第3話
刃先を鎧の表面に押し当てる。
鎧があるとは言えど、この近距離であればそれごと破壊する自信があった。
「クソ……。貴様、一体どうやって」
「教える義理はない。少し黙ってろ」
本当の事を言うと、幻惑魔法、隠蔽魔法。
この二つと魔法と最後に使ったのが武器無力化の剣術である。
敵の攻撃を受け、床に叩きつけられた所まで実際にやられている。
だが、その後すぐに策を講じたのが優位に立てた理由に繋がる。
利用したのは割れた大理石による散った粉塵である。
床に伏した時、敵がこちらを見ていないのを見定め(幻惑魔法。──
これはその場所にいた自分自身の過去を相手に錯視させる粉を発生させる魔法だ。
粉は僅かに光沢を発光しているので通常の戦闘では使い勝手が悪いのだが、今回は石の粉塵により有効に働いた。
幻惑魔法の次は、(隠蔽魔法。──
魔法としては存在を消すだけなのだが、通常の隠蔽魔法と違い、デメリットは姿を隠せる時間が短い。
約1秒しかない。
だが、メリットとしては上位の魔物や人間であっても索敵がほぼ不可能に近いことにある。
どちらにせよ、どちらの魔法も詠唱は容易ではない。
鎧の魔物が会話している時間がなければ無理な話だった。
「私とした事がとんだ失態です。貴様の実力を侮っていましたよ」
「黙れと言ってるだろ」
「これは失礼を。……ですが、最後に一つ忠告を」
「なんだ?」
「魔物に、道理や常識は通用しません。例えば、今の状況。敵は私一人ではありませんよ」
その言葉に合わせたように、両肩、背中に槍、銃口、斧の三つが俺の身体をなぞった。
「「「そこまでだ」」」
右から、竜の形をした赤甲冑、全身に棘がぶつぶつとある緑鎧、黒の機械的なデザインの騎士鎧の三人が背後に立っている。
「こいつがどうなっても良いのか……」
「かまわない。私達はその程度の事で、手を止めたりはしない」
(クソが。万事、休すか)
後ろの鎧達には人質は通用しない。
かといって、他にこの現状から抜け出す方法もない。
隙があれば。
そう願うが、直感で分かる。
こいつらは絶対に隙を見せない。
「策があるなら、それを試すが良い。それもまた一興。だが、次は上手くいくとは限らんぞ」
「……どうすればいい?」
「納得したなら、剣をそいつから引け。それから剣を床に落とし、両手を頭の掲げるのだ」
「分かった」
言葉通りに俺は従った。
剣を引き、手から床に落とすと両手を頭の掲げた。
竜の形をした赤甲冑は、手を上げるを見るなやいやな武器はそのままに剣を足で蹴飛ばす。
抵抗はさせないつもりだろう。
「王よ。この者に、新たなる処罰の命を」
魔王は先ほどの女性の方を見ると、何かしらのアイコンタクトをし頷いた。
女性もそれを理解したようで、相槌を打ちこちらにも向かって歩いてくる。
──もう駄目なのか。せっかくのチャンスだったのに。
目を瞑り、歩いてくるのを待つ。
俺はまた死ぬのだろうか。
転生の儀みたいので奇跡的に生き返った命。
話を鵜呑みにするなら、俺は魔王に何かしらの理由で召喚され、『魔物』として利用するつもりだったのだろう。
俺は目の前の怒りにだけ囚われ、冷静な判断が出来てなかったのだ。
あの状況で魔王の命を狙えば殺されるのは必須。敵の数や強さから見ても討伐の可能性はゼロに近かった。
だからこそ、あの場でリングを受け取っていれば──。
いや、そうじゃない。
俺は戦士であり、魔物を倒す為だけに生きてきた『人間』だ。
もしリングを受け取れば、俺は『人間』ではなく『魔物』に成り下がってしまう。
それは違うんだ。
今、この瞬間にある自分の意識は『人間』であり、『魔物』ではない。
行動に間違いなんてなかった。そう、当然の事だったんだよな。
思考の間に女性の足音は高くなっていく。もうすぐだった。
──ごめんみんな。俺は仲間の仇を打てなかった。
足音が止まる。
女性は俺の前で停止した。
心音が高くなり、息が荒くなる。
ただ、死の瞬間を待つしかなかった。
何秒だっただろうか。
高速の思考の中時間感覚がずれ、訳が分からなくなっていた。
その時、周囲にいた魔物達からちょっとしたどよめきが走る。
その内の一体の小声を俺は聞き逃さなかった。
「ミーティア様、何故グラシアス様の前に……」
グラシアス? さっき聞いた名前だ。
確か蒼色の鎧を着た魔物の名前のはず。
それより、さっきの言葉。
言葉通りに受け取るともう女の魔物は俺の前に居ないのか。
目を開け、前を見る。
言葉通り、いたはずの女魔物はいつの間にか蒼色鎧の魔物の前に移動していた。
「ミ、ミーティア様。何故、私の前に来たのですか。罪人はあちらですよ」
「…………」
「ああ、なるほど。私にあの罪人殺す役割をやれという事なんですね、分かりました。このグラシアスその役割全──ブチッ」
「この恥ものが」
刹那、蒼色の鎧魔物の身体が二つに分離した。
正確には魔物の首から上が天井めがけて吹っ飛んだのだ。
この状況に誰もが唾を飲み、信じらない顔をしている。
周囲の魔物達も。三人の騎士魔物も。当然、俺も。
そこには右足が垂直なまでに上がった女の魔物と、血しぶきが溢れる首から下の身体。ボールのように転がる顔付きの兜があった。
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