第10話 作戦会議
良平は日記帳の表紙に手をかけたあと、僕の方をまっすぐに見て言った。
「これから、例え何があっても俺はお前を優先して行動する。俺は、時の使者だからもう、死にたいほど生きた。だから、もし俺の身に何があっても、俺が止まるなって言ったら絶対に振り向くな。俺は絶対にお前に追い付くから。」
良平は、何ににも屈しない鋼を瞳に宿しているかのように真剣な目を僕に向けてきた。何度も念押すように僕の心配をしてくる良平は単に、これからの事を考えて心配しているのか、何かを暗示しているのかどちらか僕には分からなかった。
「わかってる。良平が望むことは僕にとっても大切なことだから…。でも、僕からのお願いも1つ聞いてくれる?」
「なんだ?」
自分の頼みだけ聞いてもらおうなんて、いい身分だな。良平の事をどれだけ信頼しているかは、言葉にしなくても体が理解している。だからこそ、この約束だけは守ってほしい。
「僕がもし、道を誤ろうとしたり、誤ったら、軌道修正は良平がしてくれ。あの能力を使えばできるだろ。例え上限を越えたとしても、僕のせいでこの世界を終わらせるなんてごめんだから。」
「あの、悠、俺がさっき言ったこと覚えてるか?俺は、お前に生きていてほしいって言ったんだ。お前が言ってるのは真逆なんだが。」
良平は怪訝そうなという言葉が当てはまりすぎて面白いくらいに怪訝そうな顔をした。
「聞いてたよ。」
僕は平然と答えた。というより、言い切ったといっ方がいい。
「僕は、さっきも言ったけど、記憶している人がいなくなることで人間自体の消滅を意味するっていう考え方なんだよ。つまり、良平さえ生きていてくれれば、僕は生きていられるんだよ。」
やれやれと言わんばかりに良平は眉をハの字にした。
「結局、俺がなんて言ったってお前は自分の意志を変えるつもりなんてないんだろ?あーあ、わかったよ。」
僕がその通り!と返答する隙もなく良平は一人で頷いた。
「わかってくれたんだね!」
わざとらしく言って見せた。
目を合わせて僕らは笑った。笑い合った。
きっとこれから起こることは些細なことで笑顔になれないと、真っ暗な夜中の道を歩き続けることになる。
だから、この感覚をしっかり二人とも覚えておかないといけない。
「じゃあ、覚悟はいいな。」
良平はクエスチョンマークは語尾につけなかった。
「…。」
僕は自分の首が動くことで生じる風の音を聞いた。
「俺も、二人の転送はしたことがない。だから、悠が記憶を所持してる保証はない。」
鉄板のように固い口調で言う良平に対して僕はおちゃらけて言う。
「記憶と言っても、たいそうな量じゃないけどね。」
「あぁ、けど、お前の意志があるだけでも、俺は、心が救われるよ。それだけの力が悠にはあるんだ。」
心の糸が繋がった。
オレンジで暖かい色だ。
「じゃあ、頼むよ。俺は、今を忘れない。」
僕は良平の手と日記帳の表紙を三つの物体で円を作るように繋いだ。
「いくぞ!」
良平は手に力を込めた。
真っ暗な世界が僕らを包んだ。
「汝、時を制する者よ。我が身に宿る時の霊を呼び覚まし、我が望む空間へ転送の儀を起こせ。」
呪文的な言葉を唱え終えた。
日記帳の髪は風になびき白い光を放ちながら、僕らの字を立体的に空間へ写し出し、消えていく。
僕は窓の奥を見た。
閉じられている窓は魔法の衝撃で破壊されハッキリと外を僕の目に焼き付ける。
瓦礫だった。
殺風景をもいいところだった。
僕はこの未来を捨てる。
覚悟なんて命をいくつかけても足りない量だ。
そんな意識は遠退き始め、僕らは瞼を閉じた。
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瞼をこじ開けようとする光が一直線に飛んできた。
「う、う~ん。成功したのか…。」
僕は360°世界を見渡した。
「良平は…、いる。」
喜ぶと言うより安堵しかなかった。
「…っ!」
冷静になっ目見渡すと、ここは初めて誤作動で転送された場所と全く一緒だった。
しかし、僕らには1つだけ違うことが合った。
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