第19話 リサシテーション
目を覚ますと聞き覚えのある声が聞こえた。
例のリサシテーションルームの女だ。
「おかえりなさいませ。矢で射抜かれたのですね。」
女の奇妙な程丁寧な口調と直球すぎる言葉に俺は憤った。
「あのさ、お前ほんとになんなの?俺はこうして死に戻りを繰り返してゲームを攻略しなければならない義務などあるのか?」
「そうおっしゃいましてもね…。」
「頼むから現実世界に帰してくれない?ゲーム内ではもう何日も過ごしたけど現実世界での時間の流れはどうなってるんだ?俺学校も行かなきゃなんだが…。」
しかし女は強引に俺の腕を掴み、再びゲームの世界へと通じるワープホールへと連れて行こうとした。
いや、させるものか。
「また頑張ってくださ〜〜い」
女がそう言ってワープホールに俺を突き落とそうとした瞬間、俺は女の腕をふりほどき、逆に女をワープホールへと突き落としてやった。どうだ代わりにお前がゲームをプレイしてこい!
作戦は上手くいった。女は驚いた顔をしながらワープホールの穴へと落ちていった。
「ざまあみやがれ!!!!」
俺はリサシテーションルームの真ん中で一人叫んだ。
だがどうしたものか。あの女がゲームをプレイ中ということは、その間俺はここで何をしてればいいんだ?考えれば考えるほどわからない。そして襲ってくる怠惰。そういえばあの女はどうして俺が射抜かれて死んだことがわかったんだろう。矢が刺さったままってわけでもないのに。この部屋の何処かにゲームの世界が見れるモニターでもあるのだろうか。俺は部屋をくまなく探した。しかしそれらしき物は見当たらない。
「ん〜。どうなってんだ…。」
俺がしばらく考えていると、ワープホールの目の前に何か光ってる物が落ちているのに気がついた。
「あれは何だ?」
恐る恐る近づいてみる。そして拾い上げる。
するとその物体は俺の目の前で激しく発光し、思わず両目をつむった。
「うわっ!」
ルーム内は真っ白い閃光に包まれ、俺は眩しさに耐えきれず後方へ倒れ込んだ。視界が再び暗くなる。
そして俺は自分の意識が遠のいていくのに気がついた。不思議な感覚。一体どうなってんだ…。
…「…君!賢治君!賢治君!」
どこかで聞いたことのある可愛いらしい女性の声が聞こえた。俺はそっと目を開けた。
「……サリア?」
「賢治君!!良かったぁ〜!!目を覚ました!」
「心配したのよ!しっかりしなさい!」
「賢治君もう死んじゃったのかと思ったじゃないか!」
「…レイラさん…クルトさんまで…」
俺は3人に背中をさすってもらいながらそっと身体を起こした。
「あ、これって…」
俺は自分の右手にコスモスの花のペンダントを握っていた。そうだ、これはウェルダネスタウンへ出発する前日の夜にサリアから貰った物だ。
「俺は…目を覚ますまでどうなっていたんですか?」
レイラさんが答えた。
「まず、ヤマモトはギガントボアに突き飛ばされて気を失ったの。それで意識は戻ったんだけど何て呼びかけても体を揺すっても目を開けなくて…なんだか悪夢にうなされてるみたいだったわ。そしてサリアがヤマモトのポケットからコスモスの花のペンダントを出して右手に握らせたの。そしたらいつものアンタに戻ったのよ。」
「心配かけてすみませんでした。サリアのペンダントが無かったら俺どうなってんだろう…」
「でも意識が戻って良かったじゃないか!とりあえずは!」
クルトさんもフォローしてくれた。
「ありがとうございます。クルトさんまで。」
「ねぇ賢治君、今日はもう休もう。訓練も一旦休憩しましょう、レイラさん。」
「そうね。今日は訓練所を出ましょ。」
「近くに宿泊施設があるから、そこで一息つこうか。」
「3人とも、ほんとにありがとう!」
自分のことを心配してくれる人がいるって幸せだなと思った。今日は3人に合わせて俺もゆっくり休もう。
しかし何故あんな夢を見たのか。リサシテーションルームの女は何者なのか。そもそもこのゲームは何のためにあるのか。謎は深まるばかりだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます