第12話 MVP

「ヨシフ・ワタナベは死亡。取引を行っていたミ=ゴ星人十六名の内、十五名が死亡。確保できた一名は――シロウが拘束したミ=ゴ星人。まぁ、今回のMVPね」

 

 報告書を片手に淡々と今回の件を処理していくエルを余所目に、僕は上手く呑み込めない感情を抱いていた。


「ヨシフ・ワタナベの自宅を捜査した所、幾つかめぼしい情報や証拠は手に入った。けれど、裏にいたであろう何者かに繋がることはないでしょうね」

「尋問をしたミ=ゴ星人も捜査には協力的だが、いかんせん知っていることが少なすぎる」

 

 マロウが草臥れた声を上げて、やれやれと首を横に振った。


「ってことは、骨折り損の草臥れなんとかか? 何一つ成果なしってわけか? ご機嫌なニュースだな」

 

 フーが皮肉を言って両手を広げた。


「これ以上の個人情報の流出は防げたでしょう?」

 

 エルが冷ややかに言って続ける。


「ここから先の捜査は警察が引き継ぐわ。各自捜査報告を出したら、この件から手を引いてちょうだい。私たちは――より重要度の高い捜査に切り替える」

 

 課のメンバー全員が「了解」と頷いて持ち場に帰っていった。


「シロウ、少し残って」

 

 エルに引き留められた僕は、二人きりになって彼女の言葉を待った。


「今回の件、スーパーマンが良くやってくれたって言っていたわよ」

「キアヌが?」

「ええ、少しだけ情報の共有をしたの。情報部に貸しをつくる良い機会になったわ」

 

 エルが他の捜査機関と情報の共有を行うことは、非常に珍しいことだった。


「だけどシロウ、今回のあなたの働き――私の評価は低いわよ。対象が重傷を負った時点で確保は諦めるべきだった。確保したところで、目ぼしい情報が出ないことは分かっていたでしょう?」

「まぁ、たしかに」

「だったら、あの場では自分たちの身の安全を優先すべきだった」

 

 僕は肩をすくめた。


「それに危険を冒してまで、ミ=ゴ星人を確保する必要もなかった。向うは捨て鉢になっていて自爆すらありえた。最初の一発で仕留めておくべきだったと私は思うわよ? もちろん情報源を確保できたのは良しとするし、私は結果主義だから文句はないけれど」

 

 そこで、エルの表情は少しだけ柔らかくなった。

 エルの銀色の瞳は、僕の胸の中でくすぶっている感情を見つけたように見開かれた。まるで、僕の心の中を見透かされるように。


「シロウ、現場でこんなやり方をしていると、いつか取り返しのつかないことが起きるわよ? あなたが痛い目を見る分には構わないでしょうけど、そのやり方はいつかあなたの大切な何かを危険にさらすことになる。解るわね?」

「はい」

 

 僕はまるで母親に叱られているかのような気持ちで、エルの話を聞いた。

 エルは静かに頷いた。


「私たちの課は犯罪を未然に防ぐための実行部隊であり、実力組織。もう一度、それを頭に叩き込んでおきなさい」

 

 この課の理念を改めて聞かされ、僕は自分に言い聞かせる。

 僕たちは誰かを助けたり、救ったりするために存在しているんじゃない――犯罪を未然に防ぐために、実力をもって犯罪の芽を摘み、排除するための組織なのだ。

 

 なんだか気が滅入りそうだった。


「シロウ、その上で今回のMVPはあなたよ。それも忘れないでおいて」

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