第2話 俺の子じゃない!

Bさんは、30歳代のイケメン。

上司に連れられて時々来る人。

そんなに親しく話すこともなかったが、その日は、ひどく落ち込んでいるように見えた。

「元気ないですね。」

「えっ?あ~」

うつ向きかげんのBさん。

「ママさん、法律詳しいんだよね?」

中央大学法学部卒業という経歴。

「どうしました?」

「俺の子じゃなくても、嫁が産んだら俺の子になるんでしょ。」

なかなかヘビーな話のようだ。

Bさんには、既に3人の子供がいる。

子煩悩で働き者。

家庭でも特に問題はないと思っていたが、奥さんの妊娠が発覚。

妊娠するような夫婦生活はなかったというのだ。

体形の変化に気づいて問いただすと、妊娠を認めた。

「誰の子?」

「分からん。」

奥さんの答えは、「分からん。」

分からんって、Bさんでなくてもガテンはいかない。

浮気?

「色んな男とやったから、分からん言うんですよ。」

絶句。

色んな男…

「誰かと浮気ではなくて?」

「嫁が言うには、複数と」

誰かをかばっているのかも知れないが、そう言い張る。

「もうすぐ産まれるんですよ。日本の法律って、俺の子になるんでしょ。そんなのおかしいでしょ。俺の子じゃないんだから」

語気は強まる。

確かに現行の民法では、婚姻中に生まれた子は、夫婦の子とみなされる。

それは、子の権利を守るためだ。

離婚しても300日以内に産まれた子は、婚姻中に懐胎したものとみなして、元夫の子となる。

夫が、自分の子ではないと主張することは出来るが、それは、一旦子供が産まれてから、嫡出否認の訴えを夫が起こすことになる。

親子関係不存在を裁判所に訴えなければならないのだ。

それも出生を知ってから1年以内に。

そんな説明をすると、

「何で、俺が!離婚してもしなくても俺の子になるんでしょ?誰の子か分からんのに」

「納得いかんですよ。」

それはそうだ。

嫁の顔も産まれた子の顔も見たくないだろうし、今までと変わらずに生活を続けるのは、難しいだろうと思われた。

でも3人の子供のことを考えると離婚も出来ない。

Bさんは、頭を抱えた。

慰めの言葉も適当なアドバイスも浮かばない。

Bさんにすれば、自分の親兄弟に話せることではない。

一人で悩む日々。

家庭内はどうなっているのかと思う。

「分からん」

と言える妻。

いや~そんな時代なのか。

日本の民法は、産まれてきた子供の人権を守るため、

事実はどうあろうとまず、親を決めて親権者を確定させようとする。

その考え方自体は間違っていない。

どこの子か分からない。

戸籍もない。

では、何も守られないからだ。

しかし、Bさんが、子供たちのために我慢すると決めても、わだかまりは消えない。

夫が浮気をして婚外子が出来ても、妻の子になることはない。

法律が想定しないことが多くなっている。


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