第23話 準備

「現役の巫女として……うーん、宗吾君も変な事を聞くわね」

「その、宗吾君って恥ずかしいのでやめてくれませんか」

「えー、良いじゃない。私だって息子が欲しかったのですから」

美夜の件があり、俺は、出来ること、情報収集から始めることにした。観光協会では、豪紀さんに黒川家の過去などに何があったか聞いて、学校でも美夜の異変を健に聞いて回るが、やはり神様の存在を知らない人から聞いてもパッとする情報は、手に入らず、現役の巫女である美湖さんに話を聞くため、夜の空いた時間を少しだけ頂いたが、美湖さんと話し始めて数十分、聞かれることは、最近の学校や観光協会についてなど、妙に距離が近く本当の母親と話しているようで俺は少し戸惑っていた。

ここ数か月で確かに美湖さんや幸さんとも距離は近くなったのだが……美湖さんは妙に距離が近く、少し恥ずかしかった。

「息子なんていいものじゃないと思いますよ?俺みたいなひねくれたクソガキなんて面倒なだけなんですから」

「あらー、子どもは捻くれている方が可愛いのよ!那奈美なんて、昔オネショしたのを美夜のせいにして、嘘がバレバレなのに、意地になって認めなかったりとか、美夜は、昔から怖がりで動物園のキリンにほっぺたを舐められて泣いちゃったり……」

「美湖さん、すみませんあんまり聞くと俺の目にタブレッドタッチペンが刺さりそうなので控えてください」

「えー、他にも色々あるのよ?那奈美が、魔法少女になりたくてずっと肩に犬のぬいぐるみを乗せた話とか、美夜、人生初の料理で幸さんが病院送りになった話とか」

……うわ、どっちも気になる話題だったが、あんまり聞くと話が長そうなので、良い感じに俺は、本題に戻った。

「そのそうじゃなくて神様のことについて……美夜が前任の神様に取りつかれたんです。何かきっかけとか知りませんか?」

「きっかけと言われても……あの子たちは仲が良かったし。思い当たることはないし、多分、幸さんも同じだと思うわよ」

ピンとこないのか、美湖さんは、首をかしげてしまう。

「なんでもいいんです!お願いです!思い出せることを思い出してください!」

「うーんそうね……あえて言うのなら、那奈美も美夜もいつもよそよそしいのよね……。同じ日に生まれたのに」

「確かに、互いに羨ましいって思っていますし」

「そうなの、たまに思うのよね、お医者様が取り出した順番。最初に美夜を取り出してあげればこんなに姉妹でよそよしくはならなかったんじゃないかって」

俺は、ふと疑問に思った。

双子とはいえ、同時に生まれることも無い、一人ずつ母体から生まれるはずなんじゃないのか……

「あの、失礼でなければ聞いていいですか?取り出す順番って」

「あー、あのね、あの子たち帝王切開で生まれたの、だから取り出す順番が違えば美夜がお姉ちゃんになっていたかもしれないの」

「すみませんでした変なこと聞いて」

俺は、謝ると美湖さんは、笑っていた。

「あははは、良いのよ。我が子のためについた傷だもの!お母さんってそこまで弱くないのよ!むしろちゃんとあの子たちが生まれてきて嬉しいの。我が子には、幸せになってほしいのは、大人として当然じゃない。だからね、巫女として、手伝えることがあったら言ってちょうだい。私も手伝うから」

「ありがとうございます!」

美湖さんの申し出は非情にうれしかった。もしかしたら今後、につながるかも知れない情報が、出てくるかもしれない。


 そして七重が外へ出て数日俺のスマフォに七重からメッセージが入ってきた。内容としては、今から帰るという文章と一枚のURLに閲覧注意とだけ書かれていた。

「注意するくらいなら開かんわ」

俺は、メッセージを無視していると、七重から何度も電話がかかってきた。あまりに何度もかけてくるので、無視する方が面倒になってきたので電話に出ると物凄い大声がスマフォ越しから聞こえてきた。

