第7話 このままで?
「ブログは書いてます。メニューも作りました。カードリーディング、30分で3000円なんです。でも、お客さんぜんぜん来なくて・・・。このままでいいのかなって」
「このままで?」
「はい、あの、このまま売れないままで」
「それは、知られてないからですよね!マサエさん、今読者数どのくらい、います?」
「えっ・・・と、じゅ、いや9人くらいかな」
「それ、無理ですよ。ってゆーか、来るわけないから!そんなんで来るわけないって!」
美百合は吐き捨てるように言った。マサエは一瞬、言葉に詰まった。なんで、そんな言い方されなくちゃならないんだろう・・・。そもそも、わからないから申しこんだのに・・・。隣で、美百合に愛想笑いをしているみやびの笑顔も嫌だった。
「あのね、今やることはとにかく読者数を増やすことです!んな、10人とかそんなレベルで客来ないって!当たり前だっての!ブログ更新するのは当たり前だけど、どんどん読者申請して、マサエさんのこと知ってもらわないと。でブログで、うちに来たらこんないいことありますよ、ってそういうアピールをしていかないと。わかる?」
「はい・・・。まあ・・・」
明らかに自分より年下の人間に、しかもこちらがお客のはずなのに「タメ口」をきかれる不快感と、他人の前でバカにされる恥ずかしさでマサエは来たことを後悔した。
「そんな読者数で、今そんなこと言ってるってのが甘いんですよ」
美百合の持ち味はこの「毒舌」だったろうかとマサエは思う。そんなこと書いてあったっけ・・・。美百合の隣で、女の子は無言で絵を描いている。この子は、慣れてるんだろうか、母親のこういう態度に。
「マサエさんは、本気でカードリーディングやっていきたいんですよね?」
「はい」
「だったら、今までのやり方を変えないとダメですよ。お客さん、全然来なかったんでしょ?いいものがあっても、それ、知られてなかったらそりゃあ、お客さん来ませんよ。私も言い方がキツイところがあるけど、ついてきてくれるなら全力でサポートしますよ?私だって、最初はぜんぜん、来なかったもん。その大変さ、わかるから・・・」
美百合は、先ほどの意地悪さが嘘であったかのように目に優しさをにじませた。
「マサエさんは、自分をどういう人間だと思ってます?」
「はい?」
「それ、ちょっと書いてみて。みやびさんも、書いてみて。渡した資料の裏でいいから」
「箇条書きで?」
「箇条書きでもなんでもいいから。思いつく限り」
マサエとみやびは、言われたとおり自分のことを書いてみた。真面目、頑固、優しい、ちょっと気が弱い…。それらのことを思いつく限り書いてみた。恥ずかしいけれど、自分にこうして向き合うのも悪くはない。
「できたら見せてね~」
と美百合が言い、隣に座っている子供の絵を見ている。子供は、もくもくと絵を描いている。親子に見えるが、それにしても2人にはほとんど、会話というものがなかった。
「お子さん、何歳なんですか?」
思わず、マサエは聞いた。
「この子?えっと、4歳」
「お子さん・・・ですよね。可愛いですよね」
「え?違う違う。あたしのじゃない、おねえちゃんの子。ちょっと預かってんの」
美百合は、額にかかる髪をかきあげてマサエを見た。
「できたら、見せてね」
マサエとみやびは、それぞれ「自分のこと」について書いたものを美百合に手渡した。それを注意深く見ながら、美百合は2杯目のカフェラテを注文した。
「マサエさんからいきますね~」
「はい」
「真面目、優しい、ちょっと気が弱い、頑固、お金が貯められない、友達が少ない、母親と仲が悪い、カードを読むのが好き、お昼寝が好き・・・あはは。ウケる」
目の前で声を出して読まれたことにも驚いたが、マサエはもうあきらめた。美百合はこういう性格なのだろう。ガサツというのか、デリカシーがないのだ。
「・・・で、マサエさんは今、どんなことが一番のお悩みなんですか?」
さきほど一瞬見せた優しさはなく、腕を組んだ美百合はただただ、つっけんどんだった。
「カードリーディングで仕事やってくことの悩みは、ここにないよね~。ここに書いてあることの中に本当の答えがあるんだけどさ、自分で気づいてる?」
「え?」
「マサエさんさ、実際優しそうじゃない?気が弱いってのも合ってるし、そこはよく自分のこと分かってるなって思うんだけど、カードやってくのってなんで?お金ほしいから?」
「いや、そういうのもあるけど・・・」
「だよね~。だって3000円じゃさ、儲けになんないもんね。30万欲しいなら月に100人以上お客さんこないとなんないもんね~。だから、お金じゃないんでしょ、動機。で、友達も少ないってことはさ、まあお客商売に向いてないよね~。だって、人が苦手な感じするもんね、アレでしょ、マサエさんてお母さんとの問題があるよね?書いてあるしさ。まあ、人を癒したいとかいうのって言い訳だよね」
ずけずけと言う美百合の言葉に、マサエは図星をつかれた。
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