第21話 猫を越えた猫・思い出

 夫婦で初めて飼った猫は、猫を越えた猫だった。


 茶トラ。遊んで欲しければ、自らネズミのオモチャを口でくわえて持ってきて、私の前にポトンと落とした。名前を呼べば「にゃー!」と毎回返事をした。


 二階のベッドで一緒にお昼寝をしたい時は、階段の一番下で、「にゃー!」と鳴き声を出してから、わざと上がったり下がったり、階段のカーペットをガリガリ爪で音を立てて、飼い主が気づくかどうか~、と様子を伺っていた。


 二階に上がると、振り向き、ちゃんと私が部屋に入るのかどうか確認した。お前は犬か? と何ども確認したけど、やはり猫なんだ。


 猫を超えた猫。


 だからだろうか? ゴロゴロ言わずに、クルックーと喉を鳴らしていた。それは、鳩だ。


 二匹目を飼った。キジトラ。


 猫を超えてる茶トラは、怯えるキジトラの面倒をよく見た。キジトラは非常に野良に近かった。人間に常にビクビクしていた。飼い始めて二年間は、ほぼ、茶トラがキジトラを飼っていた状態だった。


 キジトラは、茶トラを慕い、あとを付けまわった。


 茶トラの猫が冷蔵庫の上に乗れば、キジトラも。

 茶トラの猫がお風呂のお湯が溜まる音を聞きつけて覗きにいけば、キジトラも。

 茶トラの猫が電子レンジに乗ればキジトラも。


 茶トラは、「もう、ウザいんですけど~」という顔を時々するものの、二匹は仲良し。小さな箱に茶トラが入っても、キジトラも無理やりにでも入るから、いつもその箱の中、ギュウギュウになって二匹は寝ていた。


 仲の良い二匹の最高の遊びの時間。それは、深夜0時。

 

 どうやら、一度、二匹で0時に遊ぼうね、と決めたようである。ある日を境に、きっちり0時に二匹は立ち上がり、ととととと、歩いて遊びモードに入る。だが、その、ととととに茶トラは、ぴょんを入れる。


 ととととと、ぴょん! 「さあ、遊びの時間だ!」という感じに。


 やはり、猫を超えた猫だ。


 彼らの遊びは激しい。


 猫パンチに、猫アタック。一度隠れて、じっと様子を伺う。一匹は、あれ? どこいった? とキョロキョロと探す。そして、隠れた方が、ばっと猫ダッシュからの猫ジャンプに猫アタックからの、猫ダッシュをもう一度して逃げて隠れる。


 ところが、隠れてる間にやられた方も隠れる。さっきアタックした方が、あれ? どこ行った? とまた、キョロキョロとしだす……というわけだ。


 彼らは、洋猫の血が入ってる雑種。大きい。リビングのはしから端まで使っての激しい猫の遊びを見ていると、ハラハラした。


 私はその二匹の激しい遊びを見て、茶トラを心配した。だって、茶トラは猫を越えた猫なのに、ドジで運動神経が悪い。この遊びの途中も、走って逃げようとして椅子の脚によく頭をぶつけていた。


 茶トラは、体が弱くて引取り先がいない猫だった。


 引き取ってから数日後、生まれて初めての階段を駆け上がるというワクワクを味わったらしく、階段を上がり下がりしていた。往復を2回走っただけで、て、もう息が上がっていた。

 はあ、はあ、と肩を上下する猫を初めて見て、私は本当にびっくりしたんだから。


 そんな思い出もあって、私は猫パンチをくらっている茶トラに、「大丈夫?」とキジトラから守ろうと手を出す。すると、茶トラは、メンチをきる。いや、本当にきった。ジロっと私を見て、


「ちょっと! 今、いいところだから! 邪魔しないで!」


 と言う。


 ……すみません。


 忘れられない場面は多々あるが、その中で、よく思い出すのはこれだ。


 茶トラは、昼寝をしてる主人を見つけると、主人に寄りかかるようにゴロンとよく横になっていた。その日、主人は茶トラを指でツンツンして、何どもちょっかいを出した。茶トラはしばらく我慢していたが、イラっとしたらしく、ばあっつと立ち上がり、ポンと主人の頭の方へ素早く移動し、主人のオデコをパァンっと、爪を出さずに見事に叩いた。それは、芸人のツッコミに似ていた。


 本当、懐かしい。


 猫を超えた猫は、天国へ行きました。今頃、おそらく、またどこかで、猫を超えた猫をしてるのではないかと思われます。

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