第9話 『運命×少女』というゲーム
その後、僕とヒマリが一晩かけて検証・文章化した情報を、ここにまとめておく。
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【僕のスマホ(ワード社製・ホワイトmt型フォン 第三世代)に確認される異常性】
●スマホの中のものに触れられる。
→物を持ったりなどの複雑な操作はできないが、つっつく、触る、機械のスイッチを動作させるなどの作業は可能。
→触ったものには、はっきりと“触った”と触覚に訴えかける反応が見られるが、その原理は不明。スマホの画面そのものには変化は見られないのだが。
●バッテリーが減らない。
→右上の表示は常に満タンを示している。試しに外部電源に接続してみたが、表示に変化なし。バッテリー表示そのものに大した意味はないらしい。
●ゲームキャラであるはずの少女たちと複雑なコミュニケーションがとれる。
→元来、『運命×少女』はかなり高度なAIを搭載したゲームだった。だが、所詮はAIにすぎず、特定のワードに反応して、特定のセリフを機械的にしゃべるだけの存在であった。
→現在の“運命少女”たちは、完全に自立した意識を有しているらしい。ヒマリ曰く、「いつの間にか自由にしゃべれるようになっていた」とのこと。
→まるで、妖精の力で意志を手に入れたピノキオのような話である。
……だが、もしそうなら、その”妖精”は一体、どこにいるのだ?
【運命×少女について】
・『運命×少女』は、とある“施設”を舞台とするシミュレーションゲームで、施設内における生活と安全を維持し、終末世界の住人たる“運命少女”と呼ばれる女の子たちの成長を手助けすることが目的とされている。
・プレイヤーは主に“秘書役”(僕の場合はヒマリ)を通して“運命少女”たちに様々な命令を行う。
・例えば「部屋を掃除して綺麗にしろ」とか、「外界を探検して遺物を収集してこい」、「発電施設を改良して施設の電力を潤沢にせよ」みたいに命令すれば、“運命少女”たちは言われたとおりに作業を行ってくれる訳だ。
【少女たちへのコマンド】
・少女たちに行える命令は、“生存戦略”、“遺物復元”、“外界遠征”の三種類に大別される。
【生存戦略について】
・食糧確保、衛生面の管理、施設の拡充や改装、娯楽の提供など、生活全般に関する作業を行うためのコマンド。
・これを行わないと少女たちは死んでしまうこともあるので、もっとも重要視せねばならない指示である。
【遺物復元について】
・これは、失われた過去の技術(アーティファクトと呼ばれる)を復元し、再利用するための作業。
・これにより様々な超技術を活用することが出来、結果的に少女たちの生活も潤う、という寸法である。
【外界遠征について】
・施設を出て、荒廃した地上世界からアーティファクトを持ち帰らせるためのコマンド。
【まとめ】
・“外界遠征”によって取得したアーティファクトを“異物復元”で再利用して、“生存戦略”に役立てる。――それが、『運命×少女』というゲームの大まかな流れだ。
・なお、この手のソーシャルゲームにありがちなことだが、特にゴールは定められておらず……。
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……と。
それまでノートの上を忙しく走り回っていたボールペンが止まる。
「むう」
――ゴールがないゲーム、か。考えてみれば。
この手のソーシャルゲームは大抵、人気がある限り永遠にサービスが続く。
そして人気がなくなると、火が消えるように消滅していく。
その事実に、得体の知れない不吉さを感じるのは僕だけだろうか。
例えばファンタジー系のRPGであれば、魔王をやっつければエンディングロールが流れるものだ。しかし、この手のゲームでは、そうした明確な物語の終着は設定されていない。
――もしあたしが本当にゲームの世界に来ちゃったんならさ、きっと何か目的があるってことだと思うんだ。
――だからきっとその”目的”を達成したら、元の世界に戻れると思うんだよね。……そう思わない?
仮にもしそうなら、豪姫の物語の結末はどこにある? 何をすればゲームクリアだ?
あいつは……本当にこの世界に戻って来られるのか?
あるいはもう、一生あの世界に閉じ込められたまま、……とかはないだろうな?
もしそうだとしたら、豪姫はどうするつもりだろう。
結論は、――結局、出なかった。
雀の鳴き声に気がつき、ふと空を見上げると、夜が明けようとしていた。
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