第7話 昔話をしようか その3
きっと光を灯さない瞳をしていたんだろう。僕は、良平が確かに僕を助けてくれたことはよくわかった。しかし、謎の羅列する文字を目にした。それは、本当に見たことのない景色であった。
良平からも、この世界でも。
「どうしても、良平が話したくないなら僕は聞かないし、見てないことにするよ。」
どうしてこんなことを口走ったんだろう。表情を見ていないが感じた良平のつらそうな雰囲気のせいだろうか。
それとも、真実を知ることで起こるであろう僕自身への影響を考えて自己の欲求のままに動いたのだろうか。
紙がしわくちゃになるくらい消ゴムで何度、何度も消して考えた。
結局、自分が大事なんだ。
「悠、俺は話すべきなんだと思う。例え、その真実がお前を苦しめることになったとしても、俺はお前に選択をしてほしいと思う。」
真剣な顔をする良平。
そんな表情はしないでほしい。だって、良平は、負の表情以外は本当に正直なんだから。
「これは、自分勝手なんだけどな。それでも、悠には伝えておかないと。というより、きっと今言わなくてもお前はいつか気づくと思うからさ。」
どこか、諦めたように言っているようにも思えた。しかし、良平は僕の目に1㎜の狂いもなくまっすぐとした光を向けてくる。
「わかった。」
僕は何て言ったら言いかわからなかった。
何て言うのが正しいのか。何て言うのが良平を少しでも楽にできるのか…。
わからなかった。
それでも良平は、満足したように微笑んだ。
そして、
「俺は、この世界、このある一定の時間軸を何度も繰り返すように作られた存在なんだ。そして、さっきの魔法的なのはその存在に与えられる能力なんだ、運命を動かすことができる能力なんだ。」
意味がわからなかった。一瞬どころではなく、10秒を一時間に感じるくらい世界が止まった。
「ちょっと待て、良平。僕はお前のことを嘘つきだとは思ったことはない。けど、さすがにそれは信じることが…。それに、それが本当だとしたら、良平はいつか俺の記憶からいなくなるんじゃないのか?」
「確かに、信じることは難しいだろうね。何てったって現実離れしすぎている案件だもん。」
良平は悲しそうな表情に似合わない口調で言葉をつむぎ、繋げる。
「悠は昔から勘が良かったけど、記憶から消えるってことまで当てちゃうなんてね。」
やっぱりか…。
ある一定の時間軸を行来する存在なんだっていう話を信じるなら、多分、そう遠くない未来に…、僕が生きていたとするならば良平の存在は記憶から消さなければ、この世界の理を歪めることになる。
そんな存在だって直感的に感じた。満足したように微笑んだという表現はきっと間違っていた。満足したようにじゃなくて諦めたかのようにが正しい。
「悠、俺は何度もこの時間を旅した。だけど、今生きているのはお前だけだ。その意味がわかるか?」
真実を知るのは怖いと思う。でも、背を向けちゃいけない現実もあるんだと思う。
どこかで、そんな言葉を聞いた気がする。記憶がろくにない僕には誰が言ったかなんて覚えているはずもない。でも、その言葉は今使われるのが正しい。
「うん、わかるよ。わかるし、受け止めるべきだと思うよ。良平が話してくれたことを僕は信じる。それに、話してくれた内容のお陰で昔から仲の良かった人たちを思い出せた。ねえ、僕は何をすればいい?」
良平は少し目を丸くした。
そして、見たことのある表情を戻した。
「お前には敵わないな。」
何でもできる良平から言われて誇らしかった。
「僕に本当のことを今の今まで黙っていたのに今日突然本当のことを話したのは意味があるんだろ?良平って言うやつはリスクの高いことをするときにはそれよりも大きなリスクが目の前にあるときだけだったはずだよな。」
これは確認ではない。確証を述べているんだ。良平…。僕のことを頼れ。
「あぁ、そうだな。俺は昔からそんなやつだったな。」
あぁ、幸せだ。本の中の怖さなんてずっと昔のように感じる。
ねぇ、良平。
僕はきっとお前の望む未来を作るよ。それが僕の望む世界だと確信できているからな。
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