第6話:古びた杖

 朝目覚めた後、ダッシュでエリエルの家の道場に向かいます。

 朝の1時間ほど、エリエルにひたすらしごかれました。

 あの短い時間で何度倒れたかわかりませんが、ひたすら剣を振ってました。


 家に帰り、家族と一緒に朝ご飯を食べます。

 なんて平和なんだ・・・


「リート、今日から魔術クラスだったよな?」


 父さんが聞いてきます。


「うん、そうだけど」

「じゃあ、これを渡しておこう」


 と言って、古びた短い杖を渡してくれます。


「これは?」

「これはな、うちの店の初代が名のある魔法使いから譲ってもらったものらしい。

 今までうちの家からは魔術の方に進む者がいなかったから放置されてたんだ・・・」

「初代っていうと、300年くらい前ってこと?」

「そうなるな。」


 うちの店は結構古く、300年くらい前からあるらしいです。

 といっても、古いだけでそれほど大きい商店ではありません。

 代々のご先祖様は、店をつぶすことはなかったようですが、反対に商売がすごくうまかったというわけでもないようです。


「父さん、ありがとう。

 使わせてもらうよ。」

「まぁ、役に立つといいな」


 杖はあってもなくても魔法自体は使えます。

 色々な補助機能が込められているのが杖なのですが、杖によって何が込められているかは違います。


「それで、この杖はどういうものなの?」

「わからん」

「え?」

「だから、わからん」

「何か、伝え聞いてるとかは?」

「一切ない」

「なんてこった・・・」

「まぁ、だから役に立つといいな」


 すごく突き放された感じがします。

 何に使えるかわからない杖って、どうすればいいんでしょうかね。


『大丈夫、使い方はそのうち教えるよ・・・』


 ん?何か声が聞こえたような・・・


「父さん、何か言った?」

「いや、何も言ってないぞ」

「何だろう・・・」

「どうした?」

「何か声が聞こえたような気がしたんだけど・・・」

「誰のだ?

