第34話 終末後の世界
”外界遠征室”にて。
僕たちは、揃って木製の、なんの変哲もないような扉の前に立つ。
この扉はただの扉じゃない。スペースオペラ系のSFドラマによく登場する、物質転送装置というやつ……らしい。
――要するにこれ、モロ”どこでもドア”だよな。なんでもっと無難なデザインにしなかったんだろ。
まあ、この手のパロディはソーシャルゲームあるあるではあるが。
「こっちは準備万端だ」
すると、陽鞠と共に待機要因に選ばれたゴウが、
「では、……いってらっしゃい」
と呟く。
「君のマスターを頼む」
「おまかせを」
すると、扉の隙間から微かに光が漏れてきた。
「………………………………………………………………………………行こう。マスター」
ココアが先導し、扉を開く。
その先は、――どうやら、元は公園だったと思しき小高い丘の上のようだ。
びゅう、と、一陣の風が吹き抜けて、なんだか寒々しい気持ちになる。
「これが地上か……」
そこから望むのは、植物によって侵略された、緑と灰色の世界だ。
廃墟系の写真ならインターネット上に転がっているものを何度か見たことがあるが、ここまで虫食いになった例はなかなかない。
――たしか設定では、文明が崩壊してから百年……とか。
最初、豪姫がこの手の廃墟を見た時、なんとなく気味が悪くて慌てて戻ったと言っていたが、その気持がわからないでもなかった。
ぽっかりと空いた暗闇が、まるで黒い目玉のようにこちらを凝視しているような。そんな気がするのだ。
そしてそれは、あながち被害妄想とも言えなかった。
何せ今日は”狩りの日”だ。街のあちこちにミュータントが潜んでいるはずである。
参考までに、空き時間に調べた僕のステータスを掲載しておくと、
名前:サキミツ カイリ
健康値:831
筋力:199
体力:443
敏捷力:532
魅力:666
知力:901
スキル:なし
装備:非殺傷銃”バグ・ショット”、いつものパジャマ
もうね。
女の子の豪姫に“筋力”で負けてることを知った時の悲しさたるや、ね。
――元の世界に戻ったら、もうちょっと積極的に体育の授業を受けるようにしよう。
しばらくそこで待っていると、マンホールに似た形状のビーコンが赤く点滅し、そこに木製の扉が出現。扉を開くと、狩場豪姫が九人の”運命少女”を伴って現れた。
「よう。生で会うのは久しぶりだな」
「ああ……」
あんまり久しぶりな感じがしないのは、ここんとこ毎晩顔を合わせてきたからだろう。
「っていうか……お前……この状況で……」
僕は、豪姫の揺るがない信念に感服しつつ、
「さすがに、裸でいるのは危険じゃないか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! 今日はいつもと違って靴履いてるから! 動き回るのには問題なし!」
なんかむしろ、露出系のアダルトビデオ感、増したな……、と思ったが、口には出さないことにする。
「怪我してもしらんぞ」
「服がないぶん、スピードで勝負するさ!」
古代のオリンピックは全裸で行われたというが……こいつ……。
まあいい。
こういうときでも、いつもと変わらない豪姫でいてくれることに内心で感謝しつつ、――僕たちは、終末後の世界に一歩踏み出す。
「目的地は、僕の家があるはずの座標だな」
「歩いたらどれくらいになる?」
「そう遠くはない」
そして、ため息をつく。
「歩けば二十分ほど……ただし、連中がいなければ」
先程から、建物の暗闇から何匹か、得体のしれない生き物が顔を出していた。
その外見は、既存のどの動物にも当てはまらない形をしていて、強いていうならゴリラの体格に、ワニのようなごつごつした皮膚をくっつけたような外見をしている。
「ミュータントだ」
「うーむ。……思ったよか、正統派に危なそうな怪物だなー」
豪姫の表情を確認する。少しだけ唇が震えているようだ。寒いからかもしれない。
「それじゃあ、映画版の『運命×少女』みたいにビームが撃てそうな気分になったらいつでも教えてくれ」
「お……おおー…………」
「――ビビってるか?」
「しょーじき言うと、ちょっぴり」
「やっぱり帰るか?」
「やめとく。後悔したくないし」
「だな」
「でも、なんかいま、――中学の時のスキー合宿で、初心者なのになんかの手違いで上級者チームに入れられて、地獄みたいな急斜面をいきなり滑らされたときのことスッゲー思い出してる」
「そうかい」
僕は苦笑して、軽口を叩ける分、相棒がなんとか平静を保っていることに安心した。
すると、僕たちを取り囲むように”運命少女”が立ちはだかる。
少女たちは皆、戦士の顔になって叫んだ。
「マスターと豪姫さんは少し離れて着いてきて下さいッ!」
こうして、戦闘が始まった。
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