第21話 心の叫び

「くそ!ここにもいない!美夜やー!」

「どこなの美夜ー!」

雪の中、俺達は、那奈美が思い当たる美夜の行きそうな場所を全てに行くが見つからないまま一時間が立とうとしていた。

「妾は何をしていた……こんな事ならもっと早く気が付くべきじゃった」

あの後、七重から、美夜の行方が分からなく詳細を聞いた。

あまりに突然だったらしい。夜、旅館の仕事を手伝うはずだった美夜がいなかったため家の方を見た時、美夜は、家にいなかった。

部屋には、携帯電話が置きっぱなしになっており、書置きがあったらしい。

そこには、一文だけ書かれていた。

私が居ると迷惑になるので、消えます。

そこから行方不明が発覚し、警察が動き、七重が俺たちのもとに来たらしい。

七重は悔しそうに爪を噛んだ。

「妾が、もっと早く前任の神について気が付いておれば……。妾は、無力な神じゃ、神なのに娘ッ子一人の異変にすら気が付けんなど……」

「七重、大丈夫だ。見つけるから、少しお前は休め、体が冷えて冷たくなっているぞ」

俺は、珍しく弱気な七重の頭を撫でる俺達より先に美夜の行方不明に気が付き、自慢の月額三万するスマフォすら忘れて美夜を探していたのだ。体も冷え切っていた。

「しかし……これは、妾の責任で」

「七重様、これは、僭越ながら次期巫女として言わせてください。これは、七重様のせいではありません。それに神様は、神様らしく、堂々と構えていただかないと不安になるのは、私たち巫女や民たちです。神様なんだから、謝るな!馬鹿!……ってことです」

