三章 告白

3-1 告白

時刻は午後十時。やることが特になくなった俺は回転椅子に座ってテレビを見ていた。台所では五十川が皿洗いをしており、時折水音が聞こえてくる。

明日の天気は雨か。そういえば五十川は傘を持ってたっけ。荷物の中にはなかったし、玄関に立て掛けてたのは俺のだけだったからなぁ。ひょっとして、いや折り畳み傘ぐらいは持ってるだろう。

「誠さん。洗い物終わりました」

「ありがとう。一緒にアニメでも観るか」

撮り溜めていたアニメをここで大放出しようとリモコンを手に取りかけたが、

「ダメです。テレビの見過ぎは目に悪いです」

五十川が横からリモコンを取り上げスイッチを切った。てめえは俺のかーちゃんか。

「まだ三十分も観てないから。しかも俺、視力は両目とも二・○だから。悪いも何も落ちてないから」

「ダメなものはダメです」

五十川が手を組んで頬をぷくーっとふくらませてた。うん可愛い。

それより、

「こんな紙切れがポストに入っていたけれどこれってなんですか」

俺に差し出してきた紙をよく見てみる。不在票?俺なんか注文したっけ……

「あっ。布団のこと忘れてた」

慌てて電話をかけたが返ってきたのは明日改めてお送りし致します。という返事だった。そこをなんとか、と食い下がったがもちろんそんな願望を聞いてもらえるわけがない。

「五十川……悲しいお知らせだ」

「なんでしょう」

「今夜は徹夜だ」




世の中には結婚をして後悔をする男性がいるらしい。俺は幸せにしてんだからそんぐらい我慢しろよ、とそいつらのことを羨ましく思ってたがここで撤回する。ごめん。

俺が徹夜を提案すると五十川は問答無用とばかりに俺を洗面所まで引きずって行って(凄まじい力だったので抵抗の余地はなかった)俺に歯磨きをさせると、布団を敷いて無理やり俺を寝かせた。去り際にスマホは私が持っときます、と言い残して。今日のログインボーナスとってねえのに…

成程、鬼嫁とはこんなやつだったのだと布団の中で一人思う。世間一般では女性より男性の方が力が強いと言われるが、残念。アンドロイドは人間のオスより力が強いようだ。これから俺は不規則正しい生活に戻ることは無いだろう。グッパイ、授業中の居眠り。お前のせいで先生に怒られることはあったがけっこう気持ちよかったぞ。

そんなことはどうでもいい。それよりも今日は色々あったな。今日一日の出来事だけで小学生の日記なら一ヶ月分ぐらいは埋めれるだろう。宿題に日記がないのが恨めしいね。

よく考えてみれば俺は存外非日常的な存在なのかもしれない。都会のごくありふれた人でもなく、高校生で親とは違う場所で暮らしてるし、なんか天才な兄貴もいる。しまいにはアンドロイドの少女と同棲である。人は自分をなんの変哲もない普通の人間と思っているが案外それは思い込みでみんな何かしら非凡な存在なのかもしれないな。

パチン。という音と共に部屋の照明が薄暗い豆電球に切り替わった。

「誠さん。隣よろしいですか」

「わっ。五十川おまえ、なっ。何してんだ」

俺の布団の中にあろうことか五十川が潜り込んできた。

「いえ、誠さん。私は麻紀です。どうぞこれからはまきたんとお呼びください」

「いやいやそんな事じゃなくてだなな五十川…」

まきたんとお呼びください。

「ああもう、麻紀。お前はなんで俺の布団に潜り込んでんだ。そしてなんで俺にまとわりつく」

五十川…麻紀…もうどっちでもいい。潜り込んだだけではいざ知らず、俺の右側から抱きついてきた五十川はいやらしく身体をくねらす。パジャマの下に下着をつけてはいないのだろう。ダイレクトに柔らかい感触がつたわってくる。

「ふふふ。夫婦というものはこうやって一緒に寝るものじゃないんですか。そしてお互いを認め合いせx」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ」

童貞にはハードルが高すぎる。それより、苦しい。いろんな意味で。

「誠さんは私をお嫁さんにしたいのでしょう。私は構いませんので私達はもう夫婦です」

ねえ誠さん。

「ヒヤッ」

耳元でいたずらっぽく囁かれて思わず変な声が出た。

「まあ確かに言ったけどなぁ。うぉっ。普通のな。おうぇ。高…校生はだなアー♂」

耳舐めるな。話せない…にしても上手いな。きもちいい……

「誠さんかわいい」

それ以上はストップ。もうやばい煩悩開花しちゃうよ。悪霊退散悪霊退散妖怪あやかしに困ってるから、ドーマンセーマンするから誰か払ってくれ。

「一旦止めてくれ…」

意外にもあっさりと止めてくれた。

「あのだな、五十川」

「私は…」

「わかった、麻紀。よく聞け」

はい。

「普通の高校生はこんなことしない。お前の言いたいことやりたいことはまだ理解できるがそれは大人の話だ。俺達はまだ高校生。ガキだからせめて抱きつくだけで終わらせろ」

五十川がこくこくと頷くのが背中越しでわかる。

「てか、さっきまで裸見られただけで蹴飛ばしてたやつが何やってんだよ。飛躍しすぎだろ、淑女と痴女の間で進化しすぎだ」

「今は服着てるので大丈夫です。それとも脱いだ方がいいですか」

「そんな問題じゃない」

俺は五十川の腕を解いて布団の端に寄って向かい合わせになった。

「布団がないから別にこのまま俺の布団で寝てくれて構わないが、普通に寝るからな。決して変なことするなよ。話の続きは明日の朝だ」

とっさの回避行動として寝ることを選択した。これなら何のないと思ったのだが、

「スキありっ」

五十川が正面から頭に抱きついてきた。顔全体を身体より柔らかい物体が包み込む。

まてまてまてまて。グングニルをスリープ状態にして大賢者モードを起動…




このあとめちゃくちゃセッキョウした。

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