初恋物語

気づいた想い


―――


 俺、高崎亜希は今まで女を好きになった事なんてなかった。かと言って男を好きになった事もない。

 そんな俺が初めて好きになったのは、親友だった……




―――


「なぁ、亜希。英和辞典貸して。」

「えぇ?またぁ?」

「次の英語の時間に必要なんだよ。俺、昨日家に持ち帰っちゃってさ。頼むよ。」

「……その言い訳、昨日も使ってたぞ。」

「そ……そうだっけ?まぁ、そんな細かい事は気にしないで、早く貸してよ。」

「わかったよ……っていうか持って帰ったんならそのまま持ってこれるだろ。まぁどうせ、引き出しの奥か押し入れの段ボールの中で埃被ってるのがオチか。探しても見つからないからてっとり早く俺の所に毎日通ってるって訳ね。……はい、どうぞ。」

 小言を言いながら鞄から辞書を出して篤に渡す。

「サンキュー!亜希、愛してるよ♪」

「バ、バカ!そんな事冗談でも言うなって……」

「へいへい。じゃあ終わったら返しに来るから。」

 辞書を高く掲げて教室から出て行く。俺はため息をついた。


 篤は俺の親友。家が近所で小学校から一緒の幼馴染だ。

 悪い奴じゃないんだけど軽いというかチャラいというかお調子者というか……

 でも優しくて友達思いで義理人情に厚いところは、長年の付き合いでわかっている事だ。篤の事は俺が一番理解しているし、俺の事も篤が一番わかってくれているって思える。そのくらいの信頼と絆が俺達の間にあるって感じていた。


 だけど最近の俺はどうも篤に対して妙に意識しているというか、話していて目が合ったりするとドキドキしたりする。こんな事今までなかったから色々と考えたけど、原因となるものは一つしか思いつかなかった。でも俺達は……


「相変わらずね、篤は……」

「沙緒里……」

 後ろから声が聞こえたから振り向くと、クラスメイトの沙緒里が立っていた。

 美人で頭も良くて性格もサバサバしていて誰とでも仲良くなれる、完璧人間。そして篤の……彼女である。


「また辞書借りに来たの?」

「う、うん。まぁ……」

「亜希に借りないであたしに借りればいいのにね。」

「そうだよね。別に俺じゃなくてもいいじゃんって話だよね。」

 あはは……と乾いた笑いが出る。すると沙緒里が真面目な顔で言った。

「でも篤はそういう男なのよ。」

「え?」

「彼女より親友が優先。そういうポリシーを持って生きてんの。」

「んな、バチ当たりな……」

「そう思うでしょ?でもね、あたしは篤と亜希がじゃれ合っているのを見るのが好きなの。だから篤がいくら亜希を可愛がっても平気。むしろもっとヤれ!って思っちゃう。」

「へ、へぇ~……大人ですね。」

「でしょ?」

 何か目が妖しい光を宿した気がしたけど、気にしない事にして反論した。

「でもさ、篤はヤキモチ妬いて欲しいんじゃないの?」

「えぇ!?あの篤が?」

「うん。」

「まっさか!もしそうだったらお腹が裂けちゃうわ、笑い過ぎて。」

 カカカッ!とでかい口を開けて笑う。ホント、美人なのにこういうところがあるからあまり女の子として見られてない節がある。まぁ、だからこそ篤と合うのかも知れないけれど……


「沙緒里……聞こえてるぞ。」

 突然の篤の声に沙緒里が笑いを止めて固まる。

「あ、あれ?教室行ったんじゃなかったの?」

 若干声が震えている。篤も何か恐い顔……というか心底傷ついたっていう顔をして沙緒里を見ている。

 俺は初めて見る修羅場的な雰囲気に、何も言えないでただ見てる事しかできない状態だった。


「辞書使わないみたいだから返しに来たんだよ。」

「そう……」

「で、何?俺の事笑ったら腹が裂けるの?」

 顔は笑っているが目は笑ってない。こういう時の篤って恐いんだよね~……

 何回もそういう経験あるからわかる。俺は堪らなくなって篤にしがみついた。


「篤!怒っちゃダメ!」

「亜希……離せ。」

「いや!沙緒里は変な意味で言ったんじゃないんだよ?ジョークっていうかちょっとふざけただけで……」

「…………」

「俺が悪かったんだ。篤がヤキモチ妬いてるかも、なんて言ったから。お前がどこから聞いてたかはわからないけど、沙緒里は篤が俺とじゃれ合ってても平気だって言った。俺達の事ちゃんとわかってくれてる良い子だよ。だから怒らないで!」

「亜希……」

「お願い……!」

「ぷっ!」

 ん?ぷっ?何か頭の上から聞こえたような……

「あははっ!」

 あれ?今度は前から?

 俺は不思議に思って顔を上げると、爆笑している二人がいた。


「え?え?何?」

「ごめん、亜希。騙すつもりはなかったんだけど、お前が余りにも必死になってるからつい……」

「あたしも最初はビビったけど途中から篤の顔がニヤけてきたから、あぁ冗談だったんだなぁって気づいたの。それにしても亜希、篤の腕にしがみついて『怒っちゃダメ!』って……ホントあんたって可愛いんだから♪」

「え、どゆこと……?」

 軽くパニックになってると、篤がまだ抱きついたままの俺を優しく剥がしながら言った。


「つまりだな。最初から冗談だったって事だよ。怒ったフリしてただけ。」

「えぇーーー!?」

「私も途中から気づいてて何も言わなかったからごめんね。」

「えぇ~~~……」

 一気に力が抜けた。俺の力説は何だったの……


「でもありがと。私の為に必死になってくれて。嬉しかった。」

「だな。ありがとな。亜希。」

 二人が並んで笑顔を見せる。その様子が幸せなカップルオーラ全開って感じで、俺の気持ちは落ち着かなかった。何故かイライラする。


 いつからだろう。二人の事をこんな気持ちで見てしまうようになったのは……

 本当は応援しなきゃいけないのに、素直になれないのは何故なんだろう。

 その答えはもう出てるのに認めちゃいけないのはわかってる。けど……


 自分が嫌になるほど、俺は篤が…好きなんだ……



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