初日 優先事項
quiquii族を取り巻く状況を確認すると、早急に対処するべき優先事項はすぐにまとまった。
・火
・水
・食糧
・安全
大きく分けてこの4つが優先事項だ。
基本的に彼らのおかれている状況はあまり明るいものではない。
昨晩、命からがらこのシェルター跡に逃げ込んで来たらしく、ケガをしているものもいるし、食料もほとんど持っていない。
シェルター内は日が当たらないので外より寒く、身を寄せ合って震えているような状況だ。戦闘能力のない子供も多いので今攻められたら守り切れないだろう。
平和を実現するためには身を守る実力、つまり戦力は欠かせない。
まずは防衛の役にもたち、生活にも必要な火を得なくてはいけない。シェルター内の設備はもうどれも機能しないだろうから、火を起す道具から作る必要がある。
これまでの話から彼らの知性が火を扱うことの出来るレベルを超えていることは分かっている。火打ち石を使って火を起こす事もできるらしい。ただ、前の洞窟から逃げる際に火打ち石を持ち出せず、なんとか持ち出した火種も運んでいた子供が転んで消してしまったらしい。
それ以外にも火を起す方法は色々あるので、とりあえず外に出ることにする。
シェルター本来の入り口は溶岩で塞がれているので、quiquii族が入ってきた壁の割れ目から外に出る。
知識として過去の外の世界について知っているが、実はこれがゴーレムにとって初めての外だ。
空気の美味しさがわかるわけではないが、感慨深い瞬間を堪能する。大きな木々に囲まれ、知識として知っている過去の樹海と比較し、その変化に思いを寄せる。
周囲に見える木々は広葉樹と針葉樹が混じっているが、どちらも背が高い。
ただ、シェルターの入り口周辺や真上にはそれほど大きな木はなく、細くて傾いた木々や、低木だけだ。恐らくコンクリートがあるので深く根が張れないのだろう。
壁の割れ目は緩やかな傾斜に沿って出来ており、そこだけ周囲より少し奥まった窪地のようになっている。quiquii族は逃げている時、この窪地に身を隠そうとしてシェルターを見つけたようだ。
入り口前方は見晴らしがよいし、入口のある傾斜を登ればすぐ平らな台地になるので、周囲を警戒するにはちょうど良い。
「子どもたちは乾いた細い木の枝や枯れ葉などを探してもらえますか?戦士の方は周囲を警戒してください。その他の大人は薪になる大きな木の枝をお願いします」
樹海では様々な種類の枯れ木がふんだんにあるので摩擦熱で火を起こす方法が最適だろう。
彼らが自立して自分たちで暮らしていけるように、住んでいる環境に適した方法を教えてあげることにする。
quiquii族の子どもたちは外が怖いのか、すばやく走って茂みのそばへ行き手頃な木の枝や木の皮、枯れた雑草などを拾ってきた。
「最初はこれで十分でしょう。少し準備をしますので、その間もっと薪になりそうな大きな枝も集めてください。なるべく乾いているものをお願いします」
持ってきてくれた木の枝の中でまっすぐのものを選び、小枝を払う。木の皮に溝をつけ、大人の一人が腰に巻いていた紐を借り、弓引き式の火起こし器をつくる。
ラパスの手は金属製なので持ち手も不要だが、後で彼らにも挑戦してもらいたいので借りたナイフを使って回転する枝を支えるためのくぼみのついた持ち手部分を作成する。
薪も集まったようなので、火起こしの実演を始める。
みんな興味津々のようで押し合いながら眺めている。
紐を棒に巻き付け回し始める。
「「「「ハー」」」
煙が出始めると感嘆の息が漏れる。さらに速度を速くする。
「いまです」
道具を作るときから一番近くで食い入るように見つめていた子供に合図を送る。
すると彼は教えておいたように乾いた雑草をほぐしたものを火種に加え、軽く息を吹きかけてくれる。
「「「オオオーーー!!!」」」
火がつくと周りから大きな声が漏れる。
そこからは彼らも慣れたもので、すぐに小枝をくべて火を大きくし、より大きな枝、そして薪に火を移し、簡単には消えない状態にしてくれた。
これで、火の問題は解決した。
だが、好奇心旺盛な小さな助手は自分でも火起こしをしてみたいらしく、大人たちが火を大きくしている間、道具の使い方を訊いてくる。
誰にでも出来ると言うことを示すために最適なので、彼に即席の道具を渡し使い方を教えてあげる。
器用なもので10分ほどの試行錯誤で火を起しに成功する。
それでも彼の熱意は冷めず、まだ熱い木の先端をさわって騒いだり、焼け焦げた木の皮をなめたりして、なぜ木をこすり合わせるだけで火がつくのか調べていた。
「「「キャァァァァァァ」」」
叫び声がするので振り向くと見上げるほど大きなイノシシが森の中から頭をのぞかせていた。
「子供中へ。班長、戦士、武器を取れ、散開しろ」
隊長が的確な指示をだす。
「ラパスさま中へ。グレートボア強い。quiquii族弱い。逃げて」
けなげなものである。小さなquiquii族だが、弱いものを守るために命を懸ける勇敢さを持ち合わせているようだ。
「隊長殿、お気遣いありがとうございます。ただ、ここはわたしが盾になりましょう。自己修復能力がありますので多少傷ついても問題ありませんからね。それに、念のため確認しておきたいこともありますので」
