第32話 生きるということ
中学生の今年度の国語便覧に、「生きるということは、そこらじゅうにいる自分と出会うこと」だ、というような文が載っていた。
そうだ。その感覚だ!
本を読んで感動したり、共感するのは、その「そこらじゅうに自分がいる」という感覚だ! そう、感銘を受けたのは、4月。ある暖かい春の日であった。
*
この前、「宇宙」に対する感情を拾ってくれる本に、出会った。
もはや怖かった。吉本ばななさんの「ハチ公の最後の恋人」という本だ。
吉本ばななさんのことは知っていたし、彼女の本を読みたいな、とは思うんだけど、まず、名前に引っ掛かり行動に移せなかった。
何故、バナナ?
それから、幾度となく気になり本屋で手に取ってはみたものの、なんか文体が私の特有のリズムゾーンと違うから、読めないな、と諦めていたが、そんな中、大好きな人から、この本を紹介して頂けた。それで、きっと縁があるだろうと購入した。
届いた本を手に取ると、体がぞわっとした。1ページ読むと、もう体が熱くなってフラッとした。そして、嗚咽して泣く前の感覚になった。
とにかく怖い。
それは、何かが生まれる怖さ。ピッコロ大魔王が、卵をおえーっと吐き出すシーンが頭に浮かんだ。あんな感じの恐ろしさが体中を巡る。やばい。本を閉じる。机に置く。でも、もうその波動に捉えられてしまって、日常の通常の動きができるだろうか、というほどになる。
まずい。
一生懸命意識を外らし、仕事先に行った。仕事中、数ページの内容を思い出してしまうと体が熱くなり、泣きだしそうになる。その度に、意識をずらし、その波動から自分を遠ざける。そうこうしてたら、タイミングよく、二件目の仕事先からキャンセルが入った。
「良かった。これじゃあ、次行けるかどうかだった……」
すぐに、仕事を終えたら帰宅した。怖くて迷ったけれど、体がもう欲しているのがわかるから、意を決して読んでみた。
読むと、吸い込まれていく。一気に読み終えた。途中途中やはり体が熱くなり、声をあげて泣きそうになる。
本から抜粋:
「この、虫の声でさえ泣けてくるような、かすかな心の揺れ。万物に音楽を聴き取る耳。ほんの小さいところをじっと見つめて、その中から美の配列や宇宙の秘密や、神の意思まで想像してしまう感受性。」
ここで、号泣した。宇宙に対する感覚を初めて拾ってもらったからだ。
時々、一瞬に永遠を感じることがある。
もしかしたら、みんなそうかもしれないけれど。
時々、本当に泣けてくるような感覚に、土を触ってもなることがある。
そういうことを、他の人が言ってくれたことが感謝だった。そして、そういう人がいることに勇気が出た。まだまだ、何どもおそらくこの本も読むと思う。こうして、特別な本に出逢い、自分と更に出会うのは、すごいことだ。
やっぱり、本を読んでも、「そこらじゅうに自分がいる」。
自分と出会うんだ。
生きている。
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