第9話 お嬢様の仕事
お嬢様の夕食が終わり、お嬢様の入浴に合わせて使用人の男組は食堂に閉じ込められる形で夕食をとる事になった。
「イオリ、味付けは大丈夫か?苦手な食べ物があれば教えておいてくれ。」
「あぁ、味は問題ないどころか驚くほど美味しいよ。えーっと…苦手な食べ物は豆だよ。」
「そりゃ良かった。これから毎日食えるぞ。そうか、イオリは豆が苦手だったか。戦場で働かなくて良かったな、あそこは豆のスープしか出ないからな。」
ガハハ、と笑いながらレーウェンは続ける。
「それで、お嬢様の職場にイオリはついて行くのか?」
「そういう事になっているよ。研究所の雑務職員として雇われている扱いになる。ニーナ様の補佐係だな。」
「なるほどな、それなら問題ないだろう。」
こうして、男2人の会話は続いていった。
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side act:ニーナ
就寝前、部屋の窓から月と庭を眺める。
「私が居ない間でも、ロリエはちゃんと良い仕事をしてくれますわね。」
庭に植えてあるのは薔薇。高貴で、可憐で、棘があるその花が私は好きだった。
「イオリ…楽しそうでしたわね。馴染めそうで良かったですわ。少し寂しいですけれど。」
恩を返したらイオリはどうするつもりなのだろう。
「…私らしくありませんわね。寝ましょう。」
窓を閉め、ベッドに潜り思考を打ち切った。
夜の帳が部屋に満たされるように、私の意識は眠りに就いた。
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「「いってらっしゃいませ、お嬢様。」」
次の日、レーウェンとロリエに見送られながらセラスさんの運転でニーナ様と共にニーナ様の職場へと出発した。
「それでは私はここまで。イオリ君、お嬢様をよろしくお願いします。」
「もちろんです、セラスさん。ではお嬢様、参りましょう。」
研究所の正門でセラスさんとはお別れだ。帰りはまた迎えに来てくれるそうだ。
「ニーナさん、お久しぶりです。休暇は楽しめましたか?…おや、そちらの彼は?」
「最高の休暇だったわ。彼は私の新しい執事よ。ちゃんとIDも持ってるわ。」
「ご紹介にあずかりました、ニーナ様の執事のイオリ・クレイです。これからよろしくお願いします。」
守衛との顔合わせも終わり、ニーナ様のラボへと向かう。
「もうセラスに言われてるかも知れないけれど、一応言っておきますわ。ここで目にした全てのことに守秘義務が発生しますわ。気をつけてくださいまし。」
「承知致しました。」
ニーナ様の命令に最敬礼で答える。
「もう、イオリ!こんな事で最敬礼しないでくださいまし!」
「も、申し訳ありません。嬉しくてつい。」
元の世界ではこんな経験絶対に出来なかった。見た目麗しい少女の執事として、お側に侍ることが出来る。その事実に俺は、間違いなく興奮していた。
「イオリ、ここが私のラボですわ。皆さん!ただいま戻りましたわ!」
ニーナ様が声をあげると、ラボのあちこちから沢山の人が集まってくる。
「こちらは本日付で私の補佐係となった、私の執事 イオリ・クレイよ。よろしくしてあげてくださいまし。」
「イオリ・クレイです。よろしくお願いします。」
「自己紹介は後ですわ。まずは現在の進捗状況を把握しますわ。」
そう言って研究員をまとめ始めたニーナ様の横顔はとても凛々しくて、不覚にもときめいてしまった自分がいた。
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