そう言うと、彼らの前に飛び出し、グレートボアが突進するため頭を下げ構えていた牙を押さえつける。
「申し訳ないのですが、敵意はないので攻撃を止めてもらえますか?」
「ブゥゥモォォォ――!」
『言語解析プログラム起動』
体重が1トンくらいはあるのだろう。全身金属の重いラパスの身体が少し持ち上がる。何とか飛ばされないように、足を開き踏ん張る。
「フガァーフガァー」
しばらく説得を続けて見たが、最終的に『言語解析失敗』と頭の中にアナウンスが流れる。
つまり知的生命体でないということだ。厳密な判定ではないがコミュニケーションを取れない相手と平和な関係を構築することは出来ないので、討伐対象と認定する。
距離を取るため一度突き放し、同時に後ろへ飛びのく。
そこで剣を始めて構える。
朽ちることなく共に悠久の年月を過ごした愛剣だ。
一応、剣の使い方はシミュレーションプログラムを走らせたので分かっているが、それはY○uTube動画を見て剣術を覚えるのと大差がない。実戦とシミュレーションの誤差を補正する必要がある。
グレートボアが走り出す。その牙が当たる直前に左へ避け、その体に軽く剣の刃を滑らせる。分厚い毛皮に阻まれダメージがあるようには見えないが、剣先に少しだけ血がついている。
グレートボアはシェルター入り口付近に固まっているquiquii族戦士たちには眼もくれず旋回するとラパスの方へ向き直った。
「ブモモモォォォォ―――」
口から汚いよだれを飛び散らせながら威嚇の鳴き声をあげ、再度突進してくる。
ラパスは再び避ける。
が、今度は大きな木の前に立っていたので、グレートボアはそのまま木に直撃する。
ぶつかったグレートボアよりぶつかられた木の方がダメージが大きそうだが、それでもボアの動きを一瞬止めることはできた。
ラパスはそのスキを見逃さず、あばら骨の間を通すように剣を突き刺し心臓を
すぐに剣を引き抜き距離を取る。
「ギュイイイイィィーフゴッオォォォオ」
あたりかまわず暴れ出したグレートボアの動きは予測し難く遠巻きに見ているしかない。
その猛威から逃げ回ること時間にして約1分。
グレートボアは散々暴れた後、こと切れるように倒れた。
「「「「ウワァァァぁ――――、ラパス様――――」」」」
シェルター内に逃げていたゴブリンたちが駆けだして来た。
みんなに囲まれ賞賛のまなざしで眺められる。子供たちも飛び跳ねながら出て来て死んだボアに近づき棒でつついている。
「みなさん、早速ですが日が高いうちに解体してしまいましょう。血抜きもしたいのでロープを持って来てもらえますか?」
その後、みんなでグレートボアを解体した。
大きさが大きさゆえに、みんなで行っても時間がかかり、終わる頃には日が暮れていた。
地下は涼しいので、すぐにダメになる事はないだろうからある程度まで終わると作業を中断し終了とする。
仕事の後は早目に消費した方がよい内臓類を食べてもらう。
調味料も特に使っていないようだが、みんなひさびさにお腹いっぱい食べられたようでとても満足していた。
もちろん、ゴーレムに食事は不要だが、みんながお供え物のように持ってくる食べものを断るのが大変だった。
「ラパス様、これほどの腕前とは。疑っており申し訳ありませんでした」
みんなが食事に集中している間に隊長が一人で話しかけて来た。隊長の言っている疑いとは腕前に対するものだけではないのだろう。
先ほどまでと比べると戦士たちの態度にも変化がみられる。
恐らく長老の言葉だけでは、平和をもたらす英雄だと完全に納得は出来ていなかったようだ。まあ、英雄ではないが。
「お気になさらず。こちらも突然やって来て、すぐに皆様の中に完全に受け入れてもらえるとは思っておりませんでしたから。徐々に理解してもらえれば、そして最終的に平和を実現するのを手伝っていただければこちらとしてはありがたいです」
「しかし・・・いえ、そのセリフはわたしが言うべきことでしょう。ぜひ、こちらこそお願いいたします。そして、もしよければ、先ほど見せて頂いたあの剣技を手ほどきいただけないでしょうか?」
そう言えば、彼らの言語についてデータが溜まって来たので、最初の頃より隊長が流暢に話しているように聞こえる。
「ああ、あれですか。あれは剣技というほどのものではありませんよ。最初に軽く剣を当てて私の剣がグレートボアの体を傷つけることが出来ることを確認しました。そしてその後、肋骨を避けて急所である心臓をついただけです。グレートボアの身体構造が大きいだけでイノシシと同じだと推測したのですが、合っていてよかったです」
「急所ですか・・・そう言えばその様なことを考えて戦ったことがありませんでした。あの巨体を前にすると足がすくみ、あの咆哮を耳にすると体が固まってしまうので、いつもどうやって生き延びるかとしか考えたことがないのです。そんなに冷静に敵を観察しておりませんでした。ありがとうございます」
その後、隊長に相談事項を話すと彼は一礼し、みんなのもとへ戻って行った。とてもまじめな性格をしている事が分かる。
その後、まだ納得がいかない様子の火起し少年が戻って来て、質問攻めにあったので、夜が更けるまで摩擦熱に関して講義を行い一日目が終わった。
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