか?」

何度も練習し、すべて外した男の子が納得のいかない顔でこちらへ弓と矢を突き出す。


「見本と言っても私も初めてですが、型だけは過去の達人を真似てみますので参考にしてください」

そうは言ったものの、ここで外すとみんなの弓矢に対する興味と言うか信用が無くなる気がするので少しずるをする。

何度か弓の弦を指で弾き張り具合のデータを収集。

そのあと矢を目の前でくるくると回し、形状と重さのデータを収集。

それらデータから最適な張力となるよう弓を引き、方角と角度をを定め、矢を放つ。


カランッ


的の竹にあたり弾き飛ばす。


「「「オオ―、さすがラパス様―――」」」


拍手喝采の中、一際目を輝かせている男の子に弓を返すとさっそく私が今行ったことをそっくりそのまま真似し始めた。

空弓をはじく所作から残心まで丁寧に行い、三本目の矢が的をとらえた。


「ラパス様、当たりました!」

それを見て大人たちや他の子供たちも弓を使いたくなったらしく、順番待ちができた。

みんなが興味を持ってくれてよかった。

ただ、まだまだ矢じりの数が足りないので矢じりなしの練習用の矢を使い回してもらう。


みんなには順番待ちをする間にしてもらいたいことがある。


穴掘りだ。


深い穴を掘って落とし穴を作るのだ。


そう、これが安全に攻撃をするもうひとつの方法だ。

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