第一章 緊急対策
初日 異世界がやって来た
ガコーン、ガコーン、ガコーン...ギ、ギギギ、ギギギギーーーッ
もうずいぶん長い間、光も音もない世界に独りでいた。その世界が大きな音でかき乱された。
《quiii...quiquiiiiii》
《...quiiiqui...qui》
《...quiiiiii》
何かネズミのような鳴き声が聞こえるが、何を言っているのか分からない。
『言語解析プログラム起動』
すべての機能をAIに内包するより、特化した機能を独立したプログラムとして開発する方が効率的という理由から分けられていたプログラムを立ち上げる。
「...quiiiquiカquiiiii...quiカ」
低い声の個体が話す。
「...quiii...ニオイqui」
先ほどより高い声の個体が答える。
ドドーン、と大きな音を立ててコントロールルームへの扉が破られ、彼らは入って来る。
あまり警戒している様子はなく、ずっと話し続けている。
明かりを持っていないので姿は見えないが、声が発せられる位置から推定するに小学生くらいのサイズだと分かる。
最初に入って来た二体の他に扉の外に待機している個体もいるようだが、正確に何体いるのかは分からない。
『言語解析完了-言語補正機能をオンにします。』
わたしにだけ聞こえる音声が頭の中に流れる。
言語補正機能が自動的にオンにしたところでデータ量が少ないことからスムーズな訳は出来ないが、補正の効果で多少は自然な言葉へ修正可能だ。AIのリソースを食ってしまうがコミュニケーションをとるためにはしかたない。
人間なのかどうかは分からないが、言語を持つ知的生命体であることは確かだ。コンタクトをとり、外の状況を把握できるかもしれない。
さっそく、全システムを起動させる。
「qui、ナニカイル」
「quiii、ニオイナイ」
システム起動で音は発生しないはずだが、どうやら気配を感じたらしい。彼らはこの暗闇の中、基本的に臭いで状況を把握しているようだが、他の感覚も優れているらしい。
「中、ニオイない、いる。火、必要。」
低い声の個体が外の連中に指示をしている。
「quiii、火ない。quiqui消した。」
外の個体が答える。
「あのすみません。わたしのことをお探しですか?」
システムの起動が完了したので話しかけることにする。
「「quiiiiiiiiii」」
驚かせてしまったようだ。中にいた二人が扉の方へ退くのが分かる。
「ご心配なく、敵意はありませんから」
「お前、言葉分かる。ニオイない、なぜ?」
意を決したのか低い声の個体が戻って来てくれる。
「あなたと匂いが異なるのは、種族が異なるからでしょう。わたしは金属で出来ているので金属の匂いはすると思いますよ」
「金属ニオイする。金属話さない。お前話す」
彼が何者なのかは分からないし、その文明レベルも分からないが、明かりをつける道具を持っていないことからパソコンやAIやロボットなどは理解できないだろう。
「そうですね。ゴーレムと言うのは知っていますか?」
「...ゴレム知らない。知らない長老訊く」
ファンタジー路線の説明も無理だったようだ。
「そうなのですね。まあ、とりあえずゴーレムと言う金属の生き物と思っていただければよいかと思います」
「わかった。お前動く。ついてくる」
ゴーレムの目的は平和な社会を作るのを手伝うこと。
命令の定義の中に人間に限定するという文言はないが、知的生物でないと平和と言う概念が適用されないと考察している。
少なくとも言語を話し、今どこかへ案内してくれようとしている彼らは知的生命体と呼べそうなので、対象候補ではある。
「分かりました。そちらへ行きますので怖がらないでください」
こうしてゴーレムは得体のしれぬ小さな訪問者の後に続き1万2千年ぶりに上の階へと上がることとなった。
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