第11話 I love 西加奈子

 私は、さんまさんの、「個性を正確に見極め、引き出し、笑いにする技」を見るのが好きだ。それで、よく「さんまのまんま」というトークショーを見ていた。


 ゲストに、「舞台」という本の宣伝で西加奈子さんが出ていた。その頃、私は、西さんを知らなかったし、小説家に興味があるわけでもなかった。だが、しかし、である。


 西さんが、両手を上下に大きく動かし、さんまさんを指し、大きな声で、


「あたし、これが、さんまさんの最終形態だと思ってんっ!」


 と、言った。


 テレビの前で私は絶句した。小説で言う「!」だ。私の中の言葉にしていなかったお腹の底の部分的な感情が、初めて一気に拾われた瞬間だった。


「そう! 私もそう思ってた! この人は、来世生まれるのは、もう地球じゃない! これが最終形態! 個性と笑いが全てであり、そこに愛があることを知り……。そう! この魂はもう最終形態!」


 そう思ってはいたのだが、そんなくだらない事、証明できない事、阿呆らしい事、定かではない事、言ったところできっと相手にしてもらえない事は、言葉にしてなかった。


 そして……。そう言われたさんまんは、案の定、お腹を抱えて笑っていた。


「やはりそうか……。可笑しなことじゃないか……」


 さんまさんの反応を見てがっかりもしたが、同時に私は救われていた。笑われても笑われても、そういう不思議な感覚を、真剣に真剣に最後まで訴えていた西さんを見て、彼女の小説を読んでみたいな、と思った。


 そしてそれから数年後。


 カクヨムになぜか衝動的に入り、適当な、大股でガンガン歩くようなエッセイを書いていた。(もしかしたら、今もそうかもわからんが……。その当時よりは、小股で書いてる気がしている) そして、それを読んでくださる優しい方々に出会い、また、ガッツリその小説にはまり、私は、真剣に「書く読む」を始めたいと思った。


 そうだ、小説を買おう! と、仕事帰りに古本屋に入って探したのは、「に」という札。あった。そこにあったのは、西加奈子さんの「白いしるし」。運命的な出会いだった。


 あの、テレビの一言で救われた感覚になったのと同様。私は、「白いしるし」を読んで救われ続け、途中、もはや救われているかどうかもわからなくなったくらいだった。あんまり、心の中の想いが拾われていくものだから、何か、殴られる感覚になった。大きな四角い石の角で殴られたような感覚。私の心の中は、読んでいる間、爆風、閃光、暗闇……、そしてまた、爆風、輝き……。そんな感じだった。


 そして、今もなお、私は、その衝撃を受け続けてる。今、彼女の「まにまに」というエッセイを読んでいる。私は、それを「にまにま」しながら読んでいる。


 友達だ。完全に、西さんは、お友達だ。


  *


 西さんは、マンションの前を通り過ぎるとき、この1つ1つの部屋に、頑張って生きてる人がいて、それぞれの人生があって……と思うと、泣いてしまうらしい。知らない人のことを思って、散歩中に……。


 わかる!


 でも、そういう感覚は無視をした。それはAKARIは我慢した。だって、そうやって生きていたら、日常生活がままならない。


 西さんは、携帯を変えるとき、「ぎが」とか「ぷろばいだ」とか、わからへんから、とにかく、その中身を「あいふぉん」に移してくれと頼んだんだけど、個人情報があるので電話帳しか移しませんと言われ、やれやれという顔をされ、何やら分厚い説明書を渡され、自分でやってくださいと言われた時、そこで泣きそうになったらしい。でも、全然わからへんから、その携帯の店から出たら、犬の糞を踏んだそうな。そして泣いたって……。


 途中までは、一緒だ!


 AKARIも店員さんに、やれやれ、という態度を取られると悲しくなってしまう。自分が不甲斐ない。機械類もよくわからないし……。でも、犬の糞は踏まない。そこまで、笑いの神様は降りてきていない。だけれども、このエピソードの締めくくりはこうだ。


『クレジットカードが作れない人へ、ぷろばいだに入れない人へ、他諸々の「なんやようわからんこと」で弾かれてる人へ、大丈夫やで、この世界は、カスでも命のほうが、勝ちやねんで。圧倒的にクソの勝ちやねんで。』


 やっぱり、機械類がわからない自分より、犬の糞を踏んだことの方が悲しかったからだって……。


 西さん……。会ったことないけど、最高の友だ……。


 文字というのはすごいと思う。(今更だけど、みんなはもうそんなこととっくに知ってるけれど! あー何故? 何故? こんなに遠回りしたんかな? もっと早く本を読みたかったのにいー! 悔しいですっ!)


 相手としっかりと向き合い、繋がれる。時間も空間も超えてしまう。

 言葉とは、おそろしく素晴らしいものである。


 今、これを読んでくださる方が、やれやれ、また西加奈子の話かいな、と思ってるかもしれない。そう思うと、恐ろしく怖くて悲しくて泣きそうだ。そんな自分で、いいかもしれない。私は小さな頃から泣き虫だった。それでいいや。


 泣き虫! 怖がり! びっくり屋!のAKARI。

 だから………生きるの大変なんよ……。

 

 やれやれ……。

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