第3話 大銀河時代

 人類の母星である青い星――地球。

 

 その静止軌道上に浮かぶ巨大な建造物――「オービタルリング・コロニー」は、かつて西暦と呼ばれた時代――「遠く、もっと遠く」を合言葉に宇宙へと進出していった人類の窓口となったスペース・コロニーであり、月面、金星、火星、そして木星圏までをも生活圏・生存圏へと拡大した人類の玄関口だった。


「オービタルリング・コロニー」は、地球を飛びだした宇宙植民者が初めに訪れる宇宙への入り口であり、始まりの場所。地球と宇宙とを繋ぐ四本の軌道エレベーターの終着点であり、地球をぐるりと囲む二本のオービタルリングによってなる、巨大なリング状のスペース・コロニーだ。


 そんなコロニーの隅の隅の一画に、僕が勤務する「スペース・ハローワーク」――正式名称「人類公共職業安定所」はある。

 

 時は、大銀河時代。

 西暦は、とうの昔に廃止された。そして、この大宇宙の八割を総べると言われている「銀河帝国」と地球人類が「宇宙安全保障条約」を結んだ際に用いられた紀年法は――


 銀河帝国歴。


 そして現在は、銀河帝国歴22019年。

 人類が「第一次宇宙大戦」と呼んだ未曽有の星間戦争が終戦を迎え、その復興が一段落を終えた束の間の時代で――多くの人類は戦争の傷跡が癒えきる間もなく、宇宙に何千とある惑星、何万種といる宇宙人との交流や交易を行うために、新たなる天地を求めて宇宙へ飛び出していこうとしていた。

 

 新世界を目指して。


「人類公共職業安定所」――つまり「スペース・ハローワーク」は、そんな人類が宇宙に進出するのをサポートするために存在している。


「スペース・ハローワーク」が求職者に紹介できる職種は、豊富で多岐にたり――営業、規格、事務、技術職、公務員、商社、製造、金融、物流、貿易、医療、介護、建設、土木、秘書、受付、翻訳、通訳、IT、エンジニア、更には兵士から娼婦まで――求人票を出している企業、会社、店舗、現場は億を超えている。


 そんな「スペース・ハローワーク」に勤める職業案内エージェントの主な役割は、求職者の求職活動の相談や指導を行い、その求職者の適性や希望に合った職場を紹介すること。時には職業訓練やインターンなどの斡旋も行い、求職活動のサポートも行う。現在では地球人類だけでなく、遥か遠くの宇宙から人類圏での仕事を求めてやってくる宇宙人求職者への職業案内も引き受けている。窓口を訪れる求職者の数は一日、百万人を超えると言われている。


 そんな大盛況、大行列、大混乱の「スペース・ハローワーク」の、数百を超える求職者用窓口から遠く離れた場所に、僕の勤務する「特別案件及び特殊宇宙人課」――「Special Task And Special Aliens Rescue Service」は存在する。


「スペース・ハローワーク」のデブリと呼ばれ、お荷物過ぎるために窓際も窓際に追いやられた寂れた課の、たった二つしかない窓口の一つ――666番窓口に、今日も僕は腰を下ろしている。


 そんな、日に一名訪れればマシと言われているこの窓口で、今日も仕事を求めてやってくる求職者が現れるのを待っていている。



「スペース・ハローワークへ、ようこそ」と言うために。

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