閑話 サトシの回想
僕は生まれつき体が小さく、運動神経の鈍い落ちこぼれだと言われて来た。
僕らの巣の周りには強い獣がたくさんいるからなかなか外に食べ物を探しにいけない。
いつもわずかな食べものをみんなで分け合って...取り合っている。
そんな中で落ちこぼれとレッテルを貼られると生きていくのがよけい大変になる。普段はそれほどでもないけど、食べ物がないときや巣が攻められたとき大人たちは助けてくれない。
みんな優秀な子供たちや妊婦を助けるので手一杯だから。
待っていては助けてもらえない。
だから、何が起きているのか自分で理解し、どうすれば助かるのか自分で考えなくちゃいけない・・・と、やさしくしてくれる長老に言われた。
そういわれても、何をどうすればいいのか分からない。
そういったら、鎧人に攻められた時どういう行動をとるべきか考えておきなさいと言われた。
僕らの巣にはいくつもの入り口があるし、いくつもの行き止まりになった通路もある。
古い巣になればなるほど複雑になるって長老は言ってた。
僕らの巣はとても古く大人たちもすべての通路を把握しきれていない。
だから、考えて進まないと迷ってしまう。
でも大人たちに質問をしても答えてくれない。
「この通路はどこに通じてるの?」
「ここは入っちゃだめだ」
「鎧人はどこに住んでるの?」
「危ないから奥に入ってろ」
「なんで火が揺れてるの?」
「火に近づくな」
こんな感じで何を質問しても返事はしてくれるが、回答はしてくれない。
だから自分で調べた。
お陰で外に通じている通路も何本か分かったし、鎧人がいつも現れる方角も分かった。
ちなみに火が揺れるのは空気が動いているからというのも分かった。これは風の強い日に巣に吹き込む風で松明が消えたから分かった。
そして、とうとうその日が来た。恐れていた鎧人がやってきたのだ。
見張りもいたはずなのに、警戒の叫び声もなかった。
まだ日が昇る前の暗いうちだったのでほとんどの人は寝ていた。
それでも、だんだん巣の中が煙ったくなって息が苦しくなってきたので、何かおかしいと気づいて起きた。
みんなが慌てて外に飛び出して行ったら、待ち構えていた鎧人に殺された。
そこでようやく鎧人が来たのだと分かった。
メインの入り口がダメだったので他の通路から逃げようとしたけどみんなふさがれていた。
それでみんなパニックになった。
みんなたくさん煙を吸って動けなくなった。
僕は背が低かったからまだ動けた。
でも、今までいろいろ考えて、怒られながら調べた通路は全部ふさがれてだめになっていたから、どうすればいいのか分からなかった。
でも、いつもの習慣で一生懸命考えた。
何が起こっているのかよく観察していると煙の濃い通路と薄い通路があるのが分かった。
気づいたのは煙の濃い通路の松明が消え始めたからだ。煙の薄い通路にあった松明だけ火がともっていたのだ。
だから、みんなに声をかけて、煙の薄いほうへ駆け出した。
本当にこっちでいいのか自信はなかったけど、じっとしてると死んでしまうから自分で考えて行動した。
みんなは信じてくれなかったけど、長老が来てくれたからその後に続いてで他の人も来てくれた。
途中通路は細くなってほとんど岩の割れ目みたいになったけどそれでもおいしい空気のにおいがしたからその方に進んだ。
生い茂ったシダをかき分けると外だった。
長老も使ったことのない出口だったし、鎧人もいなかった。
少しほっとしたら、さっきまで朝だったはずなのにもう日が沈みかけていることに気づいた。
それからみんなで急いで逃げた。
なるべく遠くに行こうと必死になって逃げた。
僕は足が遅いし体力もないからおいて行かれそうになった。
だから、持ってきた松明を離さないようにしていた。
他には火を持ってる人はいなかったから暗くなると前の方を進ませてくれた。
本当は前を歩くのは危険だけど、置いていかれるのはもっと危険だから文句は言わなかった。
みんな疲れていたけど夜通し休まず歩いた。
途中小川を見つけてのどを潤した。
でもその後、川の中を下流に向けて歩かされた。
そしたら滑って転んで松明を落としてしまった。
みんなにひどく怒られてしまった。
でもそれなら乾いたところを歩かせてくれたらよかったのに、と思ったが反論はしなかった。
すぐに夜が明けて白み始めたので明かりがなくても大丈夫だったが、大丈夫じゃなかったのはみんなへとへとなのに安全に隠れる場所がなかったことだ。
夜が明け切る前に小さな丘のふもとにあったくぼ地を見つけられたので、そこに隠れて休むことになった。
すると、一人の女性が窪地の奥で休んでいるときに岩に切れ目を見つけたので、戦士たちが中を偵察しに行いった。
そこからは急展開だった。
戦士たちは戻っくるとき鎧人の様な恰好をした人を連れていたのだ。
でもその人は鎧人の匂いがしなかったし、僕らと同じサイズだったのでみんな怖くはなかった。
それでも、その人が僕らの言葉を話し始めた時はびっくりした。
長老がその人のことを僕らの英雄だと言ったらみんなすぐに納得した。
なぜならその人は僕らをこの巣穴から追い出すつもりはなく、反対に守ってくれるといったからだ。
少し難しい言葉遣いをされるので、僕はよくわからなかったけど、大体そんなことを言ったと思う。
その人はラパスという名前を持っていた。
ラパス様は会ったばかりの僕らに火を起す秘技を伝授してくれた。
その上、なぜ木を回したら火がつくのか質問したら他の大人たちと違い理由を教えてくれた。
「摩擦熱」というものが原因らしいが、説明は難しすぎて理解できなかった。
しばらく考えてみたがやっぱり分からなかったので、後で聞きにいったら「手をこすり合わせると手のひらが温かくなるでしょう。それをもっともっと早くすれば、もっともっと熱くなってそのうち火がつくと思いませんか?」と分かりやすく説明してくれた。
質問しても嫌がらないし、なんだかうれしそうに答えてくれるのでたくさん質問をしたら他の大人に怒られた。
また、明日質問をしようと思う。
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