しかし、そんな七重を那奈美は、珍しく叱咤する。

その姿は、とても堂々としていた。実の妹が、居なくなって一番不安なのは、那奈美のはずなのに……

「分かった……では、少し休ませてもらうぞ。宗吾少ししゃがんでくれ」

「おう、しっかり休め、神様」

「任せるのじゃ。妾は寝る。しかし美夜が見つかったら必ず語りかけろ。妾だって心配なんじゃから」

俺は、しゃがむと七重が、俺の背中から器に戻って行った。どうにも浮かない表情だったが、だから早く美夜を見つけて安心させてやらないと。

「任せろ」

「任せたのじゃ」

七重が、器に入り、那奈美と二人になる。那奈美は、普段から常備していた折り畳みの傘をさして考え込む。

「むむ、あと美夜が行きそうな場所か……。他に……うーん」

しかし考え込み過ぎてか、那奈美も少しに詰まっていた。

表情に見せないが、やはり那奈美も心の中では、焦っているのだろう。だからこそ、俺は、ここで少しふざけていかなくてはいけない。

「なあ、那奈美よ。聞きたいのだが」

「なによ!少し待ってくれないかしら!?美夜が行きそうな場所をもっと考えないと!」

「お前、帰る時、傘忘れたとか言っていたけど、その傘、学生鞄から出さなかったか?なぜそんな嘘をついた」

「な!?き、気のせいじゃないの!」

那奈美は顔を赤くし、否定するが、流石に今さっき見た光景だ、見間違えるはずもない。

「いや、良いんだ。俺と相合傘をしたかったんだろう。分かる。ナッちゃんツンデレだもんな、そこがまた可愛い」

「ツンデレちゃうわ!後、ナッちゃんっていうな!」

「あはは、よしよし」

俺は、那奈美の頭を撫でる。ふざけているわけではない。美夜の捜索には、那奈美の協力が不可欠。だから、子ども扱いをするように那奈美の頭を撫でる。

那奈美には、ある程度肩の力を抜いてもらわないと、本来出せる那奈美の力が十分に出せない。美夜が見つからないという最悪の結果を招かないためなら俺は喜んで道化になる。

「子ども扱いするな!こんな時にアホなことしていたら、美夜見つからない!」

「けど、このまま考えているだけでも美夜は、見つからないだろう」

「そう……だけれど……じゃあ私にどうしろと!」

那奈美は、本日二回目の感情が噴出する。普段から、那奈美は自分に正直ではあったが、今までは少し距離を感じていたが、今は違う。

今までの距離は、きっと俺が、那奈美を信じ切れていなかったからだ。

だから、今は、素直に那奈美を信用する。きっと彼女は、美夜を見つけられると。

「ナッちゃん。まずは冷静になるんだ。このままじゃ行き当たりばったりになる」

「だからもう昔の呼び方で……ん、昔?待って、まだ探していなかったところがあった」

ほら、俺が信用した通りに那奈美は、答えにたどり着いた。

「分かったか?」

「うん!こっち!ついてきなさい!」

俺は、那奈美に言われるがまま走り辛い雪の上を走りだそうとしたが……

「痛!」

「なに転んでいるの!バカ!おいて行くわよ!」

今雪なんて滅多に振らない場所に住んでいた俺、見事に雪に足を取られ転んでしまった。

そんな俺に手を指しだした那奈美の手を俺は取ると、その場を俺は走り出した。

もちろん足元には気を付けながら。


 雪を踏み抜きたどり着いたのは小高い丘にある公園。雪が積もり歩くのもままならい場所な上、ここ二か月以上いた俺も知らない場所。

それなのに見覚えがあった。今の俺は知らないけれど、昔の俺は知っていた場所。

「こ……ここは、覚えている」

「あら、覚えていたのね。そうよ、ここは、私達がそう君……ゴホン!宗吾との思い出の場所。私が、宗吾にこの町から連れ出してくれるって約束した所。美夜がどっかの気障な糞王子様と出会った場所」

「き、聞いていたのか」

呆れた様に俺を見る那奈美。確かに俺がここで泊まった3日間、三人と遊んだ公園。糞王子様と言うあたり、美夜に話は聞いていたのだろう。

昔のことだから許して欲しいが、昔の俺、とんでもないことを言っていたな。

「聞いたも何も、昔から、美夜と喧嘩するたびにその王子様と私が比べられていたのよ……まあ、その糞王子様が宗吾だって気が付いたのは、アンタがこっちに暮らし始めてからだけれど」

「それは、後で弁解する!どこに美夜がいるか分かるか!」

「こっち!」

俺達は、公園に入っていくと、そこには、雪の中傘もささずに一人着物を着て立ち尽くすポニーテールの少女、美夜が立っていた。

「「美夜!って!痛!」」

俺達は、探していたその後、姿を見て思わず声を上げ走り出し、二人で仲良く転んだ。

「……え、ふ、二人とも!」

「い、いや」

「あ、あはははは……」

俺達は、苦笑いをするのだが美夜は今までに見たことも無いほど、何かに恐れるような顔をして後ずさりをする。

「やめて……来ないで」

「み、美夜……」

その顔を見るのは、那奈美も初めてらしく、物凄く悲しそうな顔をした。

「来ないで!来ないで!来ないで!ダメだよ!来ないで!私に見せつけないでよ!もう一人にしてよ!」

「な、なんで美夜……」

「嫌い!私は、私が嫌いなの!大切な人にこうやって迷惑しかかけない!嘘しかない!」

「そ、そんな訳」

「ある!あるもん!ダメ!いや!嫌い!」

「み……」

「大嫌い!お姉ちゃんなんて大嫌い!私は、自分がもっと大嫌い!」

「な、なんで」

心の叫び。絶叫。

感情をあらわにする美夜に那奈美は、何も言えなくなってしまう。混乱しているようで、眼から涙が出ている.しかし、それは美夜も同じなのか、わずかに目の焦点が合っていなかった。

「もう探さないで!……きゃあ!」

そう言い、美夜は、どこかに走り出そうとするが美夜は、転んでしまう。

「美夜!アッツ!七重!」

那奈美は、起き上がれないのかその場で呆然としていた。

そんな、那奈美の代わりに、俺が、走って美夜に駆け寄ると美夜の体は冷たい筈なのに体温は、驚くほど熱かった。

慌てて七重を呼ぶと七重は、俺の中から慌てて飛び出てくる。

「だ、大丈夫じゃ!ただの風邪じゃ……それより」

「御託は、後だ!今は、美夜を連れて治療を!」

七重は、俺になにかを言おうとしたが、そんな余裕はなく転んだ美夜をおぶった。

「そう……君、私なんて……おいていって」

「ばか!馬鹿かよ!美夜!お前は後で説教だ!七重!すまん!那奈美を頼めるか!」

「任せろう!こんな時くらいは、神らしく人助けをするぞ!」

俺の指示を聞いて、七重は、自分よりも身長が高い七重をひょいッと持ち上げる。

「そう君……ダメだよ」

「うるさい!黙っていろ!」

俺は、美夜を背負い、那奈美を担いだ七重と慌てて、家に帰った。美夜も七重も帰りの間、一言も声を出すことはなく、ただただ、俺と七重の息の音だけがあたりに響き渡るのであった。

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