第14話 社畜ですか、ふむ
「……眠い」
「そうね。眠いわ……」
そしてようやく昼休、俺と那奈美は、屋上についた瞬間から、地面に行儀悪く寝そべる。
俺は、昨日の疲れもあり、那奈美も昨日は、イベントで売るグッズのイラストを描いていたらしく、ほぼ徹夜組。だらしなくなるのもしょうがない。
「あ、有馬さん!那奈美さん!お召し物が汚れますよ!自分、ブルーシート持ってきましたからそこに寝てください!」
そんな俺達を気遣う自称俺の舎弟、一ノ瀬……一ノ瀬ってこんなキャラだっけ。しかし、そんなことを考えることもできず、俺と那奈美は敷かれたブルーシートまで、転がって移動する。
「あー、助かるぞ、一ノ瀬~」
「そうねー。宗吾、アンタもいい舎弟を持ったわねぇ~」
「あざっす!」
一ノ瀬は、嬉しそうに俺に頭を下げる。ここ最近のお決まりのパターンになっているのだが、この昼休みにだらけるということはやめられなかった。
「あ、あはは、お姉ちゃんと宗吾さんがだらけるのは、よく見ていますけれど、一ノ瀬君が舎弟として有能過ぎて、お姉ちゃん達のだらけを助長している気がします」
「いやー舎弟としては、光栄なことです」
「褒めていないです……それより、ご飯ですよ?お昼が終わってしまいます。よいしょ」
そんな俺達を見て何とも言えない顔で見てくる美夜は、ブルーシートの角の方に座ると俺達三人分のお弁当を手元に置く。
「ほら、宗吾さん、お姉ちゃん、座ってください。ご飯ですよ!それに一ノ瀬君も座らないとご飯が食べられませんよ」
「じゃあ、自分もお邪魔します」
「「へーい」」
俺達は、美夜の呼びかけで、ゆったり這いずるように円を組みお弁当を受け取る。
『良いのう……妾も食べたい……』
『学校では、姿を出さないって約束だろうリアルケモミミ幼女が普通に出てきたら、大問題だろう』
七重は、昼時と言うこともあり、今日は、珍しく俺の中で起きているが、どうやら暇を持て余しているらしいが、学校にケモミミ幼女が出てきたらそれだけで大混乱になるため、学校では、七重が、俺から出ないように約束している。
耳と尻尾を隠して出たとしても平日の学校に金髪幼女がいるのも可笑しいので、同じだ。
「さて、皆さん食べましょう!」
一ノ瀬もビニール袋から、サンドイッチを出そうとしたのだが、その時、校内の放送が掛かる。ダルそうな声から、小野原先生だろう。
『えー、一ノ瀬健、至急職員室まで来い。てめぇ昨日、補講に出ねえで、どこほっつき歩いていたー。まあ、カラオケらしいな、説教するから、至急来い。来なきゃ、処刑。単位は、無いと思え』
「いやー、一ノ瀬って奴は、馬鹿ですねー。補講をさぼるなんて」
「いや、明らかにお前だろう。早くいかないと、ミレニアム懸賞の問題を宿題に出されるぞ?解ければば一億円貰えるが、そんな問題、誰も解けないからな」
現実逃避する一ノ瀬に俺は、現実を突きつけると、一ノ瀬は、泣きそうな顔になっていた。
「うぅぅ!い、逝ってきます」
「おーいけいけ」
一ノ瀬は、走って屋上を下って行った。
そして一ノ瀬が出るのを見計らってか、なぜか制服姿の七重が、俺の腹から、出てくる。
「よいしょ、ふー、ようやく出られたわい。器の中もいいが、やはり若い体で、家に引き籠るのもまずいからのう!これで、妾もお昼が食えるのじゃ」
「きゃあ!って、七重様ですか……ビックリしました」
「そ、そうですよ!七重様!もっと、神様みたいな登場は、出来ないのですか!?」
うん、俺も最初は、驚いた。
夜中に、目が覚めたと思ったら、腹から、上半身だけ出して、いきなりエイリアンとか言って七重が、悪ふざけで俺を驚かした時は失神寸前になったが、もう何度かこういった登場を見ているので慣れていたが、那奈美達が見るのは、初めてらしく美夜と那奈美は、青ざめて二人で抱き合っていた。
「いや、那奈美。妾も神だ。時間は、余るほどある中で、飽きぬよう考えることは、おやつとイタズラくらいじゃ」
「もう、もっと町のことも考えてください七重様!」
「ほほほ、まあ、妾のことなどどうでもよかろう。それよりご飯じゃ!妾にも弁当を分けい!後、おやつが食べたい!」
