第5話 調和2
我が家の掃除機担当は夫。
なぜなら私は聴覚過敏だから。音が耳から脳に直接入る感じがするので、基本、掃除機がかけれない。しかも、大丈夫な音域と、ものすごく疲れる音域がある。で、今まで猫を飼っていたので、吸引力があり、なおかつ私が耐えられる音域の掃除機を、夫がかけていた。
ところが、その掃除機しょっちゅう部品が壊れるのだ。保証内なので、メーカに電話すれば、替えを送ってくれるのだが、壊れるたびに、「またかよ!」と、夫はイライラ。でも、使用できるので捨てるってことは考えられなかったんだが、先日、夫が本音をぽろり。
「実はさ……。もうあの掃除機見たくもないんだよね。壊れすぎで嫌だ……」
出ました。『実はさ……。』
よろしくてよ! わたくし、本音で生きることに決めましたし、あなたの本音も尊重致しましょう! というわけで、彼が気に入った新しい掃除機を購入し、その代わり、しょっちゅう部品が壊れていた掃除機をフリマで売ることにした。(私は、ネットのフリマに参加している。探さないで下さい)
さて。
早速、掃除機を部品ごとに写真を取り、商品としてアップしてみた。
すると……。ピンコンピンコンピンコン!
購入されたお知らせのメールが来る。連打だ。売れる売れる。その日私は8箱コンビニから発送。ちょっと梱包疲れしたくらいだった。
それ以降も毎日ピンコン。
「ひー! また、売れた!」
怖いくらい売れる。あんまり売れるんで、よくよく調べたら、その掃除機を使用しているみんなも部品が壊れるんで困っているようだった。また、部品の一部だけ取り出し、修理に使う人もいる模様。
ってなわけで、「壊れているのもジャンク品(故障品)として出品できるのかな?」って出してみたら、それまた売れた。
本当、売れる売れる。ピンコンピンコン連日ピンコン。で、結構な量があったのだが、全部売り切った。すると、ポイントがたまった。売上金。
「何買おうかしら? るん♪」
なんつって検索していたら、目に入ったのが黒いCOACHのトートバッグだった。
仕事で長年愛用しているCOACHのバッグは、姉がくれたもの。プレゼントされた当時、ブランドものに全く興味がなかったけれど、使用してみて、「なるほどブランド品って丈夫で、基本どんな洋服にも合うようになっているんだ!」とその素晴らしさを痛感。で、気に入って買い替えをしぶってたら、もういいかげんクタクタボロボロ。
それで、そろそろ買い換えようかなと思っていたのだが、そうなると理想的には今のより少し大きめの黒のCOACHのトートバッグがほしいなと思っていたけど、貧乏性がたたっているから、「高いの買うと、傷ついたときにショックだから、バッグはそのへんに売っているのでいいや!」と思っていた。ところが、今、目の前のスマホの画面に理想的な黒のCOACHのバッグが!
「え? 嘘やん。 安っ! 4000円!」
夫にこれ買おうかな?って画面を見せたら、
「いいじゃん! そろそろ君のバッグ、実はさ、古くてヤバいと思っていたよ」
「ヤバい……? 本音を大切に」
というわけで、購入ボタンをポチッとおして、ポイント=売上金でゲット。素晴らしい買い物だった。
届いたそれは大きさからなにからなにまで理想的なものだったのだ。新品同様だし! もうなんだこれ?! 今まで買ったバッグで一番のお気に入りになったのだ!
満足げに新しいCOACHのバッグーーおそらく新品で購入したらん万近くもするやつを、るん♪なんつって肩にかけて鏡を覗き込んでいる私を夫が見て、
「へー。本音を言って掃除機買い替えたら……。君の理想のバッグが、あの古い掃除機を売って手に入るなんてなー。家の中は片付いたし。本当にwin-winだな。調和ってのがあるんだな。あのさ。実はさ……」
『調和』を信頼した夫の本音が出ました。
「バッグが欲しんだ。ポールスミスのなんだけど……」
「ポールスミス?」
「うん。実はさ、若い頃好きなブランドで……」
結婚してから生活がガラリと変わったもんだから、彼は好きなブランドものを我慢していたらしい。実は……。
「大丈夫任せておいて! 古いほうの空気清浄機を売ろう!」
これが、『調和を大切に生きる』が『フリマの売上金でブランドものを安く手に入れる』に私の脳内ですり替わった瞬間です。
ピンコン! 「あっ、売れた!」
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