第4話 これも、何かのご縁
「・・・で、マサエさんは今、どんなことが一番のお悩みなんですか?」
と、じろじろとこちらを見、つっけんどんな物言いをする目の前の女性の言葉を
を聞きながら
(コンサルって、こんなにこわいものだったのか・・・)
マサエは少し、後悔をしていた。
「コンサル」「起業」「スピリチュアル」などで検索をし、ある女性のもとにたどり着いたのが2週間前。「ヒーリングルーム・えびす」を立ち上げてからすでに2カ月を過ぎ、もう8月の半ばだった。「女性のためのスピリチュアル起業♡応援します」というハートに溢れた文字と、いかにもやり手風のプロフィール写真、そして「お客様のご感想」というものの多さから、誠実な感じがしたのだった。
「吉谷美百合」と、いかにも本名らしい名前で堂々としているのもよかった。他にも、いくつか検索してのぞいてみたし、実際「いいかな、これ」と思うものもあった。しかし、いずれも料金がべらぼうに高いのだった。「あなたの魂の使命を思い出す」という、そそられる内容のものは3日間で30万円だった。なかでも文書に誠実さを感じ、堂々としたプロフィール写真を載せている男性はいかにも高そうなスーツ姿で、ネクタイはなし。「スピリチュアル起業の専門家」とあり、株式会社の代表でもある。黒々とした顔と真っ白な歯の笑顔、そして肩書の多さがその自信を物語っている。「あなたの『強味』を引き出します」との文句にマサエは心が傾きかけた。
この、自信ありそうな堂々としたおじさんのところにゆけば、3日で人生を変えてくれるのかも・・・。実際、30万円ならなんとか出せない金額ではない。安いとはいえないまでも自分への投資として考えれば、スピリチュアル業界ではこの金額はザラなのかも。しかし・・・と、リビングでぱちぱちと爪を切る夫、ヒロシの優しい顔が思い浮かんだ。そんなにあったら、ヒロシくんのスーツを新調してあげないとな。いきなり30万はやっぱり、ちょっとな・・・
そんなときにたまたま見つけたのが「吉谷美百合」のサイトだった。優しく、ほわんとしていそうで、自分の過去の経験を赤裸々に書いている。苦労したからこそ、他人に貢献したい。経験し、学んだことを余さず伝えて女性の起業を応援したい。
そんな意気込みが伝わる文面だった。丁寧なアフターフォローがあるのもよさそうだ。コンサルについては3カ月で15万円とある。起業に関しての知識を「こんなに教えてもいいの?というくらいお伝えしちゃいます」とあり、「まだ悩んでしまう方へ♡初回コンサル料は2時間1万5000円です」との言葉にマサエは決断したのだった。これも、何かのご縁だと思った。
待ち合わせはホテルのラウンジかと思いきや、都心に近い街中の、小さな喫茶店だった。かなり稼いでいる印象があった割に、なかなか庶民的だ。でもそれも、お客に対して気を遣わせない配慮なのかも・・・。そう思いつつもマサエは生来の生真面目さから(何を着ていったらいいんだろう)と悩み結局、無難な紺色のワンピースに白いカーディガンにした。
私鉄駅から徒歩5分ほどの場所にある喫茶店「カフェ まろうど」に着いたのは午前10時50分。開始時刻より10分も早めだった。8月の日差しは午前でもジリジリと焼け付くように暑く、汗っかきのマサエは少しでも早く涼しい店内に入って、汗をふいて待機しようと思ったのだった。しかし喫茶店はまだ開店しておらず、主催者の姿もまだない。ガラス越しに見える店内もなんだか、薄暗い。外にでている看板を見ると「営業時間:11時~20時」とある。でも、開く気配がない。
「時間通りじゃないと開かないってこと・・・?」
店の軒下で汗をふきふき一瞬、店を間違えたかと思うマサエであったが、確かに店名は合っている。そして、店のドアは固く閉まっている。認めたくないが(だまされたのかも)という懸念がかすかにたちのぼる。吉谷美百合の携帯に、連絡してみようか・・・。
と、そこへ
「あれー、早いですね!」
というハスキーな声がし、大柄な迫力のある女性が向うからやってくるのが見えた。小さな子供の手を引いている。
「こんにちはー。吉谷美百合でーす」
思ったのと違う、かなり体育会系な女性が本日の主催者だった。
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