第6話 ゴッサム

 グリニッジ標準時――19時。


「スペース・ハローワーク」の業務が終了し、残業のない職員が帰宅する閉庁時間。一部窓口を延長している部署もあるが、基本的に全ての部署と職員はこの時間を目安にして一日の業務を終える。


 だけど、僕やアリサが所属している「特別案件及び特殊宇宙人課」は、この時間からが本当の業務開始と言っても過言ではない。それどころか、基本的にこの課には休暇や休日という概念がない。呼び出されれば真夜中であろうと、地球の裏側にいようと――どのような状況にいたとしても即座に業務を開始しなればならない。


「スペース・ハローワーク」が掲げるブラック企業撲滅の理念に最も背いている職場が、その「スペース・ハローワーク」内に存在しているというのは大いなる矛盾のように思えた。


 窓口での業務を終えた僕は、一人庁舎を出て目的地へと向かっていた。

 人と会うのだ。


「オービタルリング・コロニー」の人口の空は、すでに黄昏を終えて夕闇へと変わっている。

 全部で十二の区画に分けられたコロニー内の居住区は、巨大な円筒の内側に人口の大地がへばりつき、その上に無数の住宅やビルなどが建設されている。そして、巨大な都市を形成している。


 かつてはシリンダー型のコロニーを高速で回転させることで発生する重力によって都市を支えていたのだが、今は遥か遠くの惑星からもたらされた技術「人工重力」によって支えられている。


 僕たちが暮らし、「スペース・ハローワーク」がある都市の名は、第七区画にあることから――「アイランド7」。


 かつて地球に存在したニューヨークと呼ばれる都市によく似ていることから、「アイランド7」は「ゴッサム」の愛称で親しまれている。「ゴッサム」は「オービタルリング・コロニー」に五つある居住区の中で最も巨大な都市であり、人類圏最大の経済都市でもある。


 コロニーでの生活は地球での生活を元に設計されている為、コロニー内は地球とほぼ同じ1Gの重力で保たれ、時刻は世界時であるグリニッジ標準時で統一されている。そして、気候や気温などは「環境気象庁」によって管理され、適度に四季を取り入れてはいるもものの、基本的には快適さを追求した穏やかな環境に設定されている。


 僕は、夜になってわずかに気温の下がった「ゴッサム」の大通りを、オービタル・ヒルズを背にして歩いていた。無数の電気自動車が道路を行き交い、等間隔で設置された洒落た街灯を追い越してゆく。賑わう通りを歩くシルエットの多くはヒューマーだったけれど、時折異様なシルエットをした宇宙人たちも見かける。


 まるでオールド・エイジに流行っていた古いSF映画を再生したかのように、かつてエイリアンと呼ばれていた宇宙人たちで、この「ゴッサム」は溢れかえっている。

 そんな「ゴッサム」の光景を、僕は気に入っていた。


 たくさんの人たちと、たくさんの宇宙人によって様々な模様を描くこの「ゴッサム」が――そしてそんな宇宙のことが、僕はなんとなく気に入っていたんだ。


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