第36話 それから死んだらええやんけ

 私は、平凡に憧れる。何にもない穏やかな日々に憧れる。それはすぐに手に入るんだ。


 例えば、お茶でも飲んで、ゆっくりしてソファーに座ってボーっとする。好きなように家事をして、慣れた仕事をこなせば良い。それで私は十分に幸せになってしまう。


 だから、私には、本来チャレンジ精神なるものがない。だってチャレンジすると、壁にぶち当たる。


 なのに、私はカクヨムという世界で苦手な「書く」をチャレンジしちゃっている。向いていない。色々な面で。


 だから、「あーもう止めよう!」と何度も思った。でも、おそらく好きなのだろう。続けてしまう。でも、9ヶ月も続けたのに、まだ慣れない。悔しい、という気持ちにも、チャレンジ精神にも慣れない。


 おまけに、勇気100%でやっていたのに、小説の書き方を、お勉強したばっかりに、その勇気もなくなった。けれど、「書く」を、続けたばっかりに、鼻くそ程度の自信ができてしまった。


 それも見事に、この前、消えた。


 最近公開した短編は、スマホ見ると吐き気するくらい推敲したのに(おそらくしたから)、酷い誤字脱字、名前の間違いを犯し、失敗した。結果、見事にぴーんと、その鼻くそは弾かれた。その積み重ねたという自信は、もはや跡形もない。


 代わりに残ったのは、「私、馬鹿ですやん。本当にグレイゾーン以上に障害なんか入っているかも? え? 学習障害? 仕事柄、絶対あってはいけないじゃん!」という不安のみだ。というか、自閉症の子が緊張して頑張ると、パニック気味になって、おかしな失敗をするのにそっくりだ。もはや、私は機関で診てもらったほうが良いのだろうか? と真剣に考えている。本当に。


 さあ、大変だ。壁にぶち当たった。でも、その壁っていうのは、ただの、能力の足りなさの問題や、脳の構造に対する落胆だけではない。


 罪悪感。


 キリスト教育ち。全ての間違いは、私にとって罪に近い。そこから派生する「申し訳ない」と「ごめんなさい」は、「許してくれてありがとう」を、超える。マッハで。


 食べること、飲むこと、そして何を考えるかまで、両親の宗教によって、制限がかかっていた。(ちょっと危ない宗派だったのだと思う)常に私は、その教えられた規律からはみ出ていないか、自分を監視してきた。その時点で、もう乖離状態が酷かったと思う。


 そのマインドコントロール的なところから抜け出した今も、結局、自動的にその罪意識のフィルターを通って全てが、心に届く。


 どんな些細なことでも、重大な過ちを犯したような感覚になる。誤字脱字と、名前を何ども書き間違えた、ちょっとおかしな作品を読んでもらったことに、申し訳なく思い、底知れぬ恐怖と悲しみの中に落ちた。自動的に悲しみの淵に、落ちた。


 意識を変えたらいいやんけ? が通じない。

 それは、細胞レベルに刷り込まれた、罪意識フィルター。


 どうしようか? と、時が過ぎるのを待ちながら、自分を内観しながら、たどり着いた解。罪意識フィルターの解除をしなければと。


 現在実践中のヒーリングメソッドを試してみた。効果はあるものの、それは本当の自分を取り戻すメソッドなので、まあ、どんどん取り戻すんだけど……。取り戻すということは、容赦なく自分を見つめる作業もある。


 で、癒され始めて……。


 私の器の大きさは、おチョコだと思っていた。あのくらい小さいと。だから、20代で人生の舵を取ったのに。しかし、今回、私は、もうこれは、シルベニアファミリーのコップやんけと知り、唖然。


 そんな中、10代の子が書いているエッセイ、『アホなだけ、好きなことを』というタイトルを見て、はっとした。「好きな事を、アホみたいにする」という、普通、青春時代に経験するだろうことを、私はしていない。育ちの影響で、無意識に制限をかけていたから……。


 アホなだけ好きな事をしたらええやんけ。

 アホなだけ楽しんで死んだらええやんけ。


 そう急に思った。


 つまり、最近やらかした大失敗は、そういう尊い気持ちを生み出してくれた。大失敗は、ある意味私にとって、大成功だった。アホなだけ、書いてみようと思う。

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