第40話 いちごミルク

 諸事情により、あんまり積極的に想像力を使ってこなかった。


 それでも、「ワンシーンが浮かぶ」は、カクヨムする前もよくあった。カクヨムしてからは、想像力が多少鍛えられたのか、車を運転していると少し長めにシーンが浮かんでくる。


 木曜日。仕事を終えたら、お腹が空いていた。


「いちごミルクが飲みたい……」


 車を運転し帰宅途中。コンビニまでの車内で、急に、ふわっとイメージが浮かんだ。


*  *  *


 薄暗い部屋に机が1つ。その上にランプ。太い両腕。


 机の上に手錠をかけられて置いてあるその剛毛の生えた腕、その拳がダンっ! と机を叩く。


「いちごミルクを出せよっ!」


 低い男の声だ。


「いちごミルク出せって言ってるだろお!」


 両腕がもう一度、机を強く叩く。


「いちごミルクを出せよっ!」


 暗い部屋の端から、細い男がにやりとしながら机に近づき、椅子をひいて、腕の前に座る。


「おい、おまえ。捕まってから、いちごミルク出せ、出せってそればっかりだなぁ」


「……」


「いい加減はけよ。なんでそんなにいちごミルクが好きなんだよ」


 細い男が、暗い部屋に唯一あるその机のランプの光の中に、いちごミルクをチラつかせた。長い沈黙。両腕の拳に更に力が入る。


「わ、わかったよ。お、俺が……、俺が、いちごミルクを好きなのは……」


 *  


 ここで、コンビニの駐車場に入ったので、映像は止まった。

 

 私の影響されやすい脳が、最近読んだ小説と、その時猛烈に飲みたかった、いちごミルクへの欲求で、何かしらの化学反応を起こした結果、浮かんだイメージ。


 疑問しか残らない、と、思いながら車を降りた。


 (さあ。いちごミルク……)


 コンビニに入って、棚を見るといちごミルクがなかった。


(いちごミルクは多めに置いとけよっ! くそっ!)


 お腹が空いている私は、キレキャラである。じーっと本当に売り切れなのか、棚の端から端まで見て確認していた。すると、『いちごヨーグルト』を発見。


(くそっ! 許してやる……)


 車内に戻り、いちごヨーグルト飲んだ。美味だった。ちょうどよく小腹が満たされ、穏やかな私に戻り運転再開した。


 「さて、あの続きは?」


 考えてみるが、ふわっと浮かんでも、積極的に想像する事に慣れていないので、ちっとも続きをイメージできない。


 あのおじさんは、誰なの? 

 何故いちごミルクで捕まったの? 


 謎は深まるばかりです。


 二日後。値段高めのいちごミルクを発見し、買った。とちおとめという種類のいちごを使用しているらしい。確かにレベルが高い甘さだった。


 やはり飲んだら落ち着いた。


 私のある種の精神的疲れには、いちごミルクが心に沁みる。抜群に癒し効果がある。


 いちごミルクは、私に優しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る