献杯

@tcbn2453

献杯




破り、投げ捨てた包装紙が、今日も老木の枯枝に引っかかったようだ。


「……――カカオ99%……か。それは美味いか。」


 実際には泥水のように見える着色料と、申し訳程度のカフェインの混合液体を、この世界では”ブラックコーヒー”という。

 ……チョコレートも同じだった。ただ黒く塗り固めた、何だかよくわからない苦いものを、今は”ビターチョコ”と呼んでいる世界。

彼はそんな世界のジャンキーだった。そんな俗世を好む少年は、老獪を嗤う。


「―――――アルコールと、紫煙燻らせてる世界よりは余程安心する。いつ私怨に火が点くかわからない。」

点いたとしても、燃え広がる土壌が何も無い。ここはそんなコンクリートの世界。







「カカオ99%、だそうだ。」

「……げろマズ。これ、アスファルトの欠片だろ。何度も食わされたからわかる。」

「そっちは?」

「どっかわからんとこの工業用アルコール。……でも、グラス一杯分はある。御馳走だ。」

「よこせ」

「等価交換だ」


二人の共存関係は、とてもドライなものだ。

生存に必要なものごとは、お互い独自に獲得して生きていく。

嗜好品だけはなかなか手に入らないので、見つけた場合は報せ合う。

ただし、無償で分け合う間柄ではない事に留意。


そんな掛け合いがずっと続いていくものだと、少なくとも片方は思っていた。









「……あ」


―――――ある日、冷たくなったまま動かない老軀があった。その手には……


「……ばかだな」


その老軀の手には、一欠片のカカオがあった。


「もう一グラス分、ようやく、稼いできたってのに。」






これで、ちゃんと、乾杯できたはずなのに――――――――

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