2-4同居

はぁ。疲れた。

一日中家の片付けをしていたせいで身体中が痛い。そんなに溜めていたつもりはなかったが、俺のガラクタは結構多くそれを整理するのに三時間ほど費やした。現在時刻は午後七時。俺が風呂に入ってる間に五十川が飯を作ってくれていたようで台所からは食欲を刺激するいい匂いが漂ってくる。どうやら今晩は肉じゃがのようだ。

頭にタオルを乗っけて冷蔵庫から出した麦茶を飲む。髪の毛をとっとと乾かしてしまいたいが風呂場には五十川がいる。姉弟ならまだいいと思うが洗面所からドア一枚挟んだ向こうに同級生の女子がいるところで髪を乾かすのはやめといた方が良さそうだ。変な気を起こしかねん。

だが今はそんなことどうでもいい。俺の今一番の懸案事項は五十川にどうにかして普通に接して貰う、ということである。さっきから考えていたが五十川がぎこちない振る舞いをしてるのは緊張してるからだと思う。俺がもし会って一日二日の人間と一つ屋根の下にいたら絶対に緊張する自信がある。ていうか今してる。

だから晩飯が終わったあと何か緊張をほぐすようなことをしよう。何がいいのかな。映画とかはそんなに観ないから家にないし、ゲームも一人でするもんしかないしな……。そういえば昔は弟や妹とよくテレビゲームやってたな。正直、二人とも弱くてとても俺の相手にはならなかったが楽しかったことは覚えている。丁度小遣いも貰ったし買ってもいいか。

そんなことを考えていると風呂場から俺を呼ぶ声が聞こえた。

「ご主人様~。足ふきマットはどこにあるんですか」

昨日洗濯したあと出しておくのを忘れてた。

「ちょっと待っててくれ」

洗面所に突入、タオル類を入れてるバスケットから足ふきマットを出す。

「敷いておいたよ」

ふと洗濯機の上に乗っかっている布に目がいく。それはどう見ても女性用の下着。綺麗に畳まれた白色の下着をしばらく俺は観察した。

白か。俺はどちらかといえば黒の方が好きだが、これがこれでそそるものがある。

ガラッ。

「ん?」

思わず振り向くとそこには生まれたままの姿の五十川がいた。

「_______」

「_______」

これは俺は悪くない。俺が洗面所にいるとわかってて風呂から上がってき……

バゴーン!!

「うわっ!!」

俺の顔面にめがけてタライが飛んできた。続いて左ストレート、右フック。

「ちょっ。まてまて」

五十川の攻撃を俺は必死に回避したが最後に左の後ろ蹴りが命中、俺は廊下の壁に叩きつけられた。

「ふぐっっ」

いってーな。俺が蹴られた腹をさすっていると今度はバスタオルを纏った五十川が出てきた。

「なっ。なんで私の裸見たんですか」

「どう考えても俺がいるのに風呂から出てきたお前が悪いだろ」

後ずさりながら反論する。実際俺は悪くない。世界中の男にどっちが悪いか聞いて回ったら全員俺の味方をしてくれる自信がある。

「見ましたよね?」

それは認める。

「そりゃ目と鼻の先に裸の女子高生がいたら思わず見ちゃうだろ」

「遺言はそれだけでいいですか」

ファイティングポーズをとった五十川からはどんな生物も震え上がるほどの殺気が感じられる。

右足が地面から上がったのを確認した俺は咄嗟に歯を食いしばった。この距離なら多分腹に膝蹴りが来るのだろう。しまった腹筋にも力を入れとけばよかった。

服に膝が当たった感触がした。このあと一時間ぐらいは動けなくなるな……と思ったが、

「きゃっ」

馬鹿!足元濡れてたらそりゃ滑るだろ。五十川の身体が倒れていくのを見た俺は咄嗟に庇った。

「ごふっ」

人一人が降ってきた衝撃を受けた体がビクッと痙攣する。そして確かな重さを感じた。

それにしても。柔らかい感触が胸から腰にかけて広がっている。女性ってやっぱ柔らかいだな…。タオル越しで伝わってくる温もりを感じながらそんなことを思っていた。

「あの。そろそろ離してください」

「すっ、すまん」

俺は慌てて五十川を抱いていた腕を解くが、倒れたひょうしにバスタオルは解けていたようだ。俺の体の上から離れていったのは五十川の身体だけ。つまり。

俺の目には五十川の胸が飛び込んでくる。少し控えめだがそれは整った形をしていて……。俺の理性のタガを外すのには十分すぎた。自然と上半身が起き、手が伸びる。あとはどうにでもなれ。

五十川は何かを察したかのように顔を赤くして目を背けてた。呼吸に合わせて上下する肩、髪から流れる落ちる雫。

その全てが興奮を加速させる。このまま五十川と抱き合い営みたい!全てを奪ってやりたい!!

あともう少しで手が届く。その時だった。


バシィっ。


切り裂くような痛みが右頬を貫く。

バシィっ。

続いて左。

バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ

「ふごぉ」

凄まじい勢いで平手がが両頬を襲う。俺は馬乗りにされているので逃げることは不可能。

「へっ変態!!痴漢!!」

容赦なく打ち付けられるビンタに痛覚は麻痺したらしくそれに伴いどんどん意識が遠のいてゆく。





どのぐらいったただろうか。永遠にも感じた往復ビンタが終わった。視界全体をプラネタリウムのようにたくさんの星が回っている。

しばらくヒリヒリした感触と濡れたTシャツの冷たさは残っていた。

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