二日目 燻製

quiquii族では今までほとんど保存食作りを行ったことがない。理由は大きな獲物を捕らえる機会が少なかったことや、すべて腐る前に消費できていたこと、そして人間よりお腹が丈夫なため多少古くなっても大丈夫といったところだ。


グレートボアの肉は600キロぐらい取れたので体の小さいquiquii族ならひと月分くらいあり、さすがに保存食にしないと無駄になってしまう。


それに保存食を作れるようになると、日々の採取高に左右されず安定して食料を確保できるようになるので、余裕を作るためにも大切なことだ。


そのため、今回作った燻製部屋での作業も臨時に保存食係として任命された二名が主導する形で行ってもらう。


保存食の作成においては下ごしらえも大切で、長く保存しようとすればするほど時間がかかる。今回は初めての試みでどこまでできるのかをテストする意味もあるため出来る範囲で行う。


結局、燻製部屋の改修に時間がかかってしまい夕方になったが、塩抜きのあと乾燥させていたので、燻製は夕食後に行うことにする。


夕食はボア肉だけではなくネズミのような小動物の肉と山菜や木の根、木の実が中心だった。悪くなる前に食べてしまう必要があったからだろう。


ボア肉は大半を保存食にする予定で、今日出たのは骨の周りなどに残ったものや皮についていた脂肪が中心だ。


食事が終わるとみんな興味があるようで燻製部屋の前に集まる。


扉のあった場所は瓦礫を粘土で固定し塞がれている。


将来的には毎回取り壊さなくても良いように開閉式の扉をつける予定だ。今回は一番下の部分を塞がなかったので、ここから小柄なゴブリン達が中に入りセットアップを行う。


中に入った臨時保存食係二名に下ごしらえの終わったボア肉を渡し、吊るしてもらう。吊るし終わって出てきたら用意しておいた薪に火をつける。部屋が大きいので最初はあまり気にせず勢いよく燃やす。


しばらくして温度が上がると、今度はそれ以上温度を上げないよう、それでいて煙を十分に出せるよう試行錯誤を繰り返す。


鉄鍋などがあれば熱した鉄鍋の上にスモークチップを置くなりといった正規の方法が取れるのだろうが、ないものねだりをしても仕方がないので現場の工夫で対応してもらう。


ラパスには過去の知識はあるので、アドバイスは可能だが、アドリブで考える能力はゴブリンたちとそう変わらない。特に昨晩火起しの原理を探求していた好奇心旺盛なゴブリンの子供は色々アイデアを出して試すのが好きなようだ。


ラパスも正解を持っていないのでアイデアを出してくれる存在はありがたい。ただ、燻製の目的は肉を乾燥させることなので水をかけて火を弱めるのは良くないとだけ伝えておく。


そうしてみんなの知恵を借り、燃えている木の間隔を広げたり、木の種類を変えたり、蓋をして酸素の供給を減らしたり、壁の割れ目を外から塞いでみたり、色々試しているうちにうまく煙を出せるようになった。気づいた時には夜が明けていた。

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