第6話 それでやっていきたい

「さ・て・と!全員そろいましたね~!」

と美百合はようやく本領発揮といったように急に笑顔を見せ始めた。背筋もピンとしている。(始まるのだ)とマサエはドキドキした。(さっきは愛想が悪いなんて思って、悪かったかも・・・)と、美百合の次の言葉を待つ。美百合はカバンから資料を取り出すと、マサエと田口みやびの前にそれぞれ置いた。そしてしゃんと正面を向くと

「はじめまして!吉谷美百合です!本日はお申し込みいただきまして、ありがとうございます!みなさんの夢のお手伝いができたらいいな、そんな風に思っています」

にこやかに笑う美百合は、先ほどよりきれいに見えた。大柄なのも頼もしく見えた。

「それぞれ自己紹介をお願いします!えっと・・・まずは~、そしたらマサエさん!」

「はっ、あ、はい・・・」

頼んだコーヒーがそんなときにやってきた。美百合はカフェラテを置いてもらいながら

「ああ!みやびさん!まだ頼んでませんでしたよね!」

とマサエの鼻先を横切って、みやびに自分のメニューを渡す。出鼻をくじかれたような気がしたマサエは(ああ・・・なんだかもう・・・)とやっぱり少し帰りたくなった。


「ええっと、えっと。沖田マサエです。43歳です。カードリーディングを自宅でやっていますので、それをもっと発展させて人様のお役に立ちたいな、そんなことから今回のコンサルにお申し込みさせていただきました」

わきの下にじんわりと汗がにじむ。美百合とみやびを交互に見、なんとか自己紹介を終える。


「ふ~ん。マサエさん、カード読めるんですね・・・。そうなんだ~!」

と美百合は腕を組む。そして

「じゃ、それでやっていきたいってことですよね?」

とマサエをじっと見つめた。何か、面接のような緊張感が漂う。

「そうですね・・・」

「うん、はい。じゃ、次はみやびさんね」

美百合はみやびの方に体の向きを変えた。


「はじめまして、田口みやびです。歳は45歳です〜。私、あの昔から天使とか、そういう存在にすごく興味があって、で、そういう存在とつながれるワークショップに参加したんですね。半年くらい前?そしたらいろいろ見えてきちゃったり、聞こえてきちゃったりして、で、『田口さんすごい』ってマスターもおっしゃって。みんなにもすごく賞賛されて?だから、なんかこう、そういうことでなにか、仕事的な何かになれないかなあと思って・・・。天使にもそうすすめられて。主人もいいんじゃないって」

少女のような笑顔で話すみやびを、マサエはうらやましいと思った。こんなに可愛らしい人なら、天使もコンタクトをとりたくなるかもしれない。また実際そんな風に語れるのだからメッセージも聞こえてくるのだろう。私なんて、カードリーディングだけだ・・・。


「チャネリングですね、みやびさん。すごいじゃないですか!もう結構、そういうの・・・」

「はい、ええ。なんかこう、今もそうなんですけどなんかね、聞こえてきちゃうんですよ」

「大天使とか・・・私もそうですよ!」

「うふふふ」

美百合とみやびの、2人の会話はしばらく続いた。そっと時計をみると、この話題だけで15分は過ぎている。会話に入っていけないながらも、マサエは愛想笑いだけは忘れず、アイスコーヒーを飲んだりストローの袋をもてあそんだりしていた。そんな様子に気づいたのか、美百合は今度はマサエのほうに向きなおると

「・・・で、マサエさんは、カードリーディングですよね。それでやっていきたいんですよね。もうプランはできてるんですか?値段とかメニューとか。ブログとかってもう書いたりしてます?」

と聞いてきた。ようやくそれらしくなってきたとマサエは思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る