第24話 替えふの儀
そして、替ふの儀式の準備中。俺は、七重と初めて会った時の神社で座禅を組んでいた。
七重は、儀式の準備を始めてから三日間祝詞を唱え続けている。
神は、疲れ知らずだと言っていたが、こうも間近にその姿を見ていると、七重が本当に神様なのだと感じてしまう。
俺は、七重の祝詞を一番近くで聞く必要があり神社から外の敷地には出られなくなっている。
衣食住に関しては、神社の中で全て完結するため困らないが俺の役目と言えば、祝詞を聞き、七重にとって最高の状態での睡眠のために身を清めていたが、話し相手が少なく少しだけ寂しかった。
「入るわよ!」
「お、お姉ちゃん!まだ祝詞中だからあんまりはい……あう、宗吾さんし、失礼します」
そんな中、那奈美が勢いよく神社の扉を開けて入ってくる。美夜もついてきているようだが、少し申し訳なさそうにしていた。
「お、ちょっと待っていろ……七重、座禅を一旦やめるが良いか?」
祝詞を唱えている七重に聞くと、七重は、祝詞を唱えながら、スマフォをいじりだし、俺のケータイにメッセージが入った。
『良い、後、三日で祝詞が終わる。その後、妾は一日の休みを取る前に、食事をとりたい。内容としては、お菓子とコーラを計三キロ。よろしく』
「了解頼んでおくわ。と言う訳で許可は下りた。どうした二人ともまだ儀式は、始まらないぞ?心配だってしなくていいんだぞ?退屈なだけで衣食住はしっかりしているし」
俺は、座禅を崩し、那奈美たちに話しかけるが、那奈美達は、少しムッとする。
「違うわよ、馬鹿」
「そうです。私たちは、お礼が言いたくて来たんです。儀式が始まってからでは遅いので」
「お、お礼?俺は何もしていないし、この後だって何かするわけじゃないぞ。するのは、七重、お礼を言うなら俺には言わなくていいのに」
そうお礼を言うのは、七重に言うべきだ。俺は、器として七重の傍を離れられないだけである。漫画の主人公の様に那奈美や、美夜を救うために何か特殊な力で目覚めたわけでもない。お礼を言われる筋合いなんてない。
「「ちがう!言いたいことが……あう」」
二人とも何かを言いたいのか喋りだそうとするが、見事に言いたいことがかぶり、お互いに委縮して顔を赤くしまう。
何だか、この二人が双子みたいなところを初めて見た気がする。
「み、美夜から良いわよ」
「私なんて後でも」
「美夜からでいいわよ!」
「お姉ちゃんからでいいよ!」
二人は、譲り合おうとしていたのに、だんだん口調も強くなり、美夜も珍しく強気な表情をしていた。
この二人、仲直りしたのじゃなかったのだろうか。
「ほれ、二人とも落ち着け、時間だけは生憎いっぱいあるんだ。どっちからでもいいよ」
「やだ、私は譲らないわ!」
「私もです。お姉ちゃんには負けないです!」
……あれ、本当に仲直りしたんだよねこの二人、意地の張り方がそっくりなんだが。それにこれ俺が言う順番を決めないといけない奴か。面倒くさい。
「……じゃあ、那奈美から聞くよ」
「なぜ私!」
「お姉ちゃんだろう?妹のために譲ってやれよ」
「そ、宗吾にママみたいなことを言われた!?」
「いいから、なんだ、那奈美」
なんだか、那奈美のリアクションが面白くなて来た俺が急かすと、那奈美は、咳払いをして、顔を赤くした。
「うぅ……その……」
「ほらお姉ちゃん頑張って!」
美夜の後押しもあり、ぎこちなく那奈美は、喋りだした。
「その……ありがと……約束を守ってくれて」
「約束?えっと……まて、アポイントメントとか言わんから待て、当てさせてくれ」
那奈美との約束、前の俺なら心当たりがない瞬間に、無いと言っていていたが、それだとまたビンタされる。俺だって同じ轍は踏みたくない。
「あぁ、昔の事か」
「そうよ、馬鹿。もう忘れたなんて言わせないから」
そう、昔の約束。
もう守れないと思っていた幼いころの約束。
俺は、那奈美を連れ出すと約束した。その時は、那奈美の立場なんて知らなかったからだが、しかし、今は、違う。
そう、替えふの儀が上手くいけば那奈美は巫女ではなくなる。
契約に縛られることもなくなる。美夜のことがあり、結果的には、約束を守れるだけだが、それでも幼いころの約束の一つ、巫女のしがらみからの解放については、約束が守れる。
「お礼を言う必要なんてない。結果的にそうなるだけで、俺は、約束なんて守れたわけでない。むしろ怒るべきだ」
「……ッ!」
「な、那奈美!?」
俺は襟首を那奈美に捕まれる。菜々美の表情は、怒っているようでもあるし、笑っている様にも見えた。
けど、今までと違って、そこに俺が感じる罪悪感はなかった。
「結果なんて、どうでもいい!とにかく!どんな形でもいい!あんたは、約束を守ってくれた!そのお礼は言わせなさい!馬鹿!ありがとう!馬鹿!」
「そ、そうだよな。約束は、守った。けどこれは、あくまで、自分のため。そこは、忘れないでほしい。俺は決して人のために動いたわけじゃない」
「はん、そんなことが言えるならまだいいわ。けど、腹ただしいのは事実。だから約束しなさい!これからも私を信用して頼りなさい!これは、過去の約束じゃないこれから、未来の約束!」
「もちろん、俺は、もう裏切らない。信用してくれ」
「当たり前よ!」
那奈美は付き物が落ちた様に満面の笑みで笑い、俺も笑ってしまう。
「……うぅ、私だって言いたいことがあるのに蚊帳の外です」
少し、悲しそうに声を上げる美夜。決して忘れていた訳じゃないけれど……本当にすみませんでした。俺達は、つい顔を赤くしてしまう。
「「すみませんでした!」」
「息もピッタリ……うぅ」
少し拗ねた様に、唇を尖らせる美夜に、那奈美は、声を上げとぼける。
「おほほ、き、キノセイヨ」
「お姉ちゃんの馬鹿」
「ぐ……妹に言われる馬鹿が、こんなに辛いとは……そのゴメン、美夜……私、待っているから、言いたいことを言ってください」
普段、俺に馬鹿と罵っている立場の那奈美だったが、立場が逆転すると、なんだか普段よりもさらに小さく見えてしまう。
「もう……。では、宗吾さん」
「は、はい!」
俺は、改まった雰囲気の美夜に、自然と背筋が伸びた。
「こんな私をなんで助けてくれるのでしょうか。居るだけにしても神社に一週間軟禁だなんて、辛い筈です」
「自分の為だ。俺は、死ぬためにこうやって頑張っている」
「な!死ぬため!?宗吾あんた!」
「お姉ちゃん、ゴメン。後で説明するから少しだけ待って。言いたいことは分かるから」
那奈美は、心の底から驚いていた。そう言えば、俺の目的を知っているのは、七重と美夜だけであった。那奈美は、何か言いたげな表情で俺を睨みつけてきたが、美夜のお願いを聞いてか、押し黙った。
「宗吾さん、自分の為だとしても、あなたのしている行為は、人助けです。理解していますか?きっと貴方とは、一番縁の無い行為です。やめようとは思わないのですか?そもそもこの町が、無くなりさえすれば、宗吾さんは、晴れて器から解放されて死ねるのです。こんな簡単なことをしなくてもいいのですよ?この町さえなくなれば、私達、黒川の契約だって履行不可となり解放されるのですよ?なんで簡単な方法を取らないでわざわざ、こんな手間のかかることをするのです?」
真剣な表情で、的確なことを言う美夜。確かにこの町さえ無くなってしまえば俺も黒川家も解放されるはず。けど、そうしない。
俺は、形はどうであれ、過去に一つの工場をつぶし、一つの家族を破綻させた咎人。
「その選択肢はありえないな。俺の様な変わりようのない狂人が一人で死ぬなら勝手だが、その勝手に人は、巻き込んではいけない。消えるのは、俺の様な咎人一人でいい。俺は、一人で静かに死ぬため、努力をしている。そこに情なんてないよ」
咎人は、一人で死ぬ。それが美しいしに方だ。
そのはずなのに美夜の笑顔は、それを許さなかった。
「そうですか。宗吾さんは、自分のことを咎人、狂人って言います。けど、私にとっての宗吾さんは、今も昔も私の王子様です」
美夜の笑顔は、近づき、俺の唇に美夜の唇を重ねた。
「な!」
「あ!あぁぁぁ!」
俺は、小さく驚き、那奈美は、悲鳴のような声を上げ、顔を赤くしていた。なんとなく、七重が祝詞を唱えながら、ニヤッと笑っている顔も想像がつく。
たいして、美夜は、悪戯に笑うのであった。
「ふふっ、意地悪な王子様には、私が呪いをかけておきました。もし、うまくいかなかったら、私は、責任を取って宗吾さんのお嫁になる呪いです。私は、なにがあっても宗吾さんを死なせません。縛ってでも添い遂げてやります。いやなら絶対に成功させてくださいね」
「お、おう……任せろ」
俺はなんだか照れ臭くなって、顔が熱い、美夜も何だか顔が赤い気がするが、すぐに美夜は、後ろを向いてしまう。
「さ、さて、私の中にいる元神様への小さな抵抗はしました。私たちは、これで。ほら、行こう!お姉ちゃん!」
「ど、ど、ど……」
美夜は、フリーズして壊れたラジオの様な那奈美を引っ張り、神社を出て行った。
俺のスマフォに七重からメッセージが入る。
『これは、成功させないとな。死にたがり』
「当たり前だ。俺は死ぬんだから」
俺は、そう言うと、座禅を組んだ。外から、那奈美が大声でどうしてこうなったあぁぁ!とか叫んでいたが、気にしない。
そして、那奈美の声も時間が忘れさせ、日は過ぎ、替えふの儀当日になった。
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