やれやれと七重に注意する那奈美だったが、七重は、欲望に忠実なのか、俺の弁当の蓋を奪い取りおかずをよこせと言わんばかりに前に差し出す。昼ご飯が楽しみなのか、尻尾もフリフリしている。
「あー、分かった。じゃあ、プチトマトを俺はやろう。おやつに持ってきたチョコチップクッキーは分けてやる」
「たわけ!唐揚げをよこさんかい!あと、クッキーも楽しみじゃ!」
無理やり俺の弁当から、唐揚げを奪い取る七重。唐揚げは、弁当箱の大きさから言ってもあまり数が入らないのに……
それを見てか那奈美達も弁当から、それぞれ、おかずを七重の持つ蓋におかずやご飯を置く。お弁当は、美湖さんの手作りなので、内容は、同じなので、お互いに別のモノを置いていく。
「あ、じゃあ私は、卵焼きをあげますね」
「美夜が卵焼きなら私は、タコさんウインナー置いておきます」
「ほほ、おかずが増えてゆくのじゃ!」
ず、ズルい。
二人とも、七重に渡すのは、唐揚げでないものだ。美湖さんの唐揚げは、香味野菜の風味が効いていて、それなのに食が俺より細い那奈美たちも胃もたれしない、冷めてもおいしいまさにお弁当の王様。
とまあ、小さいことは、あまり気にしても意味がないので、おかずの分け与えが終わったところで、俺達は手を合わせた。
「「「「いただきます」」」」
その声と共に俺達は、弁当を食べ始める。
「ふむ、美湖め、腕を上げたな。やはり唐揚げもそうじゃが、ウイナー一つにも小さなこだわりを感じられる」
美味しそうに咀嚼する七重、俺も弁当に口をつけるが、やはりうまい。
両親が他界してから、親戚に盥回しされていたころは、三食コンビニ弁当だったし、一人暮らしを始めてからは、自分で料理をしていたため、人の作った手料理は、やはり、どんな高級料理よりもおいしい。
「そうですね……そう言えば、宗吾さんはどうして今日は眠かったのですか?お姉ちゃんは、同人誌?を描いていたのは、知っていますが、宗吾さんは、そんなに地方創生の話が進んでいないのですか?」
「昨日は、グッズ用のイラストを描き上げただけで、同人誌は、きっと今頃、印刷工場よ」
唐揚げを食べ、ニコニコの美夜は、俺に不思議そうに聞いてくる。那奈美のイベントに向けた進捗は、とりあえずスルーしておく。
「あぁ、管理側の旅館からは、おおむね理解をもらっているのだが、空き家貸し出しや、売りに関しては、まだ理解してくれる人が少なくて……やはり、空き家貸し出し側に明確な理解者がいないのが問題なんだよ」
そう、観光協会の組合員は、みんな管理側の人間で、一ノ瀬の爺さんも、空き家貸し出し側として立ち回ってもらっているが、爺さん自体が空き家を持っているわけではないので、どうしても空き家の貸し出しや販売については、まだ統率が取れていない。
「そうですよね……確かに湯上温泉は、外国人の方が少ないですし難しいですよね」
「はん!あいつらの頭が腐っているだけよ!人種や文化は違っても同じ人間なのに受け入れるのを躊躇するなんて、本当に糞田舎の典型だわ」
「お、お姉ちゃん!言い過ぎだよ……みんないい人たちばっかりなのに」
それに対しての反応も双子と言え違うらしく、ぼろくそに自分の故郷に文句を言う那奈美と擁護する美夜。
一卵性の双子らしく、仕草や顔はそっくりなのだが、唯一、湯上の町に対しての考え方だけは、正反対である。
否定派の那奈美。肯定派の美夜。なぜ彼女たちの考えがここまで違うのかは、分からないが、きっと彼女たちにも何か思うことがあるのだろう。
「まあ、みんな考え方は違う。しかし、目標を同じにするのは可能だろう。俺は、あくまでも中立派で行く」
「ほう、なんじゃ、宗吾は、てっきり否定派かと思っていたぞ?都会から、こっちに移り住んだものは、大抵、田舎の慣習に拒否反応を起こすからのう」
確かに七重の言う通りだ。
俺も、自殺のため湯上にて、器としてここに住まず、普通に移住したのなら、湯上の慣習に驚きを覚えていただろう。
今の世の中で、調味料を借りるために近所に訪問しそのまま、井戸端会議をする辺りは、いまだに驚くが、俺の様な、死にたがりには関係のない事だ。
「もう、お姉ちゃんはいつもみんなの悪口ばっかり言うんだから!」
「しょうがないじゃない事実なんだから!」