 何も聞こえなかったぞ」

「そっか・・・」


 よくわかりませんが、空耳ですかね。

 昨日も聞こえた声のような気がするんですが、よくわかりません。

 朝から身体を動かしすぎて、ちょっと幻聴でも聞こえたのかもしれません。


 朝食が終わった後、杖はアカデミーに行くかばんにしまい、家を出ました。

 父さんと話をしていたらちょっと遅くなってしまったので、猛ダッシュでアカデミーに向かいます。

 なんか、いつもより風景が流れるスピードが速い気がしますけど、気のせいですよね。


 猛ダッシュのかいがあって、結構余裕でアカデミーにつきました。

 入口の掲示板で7年生魔術クラスの教室番号を見てから、そこに向かいます。


 教室には8割くらいの学生がいるようです。


「おはよう、リート」

「おはよう、ジェス」

「席は適当らしいぞ」

「そっか、じゃあ、ジェスの後ろでいいか」

「なんで後ろ?」

「いや、気を失っても大丈夫な位置ってことで」

「気を失うこと前提なのか?」

「そういう訳でもないけど、朝練がきつくてね・・・」

「あーエリエルに捕まってたもんな」

「そうそう。今朝もしごかれて、ちょっと眠い」

「座学で寝ると、実践もよくわからなくなるから気をつけろよ」

「う・・・善処します・・・」


 なんて雑談をしてたら、先生がクラスに入ってきました。

 テストの時に僕にびんたしてくれた先生です。


「はい、皆さんおはようございます。

 今日から皆さんの担任のリサ・ディンガードです。

 基本的にはこれから3年間の卒業までは、私が担任になるので、よろしくね」

「よろしくお願いします!」


 僕達学生も声をそろえて返事をしました。

 この日は魔術理論や薬学など座学についての授業があり、実習はありませんでした。

 かなりの眠気がありましたが、なんとか一日耐え抜き、家路とへとついたのです。


 アカデミーから帰ってきた後、自分の部屋のベッドに倒れこみました。


「あーもうダメ、動けない・・・」


 しばらくベッドの上でもぞもぞやっていたのですが、そういえばと思い、かばんから杖を取り出しました。


「結局、この杖って何の杖なんだろうな?」


『この杖は、私だよ』


 声が聞こえました。


「え?」


『魔力をこめてみて』


 また、聞こえてきました。


「え?え?」


『だ・か・ら、魔力をこめなさいって!!!』


 頭の中に、切れ気味の声が、がつんと響いてきました。


「え!?へ?!はい、わかりました!!」


 杖に魔力を込めていきます。

 淡い光が杖から少しずつ発されていきます。

 すると、光が次第に粒状になり、杖が分解され光が広がりそして収束していきます。


「え?」


「え?しか言わないのね」


 と笑う声が響きます。

 目の前には、光をまとったかわいらしい小さな女の子がふわふわ浮かんでいます。


「え?」

「はじめまして、リート。

 私は精霊のリステアよ」

「リステア?」

「そう、300年くらい前にレディアス・ミスティアという魔法使いがいたのは知ってる?」

「あ、うん。あの始原の魔術師と呼ばれた、世界を救ったと言われている魔法使いのこと?」

「そうそう、よく知ってるじゃない」


 ころころした笑い声でリステアはしゃべり続けています。

 僕は何がなんだかわかりませんが、とりあえず話を続けている感じです。


「そのレディアスが始めたのがこの商店で、初代なんだけど、身分とか名前を隠して始めたから多分知ってる人とかいないと思うけどね」

「え?えーーー!?」

「ほんとにリートは、え?ばっかりなのね」

「そういう訳じゃないけど、驚きすぎちゃって、それくらいしか出てこないんだよ」


 世界を救った魔法使いが、うちの商店の初代と言われてもピンとこないです。

 魔術の名家でもなく、なんでこんな商店の初代が?という感じです。


「レディアスは自分の子どもの魔術の血を封印したのよ。

 だから今まで魔術の血が発現しなかったの。

 ただ、封印も永続ではないから、どこかで発現するんだけど、それが今だったというわけ」

「よくわからないけど、そういうものなの?」

「そういうものなのよ。

 まぁ、魔術の血が発現したとは言っても、どの程度のものかはわからないんだけどね」


 こてんと首をかしげながら言ってます。


「なるほどね。

 それで、君は・・・リステアは、何なの?」

「何とは失礼ね。

 そのうちアカデミーでもやると思うけど、魔法使いを目指す人は、だいたい契約精霊を持つのよ。

 精霊は通常契約に基づいて、魔力や魔術のサポートをしてくれるのよ。

 私は、その精霊の一種と思ってくれればいいわ」

「思ってくれればいいって?本当は違うとか?」

「まぁ、ちょっとばかり違うんだけど、精霊には違いないから、そう思ってくれていいわよ」

「よくわからないけど、わかった。

 契約って話してたけど、リステアと契約するってことになるのかな?」

「そうね、というよりも、さっきの魔力譲渡で契約は終わってるわよ」

「なんですと?」

「精霊契約は、精霊を召喚して、精霊と契約内容の合意を得て、自分の魔力を精霊に譲渡すれば契約完了なの」

「というと?」

「杖になってた私の合意があったから、魔力が譲渡されて契約完了ってこと」

「え?それで契約完了なの?契約内容は?」

「そういうことね。

 契約内容は、特にないわよ。

 簡単に言えば面白そうだから、付き合ってあげる感じ」

「面白そうだから付き合ってあげるってひどくない?

 しかも・・・なんか・・・詐欺っぽくない?」

「そうかしら?そのあたりは、あんまり気にしないでいいわよ」

「訳のわからないうちに、知らない精霊と契約を結んでしまった僕の身になってよ・・・」

「細かいことは気にしないでいいんじゃない。

 これからは、私があなたの愛すべきパートナーよ」

「なんか、押しかけ女房ぽい・・・」

「何か言った?」

「いえ・・・言ってません・・・」


 なぜかよくわからないうちに、父さんから貰った杖は精霊になり、知らないうちに契約を結んでしまったようです。

 騙された感満載ですが、しょうがないので気分転換に夕食を食べに行ってきます。

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