3-2 告白

「ふああ。眠たい」

「欠伸なんかしてだらしないですよ。月曜日なんですしシャキッとしてください」

では聞こう。いつも遅刻ギリギリで学校に行くことをモットーにしていた者が朝の睡眠時間を一時間削って得ることの出来るものは何かあるか。

「電車で座席が確保できます」

「寝言は寝て言え」

今乗ってるJRの電車はどこの車両もすし詰めとまではいかないが、座席は全部埋まっていた。

「乗り換えたら座席ぐらいありますって」

「あるといいな」



さて、日曜日は買い物ではなく五十川に高校生としての常識を嫌という程教え込むことに費やされた。何故かと言うと長々とした説教にもめげずに五十川が布団の中で俺にくっついてきたからだ。正確に言うと朝起きたらそうなってたので俺が完全に寝たあと何をされてたかは全くわからない。

だが健全な青少年らしい生活を送るためには五十川にベタつかれたら俺が非常に困る。俺はあらゆる手段を使ってR18なことをこれ以上するなと教え込んだ。

しかし、五十川は俺の想像の斜め上を行っていたらしい。高校生としての立ち振る舞い、いわゆる空気とやらを読まなさすぎていたことが発覚した。ここら辺は俺ももう思い出したくないから割愛するが要するにキャラが定まっていなかった。ここからはもっと大変、五十川にそれっぽくいキャラになるようにアドバイスをできるだけして実際、それに近い人に沢山助言を頂いた。結果五十川は黒髪ロングの委員長的清楚キャラになった。いや俺がした。

一連のことを教え終わったのが午後十時。それから飯食って風呂はいって…結局寝たのは日付が変わった一時だった。まあそこまではいい。俺は朝五時に叩き起された。しばらく布団にくるまって抵抗したがそれでも結局五時半には布団から強制退出を勧告され、家を出たのは六時半。いつもより三十分ぐらい早い。

「今日の授業は全部寝るかもしれないからノート帰ったら見せてくれ」

「寝てたら起こしに行きますよ」

俺とお前とどんだけ席離れてると思ってんだよ。どうやって起こすつもりだ。

そりゃ、こうやって。五十川が紙ヒコーキを飛ばす真似をした。

「怒られるからやめとけ」



JR線を下り、モノレールみたいな電車に乗り換える。毎回毎回乗る度に思うのだが、このヘンテコな電車はなんと呼んでいいのかわからない。新交通システムと呼ばれる全自動運転の車両に誰かわかりやすい名前をつけてくれ。

「確かにこれは座席は空いてたな」

「家を早めに出たかいがあって良かったです」

「そういうことにしておこう」

先週まで遅刻せずに間に合う最後の一本の電車に滑り込んで一人で立ちながらゲームしてたことと比べると、朝学生が少ない電車で女の子と肩を並べて座って学校に行ってるのはだいぶ幸せなことなのでは。

答えは否。なんせ隣の女子は寝込みを襲ってくるアンドロイドだ。次は何をしでかすかわからないから怖い。しかもこれは先週来たばかりの転校生ときた。俺にベタベタされては変な噂が立ちかねん。俺は別にいいのだが、こやつが何を言い出すかはわからない。

「ところで五十川。あれはちゃんと分かってるだろうな」

「私のことはまきたん。と呼んでと何度言ったらいいのですか」

「冗談は言っていい時と悪い時があるぞ」

口が達者になられて何よりだ。

「分かってますよ山瀬さん。私が約束を反故するこようなことはないので安心しておいて下さい」

「同棲してるなんてバレたらどんなことになるかはわからんからな」

クラスで囃し立てられるだけならいざ知らず生徒指導やいじめを受けるようになったら怖い。

「私は山瀬さんと学校でも名前で呼び合う関係でいたいのですが」

同様の理由で学校では苗字で呼び合うことにした。付き合ってるとかそんな誤解をされてはたまったものではない。

だが言ったことは絶対に守るのが五十川のいいとこだ。そんなふうにプログラムされてるかとかそんなことは知らないが、言ったことは一度で理解してくれるしすごく助かる。

電車を降りて学校までの道を歩く。そんなに駅から距離はないが、時間帯のせいか他の生徒はまばらだ。

「山瀬さん。私がアンドロイドってことは内緒にしておいて下さいね」

「まあ、言っても誰も信じないと思うがな」

「誰かに言ったらわかってますよね」

右手のグーが俺の方に飛んできてあと少しのとこで静止した。手加減なしで脅すな、お兄さん怖い。

「マスターは隠すことなんてないって言ってましたがアンドロイドなんて非常識な存在が居るなんて知られたら何があるかわかったものじゃないですからね」

学校にヒットマンを送り込まれるような事態は避けたいですしね。その言葉にはなんとも言えぬ重みがある。

それなら企業秘密の塊の横を歩いてる俺は真っ先に命を狙われそうだ。

「そうなったら私が守るので安心してください。山瀬さんにはかすり傷一つつけさせません」

「その時はちゃんと守ってくれると助かる」

「ですが、山瀬さんが情報を漏らした時は全力で殺しにかかります」

「俺はそんなことしねぇよ…冗談だよなぁ」

「ええ。冗談です」

うふっと笑う五十川の目は殺人鬼のそれのように見えた。右手に血塗りの出刃包丁持ってたりしないよな。




一日特に何もなく放課後が訪れた。今日は部活がないので早く帰れると思ったが掃除当番が当たっていたので渋々廊下で箒を片手に黄昏れていた。

「何を考えているんですか。早く掃除を終わらして早く帰りましょうよ」

「じゃあお前が頑張ってくれ。俺のスタミナはゼロだ。動きたくない」

出席番号が近いせいで古谷は俺と同じ掃除の班だ。なんでハ行とヤ行の間に人が少ないんだ。

「それなら僕が掃除をしとくので山瀬さんは先に学校をでてファミレスの座席でも確保しといてください」

「金も時間もないから却下。俺は早く帰ってゲームするの」

「ならば協力して早く掃除を終わらせないといけませんね。ちりとり持ってきてください」

「どっちにしろ俺は働かなきゃいけないんだな」

文句を言いつつ掃除用具入れに向かう。ちりとりを取ろうとしたところで五十川が声をかけてきた。

「掃除いつ終わりますか。待ってるのですが」

「まだかかりそうだから先に帰っててくれないか」

「いえ。待っておきます」

そういうことではなくてだな。ちょっと耳かせ。

「一緒に帰ってたらなんか付き合ってるとかそれっぽいだろ。俺には構わず先に帰ってくれ」

五十川はふんふんと頷くと、

「山瀬さん、また明日」

と言って手を振りながら階段へと向かっていった。

また帰ったら会うんだがな。と思いながら俺はぎこちなく手を振り返した。




掃除が終わったあと俺はいつもどうり古谷と家路についていた。本当はこいつと帰るぐらいなら一人で帰りたいが、家も近いしあとからストーカーのようについてくるからしょうがない。

「今日はこのあと用事はないのですね」

「だからって寄り道はしないぞ」

「いえ。少し話がしたいだけです」

「話ってなんだ」

くだらんことなら承知せんぞ

「山瀬くんは五十川さんと同居されてますよね」

は。思わずビクついたがここは知らないふりをしよう。

「しらばっくれたって無駄です。僕は全部知ってます」

生体アンドロイドγ型タイプxナンバー01、個体識別名称五十川麻紀は一昨日から山瀬誠と同居実験を行っている。

「ですよね。山瀬くん」

なんでこいつは全部知ってるんだ。まさか産業スパイとかか。ああ俺今から誘拐されて拷問されるんだろうな。五十川が近くにいたら守ってくれるのに、なんでこんな時に限って別々に帰ったんだよ。

「なんでお前がそんなこと知ってんだ。って顔をしていますね」

なぜかと言いますと、

「僕が五十川さんと同じ種類の人間だからです」

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