「割り切るのは、良いが、そろそろ、那奈美と美夜の喧嘩をどうにかしてやらんと収拾がつかんぞ」
確かに俺が今、するべきことは、喧嘩の仲裁に入ることである。こうやって、町の人の理解を得る方法を考えていたってしょうがない。
「あー、ほらドウドウ。喧嘩しない!」
「「けど!」」
うん、めちゃくちゃ息ピッタリじゃんこいつら、とにかく俺は、二人の間に入り、喧嘩の仲裁に入ると、二人とも落ち着いた。
「と言う訳で、二人に相談したいのだが、どうすれば、町の人に空き家の貸し出しや、販売を理解してもらうことができる?」
「そうですよね。どちらにしてもお互いの理解があってうまくいくものですから、話し合いですかねぇ」
「金よ!金を積めばいいのよ!」
「おう……」
ついつい、変な声が出てしまう。故郷についての考え方も確かに二人とも違ったがここまで纏まらないとは思わなかった。
確かに、性格も、那奈美は、勝ち気で負けず嫌いと言う、気の強い女代表みたいなところがあるのに対して、美夜は、少しネガティブな所がある、しかし優しく物腰も柔らかい大和撫子そのものである。
他にも、こういったところが多々ある。まさに鏡のような存在であり、そう意味で見れば、双子らしいが、意見は、まとめにくい。
「うむ……金を積むのは、信用できない。俺は、金で身を滅ぼしているし。それに説得と言っても具体案が出ないしな……うむ」
俺が頭を抱えていると、弁当を食べ終わっていた七重が、ため息をつく。
「はあ、これだから宗吾は、お前は、休むという言葉を知らんのか」
「いつも、食うか寝るしかしない神様とのバランスをだな……」
俺は、言い返そうとするのだが、七重のセリフに同調する様に那奈美と美夜もうなずいた。
「そうね。この馬鹿は、なにをするにも全力を注ぐからたまに心配になるのよね。人のことは言えないけれど、授業中に寝そうになって授業態度が悪い癖に転校の時に受けた学力調査も満点で、何をやらせてもできるし、正直いつ休んでいるか分からないわ」
「そうですよね……宗吾さんって、朝のお仕事しながら学校に通って夜は、地方創生の事だったり、ウチの手伝いをしたりで夜も忙しそうです。いつ寝ているのでしょうか?」
「別に、必ず一日三時間は、ぐっすり寝ているし、健康管理やストレスコントロールにも問題はないと思うぞ?それに旅館の手伝いしていてもちゃんと休憩は貰えるし」
体は資本。これは、人類全員に言えることだ。だから俺もしっかりとスケジュールを組んで動いているから、今の生活は、苦じゃない。
むしろ、東京で一人暮らしをしていたころの方がストレスは多いし、一人で食事もしていたから苦しかった。
「えぇい宗吾!オーバーワークじゃ!何か理由をつけてでも一度休ませんといかん!」
しかし、そんな俺を七重は、バッサリ一刀両断する。そんなに俺が休めていないのだろうか、正直理解できなかったのだが。
「そうだ、七重様!次の三連休でちょうどいいイベントがありますよ!」
「ほう、良いイベントとな」
思いついた様に那奈美は、手を叩く。なんとなく嫌な予感がした。
「今度、東京でイベントがあるんですが、その手伝いを兼ねて東京旅行なんてどうですか?」
「い、いやほら、旅館の手伝いが……」
俺は、旅館の手伝いを盾に拒否しようとしたが、ここで、美夜が援護射撃をしてくる。
「大丈夫です!お母さんも宗吾さんのことは心配していましたから!シフトも調整してくれるはずです」
「だけど……えっとその……」
「決定じゃ。次の休みは、皆で東京旅行じゃ!」
「ヒャッハー!秋葉原!私の生まれ故郷!」
いや、那奈美の故郷は湯上だろうと言いたいぐらいはしゃぐ。
「私も、気になっているお洋服とかあるので、ついて行きますね」
「あと、その」
妙に歯切れの悪くなる俺。時間が惜しい、俺は、早く不老不死なんて呪縛から解放されて、死にたいのに!しかし、そんな俺を察してか、七重は、笑顔で俺の肩を叩く。
「決定じゃ、宗吾」
「い、嫌だ!働かせろ!俺を働かせてくれぇぇぇ!」
こうして、次の三連休は、俺は、強制的な休暇を与えられた。遠のくな、俺の死。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます