第22話 宣戦布告
結果から言って、美夜には、前任の神の意思が取りついていた。それも、俺がここに来る前かららしい。
俺が、器になるまでは、特に異変も無かったらしいが、俺が器となり、この町にちょっかいを出し始めたことによって目が覚め、物事がうまくいかないように動き始めたらしい。
そんな突拍子もない事を告げて、七重は、知り合いの神の所に行くと言い消えていった。
普段から、ずっと七重が俺の中の器にいる訳でもないので違和感はなかったが、今日は、なぜだか物凄く寂しく感じるのは、きっと気のせいだ。
「しかし、神様ねぇ」
俺は、お風呂を借りた後、俺は、考え込みながら、美夜の部屋の前に立っていた。
美湖さんには、いぇやで休んでいろと言われたが、居てもたってもいられなくなりの行動であった。
「おーい、美夜少しいいか?」
あの後だ、本当は、放っておくのが一番いいのかもしれないが、自分なんて消えたいと思っている人間の思考だ。
隙さえあれば死ぬし、逃げるはず。俺もそうだから。
部屋をノックするが反応が無い。
「おーい美夜?」
もう一度ノックをしたが反応が無い。
「み、美夜さん!入るぞ!」
まさかもうどこかへ逃げ出したと思い、美夜の部屋に飛び込む。
するとそこには、全身肌色。
全裸の美夜がポカンとしてこっちを見ていた。
「はへ……そうごさん?」
「は、はろー」
全裸だった。
大事なことだから二回言った。
思考が停止する。綺麗な形をした大きな胸におへそ、手で隠れているため、那奈美の言葉で言うならギリギリR15な描写。しかしそこには、余りにも美しい裸体がある。
そして、先に我に返ったのは、美夜だった。
「キャアァァァ!!」
「す、すみませんでした!」
美夜は、耳をつんざく悲鳴をあげ俺もこのまま立ち尽くしていれば豚箱入りになることに気が付き、慌てて、部屋を出た。
数分後、美夜が、中には言って良いと言われるまで胸は、高鳴り、男性特有の生理現象は、収まり知らずの疲れ知らずとなっていた。
「すみませんでした!お見苦しいものを見せてしまい!」
「はえ?い、いやそんな事!こちらこそ、ごちそう……じゃなくて、すみませんでした!」
俺が美夜の部屋に入り、互いに顔を合わせた瞬間に土下座をした。
いや、こういう時って、男が、殴られたりするのじゃないのか?那奈美だったら、きっと殺されていた。目に、タブレットペンが突き刺さっていたはず。
しかし、美夜は、俺の目にタブレットペンを刺すどころか、深々と土下座をしていた。
「あ、あのなぜ、宗吾さんが土下座をするのでしょうか。もとはと言えば、私が宗吾さんのノックに反応さえしていれば、起きなかった事故ですよ。宗吾さんが謝る必要なんて」
「いえいえ、素晴らしいものを見せていただいたのにそんな、土下座されるなんて、事故とは言え、美夜を辱めたのは、事実ですので」
互いに顔を見ていないが、なんだかおかしくなってきた。
「こ、このままではらちが明かない気がします」
「同意見。顔お互いに上げようぜ」
お互いにかを置上げると、美夜は、ピンク色のパジャマを着て、顔は、赤くなり、頬には、涙の跡が残り少し目も赤くなっていた。
「そ、その恥ずかしいですね」
「言うな」
会話が続かない。互いに何を言って良いのか分からない。
こういう時にどういう顔をすればいいのか分からない。那奈美や七重の様に話すのが得意な人種なら、きっとこんな間は、生まれない。
しかし、俺は、ろくに同世代の友人がいない。目上の人なら、もっと喋りやすいのだが、美夜とは、あんなことがあった後なので話題が生まれない。
「き、気まずいです」
「だ、だな」
ツッコミ不在の恐怖。なぜこんな時に那奈美はいないのか……と思ったが、あんなことがあった後で、少し、那奈美も部屋に籠って反応が無いから、恐らく強引に連れ出してもこの空気は、変わらない。
しかし、一言、一言あれば、話が前に進むはずなのに……そう思い俺は、無理して那奈美の振りをして、この空気の打開を試みた。
「お見合いか!」
「あ、あはは。その、イイテンキデスネ」
「お見合いか……ソウデスネ」
だめ助けて、ナナエモン。
七重に助けを求めるが、こうやって大切な時に限って七重は、いないのだ。なんとも魔の悪い神様だ。
こうしている内にも、無言の時間は続いた。しかし、そんな時間が段々おかしく感じた俺達は、妙にくだらないと思ったのかついつい笑ってしまう。
「プっ……あははは!」
「ふ、ふふふふ!」
「あはは、馬鹿らしいな!俺達何やっているんだろうな!なんだよ美夜!いい天気って!大雪が降っているじゃないか!あははは!」
「ほ、本当です!宗吾さんだって……ぷぷ、同じセリフ言っちゃって……あははは!」
良かった。お互い笑って済んで。
しかし、俺達は、お互いに笑うためにいるのではない。話しをしに来たのであった。
お互いに数分ほど笑い合った後、美夜は、切りだした。
「宗吾さんどうしたのですか?って、聞くのも野暮ですよね。きっともう七重様から聞いているとは思うのですが、私の事ですよね」
「まあな……少しだけ時間良いか」
「いいですよ」
美夜の許可を得て、俺は少し切り替える。聞かないといけない事があった。
「じゃあ、早速。どうして美夜は、逃げようとした?」
「宗吾さん達の邪魔になるなら消えた方がいいと思ったからです」
「消えるってどこに?こんな天気じゃ、バスだって動かないだろう。遠くに行けるわけでもない。どうやって消えようとした」
こう聞いたが、大体理由は、想像がつく。
理由は簡単だった。
公園で見た美夜の目は、俺が一番知っている目だったから。
「死のうとしました」
「随分と簡単な理由で死のうとするんだな」
「宗吾さんには言われたくありません、湯上温泉町に来た理由。七重様から聞いていますよ……お金をなくして自殺なんて随分と簡単な理由ですね」
そう、死にたがり、自殺志願者がする絶望に満ちた目で合った。美夜は、那奈美に引けを取らない煽り言葉をしてくる。
流石は、姉妹だと思ったが、なにぶん自殺志願のキャリアの違いからか、不思議と俺の頭は、冷静であった。
「そうか?俺にだってそれ相応の理由がある。はっきり言って自己評価だけで言うなら狂人だ。俺みたいな狂人は、簡単に死を選ぼうとするけど、美夜は違う」
「そうですか?私だって相当の覚悟でしたよ。本気だからこそあんな書置きをして家を飛び出した訳ですから。十分狂っていると思います」
まあ、確かにあんな書置きは、おかしいが、それでも俺の意見は、変わらない。
「いいや、狂人キャリアが長い俺から言わせてもらえば、美夜は、常人。それに聞きたいのは、狂人キャリアについてではなく、なんで神様の問題を知りながらも諦めて死を選ぼうとしたかだ」
そう、そこだ。
確かに空き家貸し出しの率が低いのには、美夜が原因もあった。
しかし、それが死を選ぶ理由にまで至るとは、俺は、どうしても考えられなかった。
「宗吾さんには、分かりません」
「なぜだ?俺は信用に足らんのか?確かに俺は、ついさっき、自分が人を信用できていないと身をもって知ったが美夜は違うだろう」
「いいえ、絶対に分かりません」
しかし、核心に俺がふれようとすると美夜は、ダンマリを決めてしまい核心に迫れない。
「そうか、なら教えてくれ」
「いやです」
「聞かせてください。いや、聞かせろ、命令だ」
「拒否します」
少し、口調を強くしても口を割らない美夜。
しかし、俺とて昔は、いくつもの修羅場をくぐってきた男、押して開かないなら、美夜から、開かせるしかない。
「そうか、じゃあ美夜は、どうでもいいんだよな。俺達のことも、湯上温泉町のことも。俺達の気も血なんて一切無視して、自分のエゴをつき通すのだな。それなら、結構、俺は、今後美夜の事なんて知らない。今後は、せいぜい露出癖のある変態にしか思わん」
「勝手にどうぞ」
少し目元が吊り上がった。冷静を装ってはいるが、確実に俺に怒りを覚えた。それさえ確認できれば、こじ開けるように煽るだけ。
人は、感情がある。どんなに心を閉していても、いつかは感情が決壊する。溢れ出してくる。後は、決壊するための怒りのスイッチ。NGワードを言うだけだった。
「そっか」
俺は、そのNGワードを知っている。美夜に使えばきっと嫌われる。しかし、絶対に嫌われない。人を信用しないといけないのは、身をもって那奈美に教わった。
それなら後は、美夜を信用してNGワードを使うだけだった。
「まあ、所詮美夜だからな。那奈美みたいに言いたいことを言ってくれるわけでもない。美夜は、自分で抱え込んで悩めばいい。俺は、何かあったら那奈美を頼るから」
「な!なんでそこでお姉ちゃんが出てくるのですか!」
そう、美夜に使ってはいけない言葉。
それは、那奈美、姉との比較だ。
美夜も那奈美互いを羨ましいと思っている劣等感を抱いている。
