第4話

沈黙する広間。

目前には頭と体に分離した死体。


そいつは先程まで俺と戦っていた敵だ。

蒼色騎士の魔物は敵であり、人間である俺が魔物を庇う理由はない。

だけど。


魔王軍のミーティアあいつは、あいつだけは。

怒りがこみ上げてくる。

単純に許せなかった。

仲間を、蟻を踏み潰すかの如く躊躇なく奪ったあの女性の魔物を。


感情が行動に移る。

冷静な判断を待たず、地に落ちた剣に手が伸び掴む。

後ろの三騎士は眼前の光景に呆気を取られ、こちらを向いていない。

抜刀し、右足で地面を蹴った。


(隠蔽魔法+橘流神速剣術、合わせ技

──「幻影斬」)


「隠暗影」の1秒の姿隠しに合わせた斬撃技。


足を蹴る音で気がついた三騎士も、姿が見えない俺にその場で躊躇してしまう。

白き大きく振りぶられた刃が再びに相手の視界に現れたのは、ミーティアの直ぐ側であった。


「仲間なんだろ! なんで殺す必要があったんだ!」


刀身が振り下ろされる。

首を狙った一撃だった。

が、直前でミーティアの手が目にも止まらぬ速さで摺動し剣を手の平で受け止められる。

刀はピクリとも動かない。

それどころか握力に負けてピキピキと少しずつひびが入りつつあった。


「何っ! そんな馬鹿な」


「これで終わりかしら」


ミーティアは蹴り上げた足を少し体に引き戻し、向きを変えこちらに蹴りを繰り出す。


土手っ腹に突き刺さる。

体がくの字に曲がり勢いのまま後方の柱まで飛ばされる。

衝突。柱の表面がひび割れ凹み体が抜けて食い込んだ。


「くそっ……」


体に力が入らず腕がダランとなる。

呼吸が苦しく、息を吐く度に血が混ざっている。

肋骨も何本か折れてしまったようだ。

状況を察した三人の騎士が俺の元に駆けつけて武器を再び突き付ける。


「動くな!」


すると、後方から声が響く。


「ティアマンテ、ザルゾーン、クランテット、その者から剣を引きなさい」


ミーティアはこちらに近づいてくる。


「し、しかし」

「また暴れるかもしれないのでは」

「一体、何故」


「引きなさい。三度目はないわ」


「「「はっ!」」」


鎧の三騎士は最初こそ納得こそ出来ていなかったが、一喝に焦りを感じたのか、素早く其々の帯に武器を戻す。

ミーティアは足を止め、こちらを見る。


「いいわ。質問に答えてあげる。皆の者もよく聞いておきなさい」


ミーティアは足元に転がる死者の兜を拾い、生肉を引き摺り出し、兜だけを俺に投げつけてきた。

腕が少し動く程度に回復した俺は反射的に受け取ってしまう。


「兜の裏よ。そこにある印あなたは知っているのではないのかしら」


血がベッタリと付く兜を手で拭いつつ、言われた箇所を目で確認する。


そこには白く左右対称なある二本の翼。

真ん中にはユニコーンの絵。

下には帯があり、ある言葉が書かれていた。


その瞬間、体中に衝撃が走る。


自分自身から血の気が引いていくのが分かった。

俺はこの印を知っている。

知らない訳がないんだ。

なぜなら──。


「……天象会」


天象会。

対魔物討伐組織として、十年前に発足し人間に魔物と戦える力を与えている組織。

俺が死ぬ前に所属していた組織の名だった。

何故魔物であるこいつから印が。


唾を飲み込み、推測できることは一つ。


(天象会が魔物と繋がっている!?)


答えにたどり着いた事を悟ったのか、ミーティアは微笑の笑みを浮かべた。


「やっと分かったようね。そう、そこの恥ものは天象会との繋がりがあった。これは裏切りであり、処分するには十分な程の理由よ」


魔物による裏切り行為。

その言葉が出た時、周囲がざわつくのがはっきりと分かった。

要するに、あの蒼色の騎士が『人間側』の味方として魔王軍に潜り込み暗躍していたのだろう。


しかし、それだと腑に落ちない点が一つ。


「なら何故自分を殺そうとしたんだよ?」


俺は人だ。

裏切りが本当なら俺を殺そうとせず生かして有効に利用した方が色々と都合よく動かせたんじゃないのか。


「味方同士なら共闘した方が良い。けれども、それは違うわ。あの恥ものはあなた達の人の味方でも、私達の魔物の味方でもないの」


「人でも、魔物でもない……?」


「彼らは魔物であるが、私達魔界の魔王軍の支配に背いた者の集まり。私達は『逸脱者』と呼んでいるわ」


「逸脱者? 何なんだよ。お前らと人間界にいる魔物とは別物だと言いたいのか?」


「簡潔に言ってあげる。──私達は『人間』の味方であると。それは古の約束、人間界と魔界の不可侵領域の条約『盟約』に誓われた決まり事。約束がある限り私達魔界の魔物は人間界を襲う事は決して有り得ないのよ。そして『逸脱者』は今この時も盟約を破り、人間界を掌握しようと動いている。私達はそれを止める為にいるの」

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