第2話 ゲロロさん
「えーっと、ゲロロさんの経歴や職歴を見ると――学歴を含めた実務や実績は、人類圏の軍需産業、特にご希望の兵器開発のエンジニアの仕事をして頂くのには申し分ないのですが、やはり転職歴のほうが、些か問題になってくるかと思います。それに――」
僕はゲロロさんの経歴を「総合的宇宙雇用システムリンク」で照会して、その結果をざっと説明した。
「総合的宇宙雇用システムリンク」とは、全宇宙のどこからでも「スペース・ハローワーク」の雇用情報にアクセスすることができるシステムのことを呼ぶ。
「スペース・ハローワーク」と業務提携している他星や、宇宙人たちが運営する職業安定所ともリンクしているため、個人情報の一元化や紐づけが容易な大変便利なシステムであり、さらにシステムに組み込まれた人工知能が、求職者の経歴や職歴から診断・判定を下し、その求職者に見合った職種や企業を自動で紹介してくれる。
そのため、職業案内エージェント――つまり僕に、求職者の希望する職種の知識が不足していたとしても、特に何の問題もなく求職者の相談に乗ることができ、求職活動の提案をすることができる。大変優れた代物だ。
この大変優れたシステムが判定した診断結果では――ゲロロさんは大変優秀なエンジニアであり、現在の人類圏の兵器開発企業にとっては、喉から手が出るほど欲しい人材であることが示唆されている。
しかし、いくら知識や技術が優れていたとしても、それがすんなりと結果に結びつかないのが宇宙人の求職活動である。
まだ「第一次宇宙戦争」の傷痕を引きずった大多数の人類企業は、ヒューマーと呼ばれる人類種――つまり。地球人と似た外見以外の宇宙人を雇用することに抵抗を持っている。中にはかなり差別的な企業や職場さえ存在している。
人類が宇宙に進出して分かったことだが、僕たちと同じ人型であるヒューマーは意外にもこの銀河に多く存在している。更に驚くべきことに、「銀河帝国」を統べる現在の皇帝はヒューマーであり、僕たち地球人のことを「遥か遠くの同胞」と呼んでいる。
「あの、その、やはり地球人の方々は、ヒューマー以外の宇宙人の採用には抵抗がありますか? ゲロゲロ」
ゲロロさんは僕の顔色から事情を察したように言葉を発して頷き、悲しげにゲロゲロと鳴いた。少なくとも僕にはそう聞こえた。
「いえ、そう言う訳ではないんですけど、ただ大手の企業になればなるほど、そのような傾向が強いというか。ゲロロさんのこれまでの経歴に見合う企業となると、この職歴だと弾かれてしまうのではと思いまして。申し訳ありません」
僕が慌てて言葉を取り繕うと、ゲロロさんはゆっくりと首を横に振り、その後で頬を膨らませて再び「ゲロゲロ」と鳴いた。
「いえいえ、謝っていただく必要はありません。その、差し出がましようですが、地球人の皆さんはとても苦労をなさった。あなた方が第一次宇宙戦争と呼ぶ戦争は、あなた方、地球人には何の非もないところから降って沸いたものです。地球人の皆さんが、宇宙人を警戒なさるのも無理はありません」
ゲロロさんは紳士的に言って地球人に理解を示してくれた。
「それに戦争が終結したと言っても、まだまだ物騒な世の中です。反銀河帝国派のテロリストや、宇宙海賊なども幅を利かせております故、私のような遠くの銀河からやって来た宇宙人には、もちろん警戒もなさるでしょう。ですので――」
そこでゲロロさんは一旦言葉を置き、僕が最初に渡した名刺を眺めて僕の名前を確認した。
その名刺には、僕の本名――シロウ・ユキムラと記載されている。
「ミスタ・ユキムラ、私のこれまでの経歴などは加味して下さらなくても構いません。待遇や職場環境の悪さには慣れています。私は、私の知識や技術を心から必要としてくれる職場で働きたいと思っております。できれば人類のために。ゲロゲロ」
そう語ったゲロロさんのカエルに良く似た円らな黒の瞳は、少年のようにキラキラと輝いていた。まるでその黒い瞳の奥に、彼だけの特別な銀河を隠しているかのように。
僕は、ゲロロさんを――心から彼を必要とする職場や会社に紹介するべきだと、自分自身に言い聞かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます