第34話 ムカデ

 3人の作家を真似ると、文章力が上がると勉強している本に書いてあった。早速試してみた。


【一人目・アンネ風】 


 火曜日。私は久しぶりに忙しい日を過ごしました。


 仕事が終わったのは夜10時すぎ。腹ペコです。帰る途中コンビニに寄って、とりあえずドーナツを買い食べました。レモン味のドーナツは新商品でした。酸味と甘みの絶妙なこと。日本のコンビニの食べ物には毎回脱帽です。もう海外生活から随分と離れているのに、どうしても日本食はまだ特別で、毎回その細やかさと美味しさに感激してしまいます。


 とはいうものの、10代の留学経験というのは衝撃だったのか、基本的にファストフードで生きることができる体になっています。


 帰宅したのは夜11時でした。腹ペコです。夫が用意していたそばを食べ終え、お風呂に入ったのが真夜中。それで、お風呂でのんびりしちゃうのが最近の習性です。どうしても、湯船に浸かりながら、ぼんやりと物語の主人公をイメージの中で追ってしまうのです。それで長風呂をしてしまうから、おそらく出たのが夜中の1時。


 困ったものです。


 ここから私は、寝よう寝ようと思うんですけど、パソコンにさっき浮かんだことを入れておこうと思うわけです。そうすると、いつの間にか無心で書いていたりして。それで、はっと気がついて、簡単にリビングなんかを片付けて、夜のするべき事をあれこれこなそうとします。


 ミルクを飲むとか、歯を磨くとか、顔にクリームを塗るだとか……。そんなこんなしていると、夫は寝室に行ってしまうから、猫と私だけが、薄暗いリビングに取り残されます。


 そして、全ての準備が整って寝ようと思ったのが3時です。


 そこで、発見しました。ムカデです。あの猛毒のあるムカデが、白い壁を這っていました。信じられないくらい気持ち悪いんですよね。


 夫は、寝ているから、自分で処理しなければいけません。急いでハエたたきを探しました。ハエたたきを握りしめて、壁に向かいました。せーので、思いっきり叩きました。そのあとが問題です。


 落ちて悶え苦しむムカデ。もう数回きちんと叩いて始末しなければいけません。


 けれど、怖いんです。うぎゃーと言いながら、叩きました。本当は、あちら(ムカデ)がそう言ってるんでしょうけれど……。それでも死なないムカデ。私の力がないからでしょうか? 緊張が走ります。急に狂ったように、きゃーとかうぎゃーとか言いながら何度か床をハエたたきで叩く私を見て、猫は驚いて走り去っていきました。


 私とムカデ。一対一。


 懇親の力で最後に一発叩きました。その時に「Please Die!お願い死んで」と咄嗟に英語が出たことに、自分で笑いそうになりました。


 ピクリともしないムカデ。

 力を出し切った私。


 しばらく呆然と、ムカデを見つめて立っていました。ハエたたきを握りしめて。


 早く、これを外に放り投げなければ……と思うんです。けれど、体が動かなくて。おそらくものすごく怖かったんでしょうね。私って、事が済んだ後からその緊張とか不安に襲われるタイプなんです。


 で、完全に死んだムカデをしばらく見て精神が落ち着いた頃、自然と口から出た言葉。なんだと思います?


「Jesus Christ」ああ、神様なんてこと……


 自分に、また笑いそうになりました。


 それから、やっとなんとかその死んだムカデをハエたたきの先っぽに乗せて、玄関から外に放り投げることができました。


 たったそれだけなんだけれど、ものすごく疲れてしまって。

 それで、また心の癒しに一話お気に入りの小説を読んでから寝ました。


 なんというか、ムカデって怖いわよね。





【二人目・大好きな作家さん風】


 ムカデだ。


 夫が寝てしまったあとに発見したムカデ……。やるしかない。


 そばにあったハエたたきを握り締める。幸いにも壁にいるムカデは動かない。今回は、もうこれが運命だと悟っているような雰囲気だ。


 一度、思いっきり叩いた。床に落ちるが悶え苦しむムカデ。


 まだ死んでない。もう一度、もう一度……と、叩こうとするけれど、手が動かない。勇気が湧かない。しばらく躊躇したが、


「もうっ! きゃあーーーーーー!」


 そう言いながら2度叩いた。その私の姿を見て、猫が逃げた。なかなか死なないムカデ。


「どうしよう? もっと思いっきり?」 


 よし! と思って、気を集中する。合気道をしていたから、気の集中の仕方はわかる。力ではなく、気で。ハエたたきを振り上げ、降下させる時に一点に気を集中し放つ。


 気づけば「Please Die!」お願い死んでと言いながらパシンっと一発。うまくいった。しかし、何やら液体が飛び散っていた。


 そこで、はたと気付く。


 私は、全ての命を大切にするヒーリングメソッドを実行中ではなかったか? すぐに、ムカデを成仏した。そして、思い出す。そうだ。このムカデを最初に見た時、ムカデは運命を悟っていた。


 大丈夫だ。




【3人目・好きな作家さん風】



 夜。白い壁にムカデを見た。


 殺すしかない。毒があるもの。


 ハエたたきでなんなく事を終えて、そしてじっと死んだムカデを見る。すると思い出す。母のことを。


 母は、一度ムカデに刺されたことがある。体中が痺れたと言っていたし、「ムカデに刺された~!」と言って尻もちをついた母の姿は脳裏に焼きついている。だから、私はムカデには敏感だ。


 そして、ムカデを見る度に、そんな猛毒を生きるために持っているなんて、生き物はすごい、と、関心までしてしまう。


 もう少し、もう少し、私も毒を持っていたら……。生きるために。そうしたら、楽に生きれたからしら?


 そんな事を思いながら、潰れたムカデを外に放った。



 *  *  *



 それぞれの作家さんをイメージすると、浮かぶ言葉が違った。でも、これ全部みんな本当にその時に思ったことなのよ。これを3つ混ぜる感じで、いざAKARI的に書こうと思ったら、なんにも浮かばないの。


 それじゃあ、ダメじゃん、AKARI YUNG です。


 ちゃんちゃん♪

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