第6話 昔話をしようか。 その2

「悠、僕には言えないことも含まれているから伝えられる部分だけ伝えるよ。」


それでいい?といわんばかりに首をかしげて僕の目を確認する。


「わかった。教えてもらえるところだけでも、情報が増えるなら今の記憶の欠落した状態よりかは幾分かはましだ。」


良平はまた悲しそうな顔をした。理由は聞けない。というより、良平自身から話さないことは聞かないのが正しいと判断した。


「じゃあ、話すから、落ち着いて聞いてね。

僕らはーーーーー。」






高校2年生の夏の下旬。悠と良平のいる那比鳫(なびかり)高校に転校生がやって来た。なかなかの進学校だったので、編入試験はそれなりに難しい。そんな中で、転校生がやって来るのは秋の下旬に一度も雨が降らないようなことだった。


「はじめまして、今日からこのクラスで共に学ばせていただきます、傘ノ崎 陽 (かさのさき よう)と申します。」


簡単な表現だと一言で美人だった。といえる。落ち着いた口調にまっすぐに並んでいる黒髪。日本人形みたいな見た目なのに目の色はサファイアのような美しい青だった。少し高めの透き通る声は、彼女の浮世離れ感をよりいっそう掻き立てる。


最初に話しかけたのは、光だった。スポーツ万能でいつもよく笑う悠の幼馴染。悠と良平はいつも四人グループでいた。悠と良平、光、香里。四人は小学校からの仲であった。


光が最初に声をかけたこともあり、陽は悠たちとよく一緒にいるようになった。


それから、三年の夏になった。学校は私立だったのでそのままエスカレート方式がとられて受験勉強の必要はなかった。そのため、夏休みの予定がそろそろ決まろうとしていた。


「ねえ、陽ちゃんはどこ行きたい?まだ、ここに来て一年くらいしかたってないしどっか行きたいところとかない?」


光はいつもの明るい無垢な声で話始める。


「私は、みんなの行くところについていくよ。」


陽は自分の意見をなかなか言わない。幼馴染の集まりの中だったから気を使っているんだと他の四人は思っていた。

そして、陽も四人に着いていくことが楽しかった。ずっと笑顔で晴れの日が続いていた。


夏休みも終わり、秋、冬とどんどんと楽しい時間は失われていった。偏頭痛持ちだった陽は雨の日は学校に姿を現さなかった。

そして、12月。

そう、良平の言っていた事件というのは12月23日の夜に目を開いたのであった。



「悠、何か思い出したことはない?少しでも何か。」


良平は、そこまでの話をし終えて悠に尋ねた。


「うーーん。やっぱり、思い出そうとする度により霧深くなる感じがする。というより、その陽っていう女の子が全く思い出せない。」


あぁ、まただ。良平はいつも一瞬だけ表情を見せる。普段から負の表情を見せないようにしていた。

あれ、これは過去の記憶を元に考えられていること。記憶が無いわけではないと言うこと…。

何かしらのアクションがあれば僕の記憶は繋ぎ止められる、と考えてよさそうだ。


「陽さん。陽ちゃん。傘ノ崎…。」


目の前に落ちてしまうボールの中に一球だけ遠くに飛んだ。


「陽…!」


脳、全身の神経に電撃が走った。


「あ、アァぁぁぁあ!。」


全身が瞬間的に痛みを覚えた。


「悠!」


良平は叫んだ。そして、彼の指は何か文字を描くかのように動き、その文字を僕に向けて放った。


スゥっと、痛みが引いた。良平は、所謂、困った顔をした。どんな表情をしようか迷っているような。


「ごめん、ずっと黙ってた。また、新しいことを話すよ。この力と、話せることが限られていることについてを。」


部屋に風が吹いた。良平の髪はなびいて上手く表情を見ることはできなかった。

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