第8話 作戦会議

「もう一度聞く。良平、僕は何をすればいい?お前の望む未来は僕が必ず作り出して見せる。」


僕の決心は、白金よりも固く、簡単には溶けてしまわないような輝きを見せる金属になっていた。


「あぁ、今から言う。これは、この時間をしっかりと生きて、時間の流れに逆らうことの無い存在である者は一生知らないはずの話なんだ。俺が悠に伝えると言うことはできるならしたくなかった。それに、その事を知ってしまえば…悠は、普通の時間を生きていけたはずの悠は、日常を捨てる危険性を必ず伴ってしまう。それでも…。」


あぁ、まただ。良平はかっこよくて優しすぎるな。優しすぎるから今まで辛かったんだな。なのに、僕を頼れると確信できたはずなのにまた、彼は僕に確認を求めようとする。

まるで、この事を知らないことにしてこの前代未聞の舞台の幕をあげる前に下ろしてしまおうかとする勢いを持ったような口ぶりで。


僕は、覚悟はできている。

だから、ごめん。良平。

良平には悪いけど、お前の話を最後まで聞いてあげるほどいい子じゃないんだよ。


僕は、良平の優しさを遮り口を開く。

「なぁ、良平。僕は大丈夫だよ。お前は昔から優しすぎる。だから、僕は少し悪い子になろうと思うんだ。」


慣れないことを言うことは難しい。早口言葉みたいに。だけど、なぜか呼吸をするかのように、針で指した風船が空気を漏らすかのように自然と外に出てきた。


「この時間を盗んじゃおうよ。」


こんな言葉二度と言わない。どこのキザな怪盗だよって話だけど、良平の時間を変えるんだからこのくらい大袈裟に言わないとね。


「ハハハハハッ!」


良平は一瞬ポカンとした。しかしそのあとに、病室に一気に音の水が溢れかえった。


「あぁ、もう、悠はほんとに最高だよ。真面目な顔をて何を言うかと思ったら。どこのキザな怪盗だよ。」


キザな怪盗だよって…。僕も思ったよ。そこは、わかってるから突っ込まないでほしかったな…。

あぁ、大丈夫。僕らはきっとこの先も不変のものだ。何があっても、どんな運命でもくだらない軽口を叩き合える仲だ。


「よし、本題にはいるよ。悠、俺はお前を信じることをここに誓うよ。」


いつもの良平の顔だ。

そして、志をしっかり持った晴れやかでかっこいい顔だ。


深呼吸をする。

「さっき、俺は運命を動かすことができる能力なんだって言ったけど、正しく言えば、同じ時間を好きなときにループすることができるから大体の事は、自分の思い通りに事を進めるルートを見つられるってこと。でも、俺が悠に言われたリスクについてちゃんと考えてなかったんだ。」


苦虫を噛み潰すような苦しみを表現するには十分すぎる表情を見せた。


「俺は、時を戻す能力の限界値を見誤っていたんだ。何度でも使えると思ってた。けど、俺は、お前たちがいなくならない未来を作るために 100回以上ループの能力を使って運命を作り変えてきた。そして、一週間前に俺たちのボスから能力の限界を告げる通達書が送られてきたんだ。」


…、俺たち…。

他にもいるってことかな…?能力か。


「俺は、後1回しか過去に戻るループの能力を使うことができない。そして、今の状態を見てわかると思うけど…。」


真夜中に独り彷徨っているようだった。

何かに憚れているかのように口ごもった。


「今、ここにいるのは俺と悠…。二人だけだってことだ。」


沈黙が姿を見せた。

シーーンという文字が空間に浮かんでしまうくらい、静けさしかなかった。


「だから!俺は、お前と協力してみんなを…。みんなを取り戻したい。」


「みんなは今現在の世界にはいないっていう解釈でいい?」


直接的な表現は使いたくなかった。使うべきじゃないと思った。


良平はどれだけ辛かっただろうか。測りきることなんてできないことは確かだ。一人できっと怖かっただろう。


結局最初は僕には嘘をつこうとしてたくらいだからな。

何度も、その場面を見てきたんだろう。

雨が降ってきた。

頬を伝う熱すぎる雨だ。


「良平、大丈夫だよ。僕は絶対にお前の前から今後消えないから。安心して。」


良平の言葉を遮ったが、どうしても言いたかった。


良平は聖母のように微笑んだ。


「俺が一人だけのときは、記憶も俺一人分だけしか残らない、だけど、悠も過去に戻ることを知っていたら…、もしかしたら、悠の記憶も繋ぎ止めれるかもしれない。それだけで、十分に生存確率は上がる。」


希望と言う名の光。

それが、まるで僕かのように話す良平に心動かされないはずがない。


「必ず忘れない。良平が苦しみながらも判断して、僕に話してくれたことを絶対に後悔させないよ。」


ふと思い出した。


何故、僕が日記帳に吸い込まれたのか、そして、その日記帳に今まで吸い込まれなかったのは何故か。僕の記憶が戻ろうとしたときの文字列はなんだったのか。


「ねぇ、良平、どうしてあの日記帳に僕は吸い込まれたの?そして、なんで今まで吸い込まれることはなかったの?僕を苦しみから救った力は何?」


きっとこれは好奇心。

僕の疑問はこれからもずっと加速し続ける。

だからこそ、僕は良平について行く。良平と今を変えるんだ。


良平は少し考えてまた楽譜を黒く染めていく。


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