第18話 失うものは何もない。

 結婚記念日という短いエッセイを書いたことがある。その時は、沢山の応援マーク、星マークが短い期間に来て、皆さんの優しさにびっくりしすぎて、感動しすぎた。


 その「びっくり嬉しい感情」を自分なりにじーっと見つめて、一番ぴったりな言葉を探していた。すると、それはAKARIの中で、小さいな頃の「ちびりそう」とイコールになった。


 スマホで、結婚記念日のエッセイの応援マークや☆をレビューを見る夫が、「すごい沢山星もらったね。良かったね。素敵な結婚記念日になったね」と、言ったから、早速「うん。ちびりそう」とぴったりな言葉で答えた。


 夫は、「あのね! その年でそういう言葉使わないの!」と言う。


 そうかもしれない。しかし、私は、年ではなく自分自身を生きていたい、と腰に手を当てて天井を見ながら考えていると、加えて言われた。


「そんな事言ったら、また君のことエッセイに書いちゃうぞっ!」


 特に失うものは何もないから、「どうぞー」と言ったが、その後で、どちらかといえば主人が何かを失う気がした。


 もう一度、天井を見ながら考えた。やはり、私は、ちびりそうに嬉しかった、と再確認した。そして、おそらく私は、文字の中と家の中でしか本当に自分らしくは生きれないんだ、という確認もした。


 だって私は間違っても、外出先で「ちびりそうに感動しました」とは言わない。日本は表現の自由が与えられているが、そのぐらいは、わきまえている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る