第39話 マッチング

 小さな頃から、「これはあれに似ている」とマッチングするのが好きだった。

 

 例えば、母の歩く後ろ姿でアヒルのおしりを連想。

 友達の寝顔ではトドを連想。というように。


 数年前。ゴーン社長が、テレビに出ていた時、「あれ? Mr.ビーンって、社長やってるの?」と夫に訊いたら、即、否定された。


 Mr.ビーンは、有名なコメデイアン。ゴーン社長と彼は似ていると思う。ほぼ同一人物だ。

 


 中1の時。


放課後、友人と二人体育館に入った。バスケをしている数人の中3男子らが楽しそうにプレーしていた。私は、その中の一人をじっと見て、「イグアナみたい……」とボソッと口にした。友人は、お腹を抱えて笑った。


 つまり、そっくりだったんだと思う。友人は、誰がイグアナなのか、すぐにわかったようだった。


 イグアナ先輩は、メガネを掛けていた。それは、四角く、そして分厚いものだった。その分厚いメガネは、彼の目を大きくうつし、激しくバスケのプレーするたびに夕日の光に反射してキラリ。先輩の目は、爬虫類のぎょろりとした、悪気はないんだろうけれど、怪しげなそれに似ていた。


 *


 1年前。


 新しい仕事先の敷地に入った時、初めてだからか、そこの父親が、私を睨んだ。「誰だこいつ?」という顔で。私は、丁寧に挨拶をして会釈をした。心中、「驚いたわ。3等身って現実世界にもいるのね」と呟きながら。


 青い猫型ロボットが頭に浮かんでいた。


 そして先日。その方と、挨拶ができた。その時は、にこやかにして頂けた。だが心中、「あらやだ。ギリ5等身だった」と呟いていた。1年前に会った時は、彼の表情が怖くておそらく顔だけ拡大して見たんだろう。


 その晩。早速、夫に「驚いたわ。3等身だと思ったら、ギリ5等身だものね」と報告すると、「君は本当に時々酷い事を言うよね」と笑った。


 私は、酷いことを思っているみたいだ。馬鹿にしているような、さげすんでいるような。そのつもりは全くないが。そのまま思ったこと言うと、誰かを不快にさせる可能性があるので、3次元的には、自分が「あれと似ている」と、連想していることを口にしない。


 小説を書く上では、人やモノを、なになにみたい、と表現する。それを比喩という。ありがたい。


 小説を書いている間、私は自由だ。

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