『えぇぇい!なぜ開かぬ!?いいからURLはよ、おさんかボケェ!』

「うお!なんだよ、七重、怒鳴りやがって。普通に考えて閲覧注意になんて書かれていたら開く訳がないだろう。馬鹿か?」

『良いから開くのじゃ!早くせい!』

「分かった、一回切るぞ。開いたら連絡する」

俺は、どうにもこの怪しいURLを押さないといけないらしい。押したくないが、押さないといけないのか……俺が、嫌々URLを押すと、そこには虹色の気泡が数多にある画像に小さく七重が写っていた。

「なんだ?この画像……こんなのを開かせて七重は、なにを……」

『それは、こういう事じゃ』

「お、重い……」

画像ファイルの中の七重が動き出す。段々近づいてきて、俺のスマフォから、七重の腕が出てきて、俺は、スマフォに重みを感じ落としてしまう。

段々七重は、スマフォから質量とかを一切無視して這いずり出てくる。

「よいしょ……よいしょ、ばぁ!どうじゃ宗吾!驚いたか!」

そして、スマフォから出てきた七重は、ドヤ顔で出てくるのだが、正直、いつも俺の体から這いずり出てきている七重を見慣れた俺は、そこまで驚けなかった。

「……で?どうした、画像を開いたが、七重が出るだけか?」

「お……驚かんじゃと……なんじゃ、ヨグちゃん直伝の人間をびっくりさせるための登場方法がうまくいかないじゃと」

むしろ、驚いていない俺を見て七重は、驚いている。いや、予想がつくだろう。俺が、七重のホラー映画張りの渡欧上に驚いたのは、夜中にいきなりエイリアンとか言い出し俺の腹から、上半身だけを出した時がピークだ。

「うん、いつも通りの登場だしな。それより七重、他の神様の所に行っていたんだろう。なにか収穫はあったか?」

「あったっというか……あったのじゃが、なんじゃそのノーリアクション!なぜ驚かんのじゃ!おかしくないかのう!絶対可笑しいのじゃ!」

「なぜ怒る?収穫はあったんだろう。怒る必要なんて……」

むきになってか、久しぶりに見た七重は、頬を膨らませるが、なんで怒っているのだろうか?いつもと変わらない登場の仕方なのに……

「妾は、宗吾が驚く方に賭けていたんじゃ!なのに、宗吾はいつも通りで!普通に驚くはずじゃ!時間の神ヨグソトースの肉体が写った写真だぞ!常人なら頭がおかしくなるような容姿の神を見て驚かぬとは!宗吾の心臓には、毛でも生えておるのか!おかげで、今度発売するプリキュ〇のBDBOXをヨグちゃんの分まで買う羽目になってしまったぞ!」

ウチの神様は、最低だった。

いや、うん、時間の神様?とか言うヨグソトースさんが写っていたらしいが、そんなにヤバイ画像だったのか?俺は、画像を二度見するが、なにが怖いのだろうか。さっぱり分からない。

「いや、人を賭け事に使うなよ」

「だって、アイツ、自分に有利な賭けをしないと言わないって言うんだもん。妾は悪くない!それに賭けに乗るだけで、有利な情報を言ってくれるって約束して持ったし、勝てたらプリキュ〇のBOX買ってくれるとか!そんな神過ぎる提案に乗らない訳無いじゃろう」

……うん、相変わらずのポンコツ具合で俺は安心した。

「いや、考えてみろ、七重。そのヨグソトースとやらは、時間の神なんだろう」

「そうじゃ、邪神の副王にして時間の支配者、全にして一、一にして全。銀の王。原初の神の一柱。妾の様な神の相談役で、過去も未来もすべての時間を見通して居る」

ほら、未来が見える神様なんだろう。と言うか、なぜ七重は、気が付かないのだろうか。

「未来が見通せるなら、結果が見えるんだ。賭けの結果だって見えたうえで、七重にその条件を吹っかけてきたんじゃないか?」

「なん……じゃと……」

うわ、気が付いていなかったのか……なぜこいつは、最初から負けるような勝負をしたのだろうか。

七重は、驚きのあまり、体が震えていた。

「ち、チートじゃ!そんなの妾が勝てる訳無いじゃろう!」

本気で起こる七重だったが、そんなに驚くことなのだろうか、なぜ気が付かなかった。

「まあ、神様の流行がプリキュ〇なのは分かった。けど違うだろう。時間の神様に聞いた美夜の話を聞かせてくれ」

「あーそうじゃった。数日離れておっただけで、宗吾の性格を考慮していないなど……と、それはよい。ヨグソトースは、一言だけ伝えてきたのじゃ。答えを言うのは簡単だが、それでは、自分が面白くないと教えてくれんのじゃ。これだから邪神は……自分の欲望にばっかり忠実で困ったものじゃ」

うん、収穫はあると言っていたが、結果として収穫は、一個か……心持たないが聞くべきだった。

「巫女は、替ふの儀を行うことによって、生前に継ぐことも可能らしい。これと替ふの儀についての行い方だけを伝えられたのだが正直、意味が分からぬ。巫女を変えたところでいったい何になるというのじゃ」

「替ふの儀……どういう儀式なんだ。時間の神様が伝えてくれたことなんだ。きっとここに解決方法があるんだろう」

きっとヨグソトースと言う神は、もう答えを知っているのだろう。しかしそこで答えを教えてくれないということは、きっと試されているという事。

情報を知り対処できるのは、生き物の中でも知恵がある人間だ。

「そうじゃな。替ふの儀……これは、巫女が本来の役割を履行不可能になった時などに、緊急で新しい巫女を擁立する儀式なのじゃ。方法としては、巫女AがBに巫女を引継ぎさせる際の儀式。妾も何度かこの儀を取り行っておるが、特に除霊の儀式でもないのだがなぜヨグソトースは、この儀式を行おうとしたのか……」

「替ふの儀の条件は?」

「血縁関係があるのが最も良いが、血縁関係がなくとも互いの心が通い合っておれば本来可能じゃ。まあ、前任の神が契約で黒川家を雁字搦めにしておるから、湯上の地の巫女は、代々黒川本家の長女が執り行っておる。この契約さえなければ、黒川家じゃないものを巫女Bとして擁立出来たのじゃが」

「……今回の案件は、美夜だ。交換の儀が今回の案件に関係があるとは思えないのだが」

「妾もそう思う。しかし、ヨグソトースは、今までの情報と統合すればおのずと解決の糸口は見つかると言っておった」

情報を考えろか。

那奈美と美夜は双子だ。

彼女たちには、お互いに羨むところがある。那奈美は、巫女になりたくない。

たいして美夜は、巫女になりたい。

そんな二人の生まれは、帝王切開によるもの取り出す順番が違っただけ。

立場が逆ならよかった。今回のことは起こらない。

 前任の神様による契約が、双子を縛る。

神にもルールがあり、数も多く、融通も利かない。

そして、替ふの儀が正解の糸口。

この場合の巫女Aは那奈美、Bは美夜と言う事だろう。

美夜が巫女になると起こるメリット。

互いの関係が今より良くなる。……違う。これはきっと感情によるメリットの話じゃない。

詰まるところ、この儀式さえできれば、美夜が前任の神に取りつかれているという問題が解決する。

では、なぜ解決するのか。

神のルールを思い出してみる。

神は、肉体があって初めて神となる。意識だけの前任の神様。しかし、今は、美夜に取りつくことにより、神に近い力を持つらしい。

七重の力だけでは、倒せない。

しかし、支援が無い。今ある情報だけ前任の神を倒す方法は、きっと神様の守るべきルールの中にある。

ルール?

なぜ、那奈美に神は取りつかなかった。ちがう、取りつけなかった。取りつくとルール違反により意識事消されてしまうから。

消される……ん、待てよ。

俺は、思考の海に潜り込んでいたが、七重の声が俺を現実に引き戻してきた。

「宗吾!どうしたのじゃ!?考え込んでおって」

「いや、もしだぞ。美夜が取りつかれた状態で替ふの儀によって巫女になった場合。前任の神の意思はどうなる?」

「まあ、ルール違反で消えるかもしれんが、まず、契約がある限りは、替ふの儀の対象者は長女同士……つまり、黒川家の母子でのみしかできない」

「長女が、美夜だとしたら?」

「可能かもしれないが、そもそも長女は、那奈美じゃ長女は、二人はいない」

そう、双子だとしても生まれた順番によって巫女が決まる。しかし、とらえ方を変えてみたら面白いことが起きる。

俺の言いたいことが理解できていない七重に俺は説明する。

「那奈美と美夜は、帝王切開で生まれた双子、医者の人が取り上げた最初の子どもが美夜だったかもしれない。逆もあり得る。けど、看護婦が長女と次女を間違えていたら?」

「ありえないじゃろ。そのような屁理屈が通る訳……」

そう屁理屈だ。しかし、証明できない。

「けど、この屁理屈が間違えているのも証明できない」

「そうかもしれないが……いや、そうか、証明できないもの不確かなものは、証明の使用が無いという事か」

「そう言う事、これなら、契約に違反していかもしれない」

そう、これは、明確に定められた契約の裏をかいた方法。これで上手くいくかなんて分からない。

けれど、俺達が今できることはこれだけ。やれることはやらなくては、後悔をしてしまう。

「ふむ、面白いのう。行けるかもしれん。しかし、良いのか、交換の儀は時間がかかる。宗吾には、器として手伝って貰う、内容としては、一週間、やることは、清めの儀への参加、儀式前日に妾と一緒に休息をとること。難しくはないが時間がかかるうえ、時間をかけたとしてもうまくいくかは、半々ほど、その間は、学校はおろか、観光協会にも顔出しができなくなる。良いのか?」

「かまわない……とは言いたいが、少しだけいいか?観光協会の方には、健を代役に立てて俺の代わりに動いてもらいたいのだが」

学校に関しては、将来は死ぬつもりの俺だ、一週間程度休んでも問題はないが、観光協会の活動に支障は、出したくない。

七重は、不思議そうに首を傾げた。

「一ノ瀬の所の子どもか代役はアイツででよいのか?幸に頼んだ方がいいのではないか?馬鹿に任せえるとうまくいった後が怖いぞ」

「確かに健は、馬鹿かもしれないが、知恵が無い分頼んだことだけを正確にこなそうとするだろう?その方が、上手くいった後の引継ぎはうまくいく。きっと、幸さんがやってくれると知識がある分その後のスピードに俺が付いていけなくなる」

そう、結局のところ、これは建前だ。確かに俺の仕事は、どう足掻いたって、高校生のおままごと。しかし幸さんも黒川の人間だ。前任の神との繋がりが生まれてしまっている。

今までもきっとできることなら、とっくに湯上温泉町は、市になっている。

しかし、そうでないということは何かしらのしがらみがあるのだろう。何が起こるかは分からないが不確定要素は、排除しておきたかった。

「そう言うものかのう……まあ良い。では、日は、改めて予定する。儀式のことも妾から二人に伝えておくから、宗吾は、安心して準備をしておくが良い」

「ありがとう、七重」

「礼には及ばぬ。妾も宗吾には、頼ってばっかりだからのう」

七重は、笑顔で俺に笑いかけてきてくれた。こういう時の七重は、本当に助かる。俺は、心気なく準備を始めることにした。

俺がいない間に健にしておいてほしいリストを渡したのだが……

健はボソッと「舎弟としては嬉しいっすけど、俺に出来ますかね」とか言っていた。

少し不安になってしまいそうだったが、俺は、その後は、何のトラブルもなく事は進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る