そして公園でのあの反応。怒るのは明確な事実であり、美夜は、案の定怒りを露わにする。
もう一押し。
「あー、本当に自分の気持ちすら察してくれない出来の悪い妹を持った那奈美は、可愛そうだな」
決壊した。
人の神経を逆なでする才能なんていらなかったが、美夜は、怒りを爆発させた。
「宗吾さんには、分かりません!私が、どんだけ悩んでいるか!私は、巫女になって、この町を守っていきたかったのに、先に医者に取りだされただけのお姉ちゃんに私の欲しいものを全部持ってかれて!私だけの王子様は、お姉ちゃんの王子様でもあって、思い出まで持っていかれて!故郷を愛する気持ちだって意味わからない存在によって踏みにじられて!お姉ちゃんは、全部持っていて私に一つも分けてくれない!なんでみんな、私から大切なものを欲しいものを気持ちまでも奪っていくのですか!なんで、なんで私には何もないのですか!なにも無い私が、今度は、みんなに迷惑までかけて!なにも無いどころか、害しかない!そんな私の気持ちは、宗吾さんにはわからない!分かってほしくない!せいぜい、お金を失った程度で、お金以外にもいろいろなものを持っている宗吾さんには、私みたいななにも無い人の気持ちなんてわかりません!」
心からの叫び。
美夜は、感情が高ぶり、俺の胸倉を掴み倒れ込む。
しかし、俺は動じない。美夜の言う通りだから。
確かに俺も大切なものを失った。否定されたのは腹がったが、美夜の言う通りその程度だった。だから分かるはずが無かった。
「分かる訳ないだろう。馬鹿じゃないの?」
「あ、あなたって人は!」
本日二回目のビンタ。
しかし、今度は悲しみも無い、思考はクリアだ。美夜を信頼しているからこそ俺は、言いたいことをすべてぶちまけた。
「分からないね。失って、後悔するくらいなら、大切なものをまた一から作ればいい」
「それが出来たなら!どれだけ楽だと!」
普段笑顔が多い美夜の初めて見る激昂。しかし、今までで一番、美夜の考えていることが分かる。
そう、本質的に俺と美夜は、同じもの……劣等感を持っている。その表現を俺は、死やマイナスの感情に美夜は、貼りついたような笑みや我慢に回しているだけ。
だから、理解できる。信頼する。だから伝える。
「できるね。俺は、ここにきて狂ったまんまだけど、一つ大切なものができた。それは、他人への信頼。とまあ、俺もついさっき気が付いたばっかりだけどさ」
「それは、宗吾さんだから!」
「違うね。美夜にもできる。俺と美夜は似ているから。美夜にもできる」
俺は、顔がほとんど間近に迫った涙や怒りでぐしゃぐしゃになった美夜の目をしっかり見て宣言する。
そんな態度を見て、俺の胸倉を掴んだ美夜の手の力は抜け、俺は、起き上がる。
そして美夜の両肩を掴む。
「いいか美夜。俺は、美夜が大切なもの守りたいものが作れるって信用する。一方的だとしても信用する。俺が信用しているんだ、絶対に出来る」
「ば、馬鹿ですか!」
怒りや、驚きで美夜は、あたふたし始める。感情の板挟みになっているのが分かる。
「馬鹿でも何でもいい。俺は、信じる」
「ばか…です!」
「あぁ馬鹿だ」
感情が決壊する。今度は、涙だ。泣いたはずの美夜をまた俺は泣かせた。
「ばかぁぁぁ……うぅ」
「そうだよな……なあ、ちゃんと話そうぜ」
俺は、泣く美夜を慰める。これも二回目だ。
那奈美も泣かした。バカみたいだ。こんな出来過ぎた展開、糞みたいだったがどんなにベタで見飽きた展開でも構わない。
俺は、もう離さないこの手を……
「宗吾さん……好きです」
「はい?」
美夜は、ボソッとつぶやく。その顔は見えないからどんな表情をしているかは分からない。
と言うか、え?なにそれ?
ナニコレなんてエロゲ?
「冗談です……変わるのが嫌いな前の神様へのちょっとした抵抗です」
「そ、そうか」
うん、気のせいだった。
ドキッとしたが、これは、美夜なりの前任の神様に対する宣戦布告だった。
俺達は、この後、仲良く風邪を引いた。それは、雪の中美夜は、薄着で出歩いていた訳だし長い時間俺も美夜の傍にいたのだ。風邪をひくのは当たり前であったのだが……
「馬鹿も風邪をひくのねぇ」
姉妹喧嘩慣れしていた那奈美は、立ち直りが早く、美夜と微妙にしこりは残しながらも仲直りをし、ぴんぴんとした那奈美の嫌味には、イラッとした。
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