第2話 一歩目
温かい…暖かい…。
僕の周りを光が包み込んでいる。眩しい一筋の光が僕のまぶたをこじ開けようとする。
「う、う~ん。」
僕は、光の望むままに目を開ける。僕の目に入ってきたのは…。
見たことのある。いや、見覚えしかない5年前の町並み。たくさんの木に包まれた辺境の地に見えるがたくさんの商店や、企業が盛えている町。たくさんの音が鳴りやむことを知らない。
僕は今、そんな町を上から見下ろせる丘の上にいる、丘の名前は…。
「思い出せない…。あれ…。この町も、この丘も、町並みも…、すべて知っているはずなのに。僕の記憶は…。」
暖かい光は僕の後ろの影を伸ばす。小鳥のさえずりが耳の奥で響く。
僕は理解した。自分自身が恐怖を覚えていることに。
そして、断片的すぎる記憶にすがろうとして、必死になって頭の中をスプーンでかき回している。
気持ちが悪い、息苦しい。
しかし、負の感情を抱いているそのときに僕はふと思った。
どうして、僕はあのときから5年という月日を遡ったのか、そして、あの日記帳はどこへ行ったのかと。
僕は辺りを見渡す。丘の上は不自然に並んだ2つの丸太と周りを囲む芝生であった。
「ない…な。」
日記帳に吸い込まれた記憶はあったので、そもそもの希望も㎜単位であるかないかも微妙だったが、さすがに手がかりが無さすぎた。
そしてまた僕は、自分自身がどこからか転送されたかを思い出すことができないことに気がついてしまった。
日記帳の記憶をたどろうとするたびに強い衝撃が全身を襲う。
「はぁ、考えても無駄ってことなのかな…。」
僕は、苦笑混じりに呟いた。独り言と端的にいうより、言葉を紡ぐという方がかっこいいと僕は思った。
カーン、カーン。
町の教会の鐘が鳴る。鳴り響く。
僕は、唇のはしをを静かに噛み締める。
足音は町の教会へ向かって並をつくった。
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