2-3同居
「ここに皿と箸が入ってるから。んで立て付け悪いから無理に開けるんじゃないぞ」
えいっ。ガッチャーン。
「だから無理やりやるなって言ったろ。」
昼飯を食べたあと俺は五十川に家のどこに何があるか、とかキッチンや洗濯機等の使い方を一通り教えてまわる。五十川は、さすが家政婦アンドロイドと言うだけあって言ったことへの飲み込みがとても早い。
「私は今から何をすればいいですか。ご主人様」
「何もないよ」
特にやることもなさそうだったので俺はそう言った。
「お風呂掃除とかやらなくていいんですか」
「風呂は昨日入ったからいい。明日誰かに会う訳でもないんだしいいよ」
ダメです。五十川が声を張り上げて言った。
「ご主人様が汚いままでいるのは嫌ですし……その……なんて言ったらいいのか……」
もじもじしてるとこも可愛いな。
「私も……汗とかかきますし……下着も変えないとご主人様に不快な思いをさせるっていうか……」
俺はどちらというか格好に気を遣わない方だから風呂は水とガスと金の無駄遣いぐらいにしか思ってなかったが、そうか。赤面している美少女にダメと言うのは心苦しい。
「自分が入りたいならそう言えばいいだろう。なーに、そんぐらい聞いてやれるよ」
「いいんですか?」
五十川が首をかしげる。
「その代わり掃除はしっかりとやってくれ」
「じゃあ布団選ぶか」
五十川が風呂掃除を終えたのを見計らい某通販サイトで布団を検索、リストを表示させる。
「あ。私はこの安いのでいいです」
五十川が指したのは、それはうす汚い布団だった。例えるなら時代劇に出てくる農家で今にもくたばりそうな老人が横たわってるボロボロの布団と言った感じの。てかよくこんなん出品したな。
「それ中古だろ。どこぞのジジイかババアが寝たあとの汚い煎餅布団をいえにおくかっつーの」
すいません。
しばしの沈黙。
「じゃあこれにします」
五十川がちょっと悩んで指したの布団はさっきと違って新品だが、これまたボロそうだった。
「もっと良いの選んでいいんだぞ。布団なんて毎日使うもんなんだからちょっとぐらい高いの方がいいよ。睡眠の質が全然違う」
しかし五十川は首を横に振った。
「いえ、私は安いので結構です。私はあくまで家政婦アンドロイドなのでそんなにいい扱い方をしてもらっては困ります」
仕方ねーな。
えいっ。ポチ。ポチ。
「あのっ」
俺は画面の下の方にあった何万円かする布団をクリック、素早く注文した。
「さて。まだ早い時間だから夕方までには着くだろう。ほんじゃあ部屋の整理と片付け、とっとと済ますぞ」
「あっはい……」
彼女は何か言いたそうな顔をしてパソコンの前から去った。
「なあ。五十川ってここに来る前にどこにいたんだ。ほら前、俺に私がどこから来たか今は言えないって言ってたろ。あれ気になってたんだよ」
寝る場所を確保するために部屋を片付けている途中、ふと聞いてみた。
「いえ。そんな大したことないですし、わざわざ言うようなことではないです」
五十川が床を雑巾で拭きながら答えた。
「あれ、けっこう気になってたんだよ。ほら、古谷ってやつにも同じ話してたんだろ。あいつも気になってるって言ってた」
「古谷さんが?」
五十川がそう呟いた。そして何やらどんなこと考えて……とかぼそっと言ってるような気がした。
「なんかあるのか」
「いえっ。な、何もないです。すみません」
なんだろう。この違和感は。転校してきたあとの挨拶、授業の前に俺と話していた時、兄貴と口論していた時、そして今。五十川の態度というかキャラクターがコロコロと変わっている気がする。そりゃ誰でも同じ態度で接することのできるような人間なんてそうはいない。ただ、それを加味してでもこれではない。これじゃない。って何かが俺の中で渦巻いている。
兄貴は俺に彼女をあげる。と言った。だが、五十川はまるで俺と主従関係にあるような立ち振る舞いをしている。たとえ家政婦アンドロイドという文言がついてたとしても、俺はクラスメイト、いや同居している人を自分の従者とは思っていないし思いたくもない。
「あのー、ご主人様。この箱はどうしたらいいですか」
「ん?なんだこれ」
箱の中身は俺が一年生の時に使った教科書やプリントだった。数Aだの化学基礎だのもう一生関わりたくない教科が目に飛び込んでくる。でも…
「懐かしいな。ここらへんもう捨てたと思ってたのに」
だが、もう使わないものだし捨ててしまっても構わないだろう。
「次の紙ゴミの日に捨てるから向こうにやっといてくれるとありがたい」
「わかりました」
五十川がそれを持ち上げた時、箱からひらりと紙が落ちた。
「わっ。この写真ここに入ってたのか。なんだか懐かしいな」
その紙の正体は部活で撮った写真だった。去年の十月に当時の三年生がたまたま部室に揃ってた時、部員全員で集まるのも最後だろう、と渡耒先輩の鶴の一声で撮った写真だ。俺と古谷ももちろん写っている。
「そうだ、五十川。良かったらうちの部入らないか。部活まだ入ってないだろ。うちは部員少ないから大歓迎だよ」
思い出したように言った言葉に対し、五十川は首を横に振った。
「いえ。私は大丈夫です」
そう言い残し彼女は玄関に向かっていった。
「おっ。おい……」
その背中はとても小さく見えた。
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