第13話 いんごないとふぃーばー

「そ、じゃあ、上手くいきそうなんだ。宗吾のくだらない計画」

「くだらないって……まあ最後の方は、俺ツエェ系爺さんに助けられた所があるけれどな。あの爺さん、異世界に転生したら絶対に無双する」

「まあ、豪紀さん相手ならしょうがないわよ。しかし異世界系ね、流行かも知れないけれど、もう何番煎じか分からないネタをいまさらされてもつまらないわよ。もっと新しいジャンルも開拓しないと思うのよ。例えば……そうね、美少女オークがブサイク騎士とかキチ〇イエルフに辱められる系とか」

「新ジャンル!?」

俺は、観光協会での話がまとまった翌日、なぜか、那奈美の部屋で同人漫画のアシスタントとして、働いていた。

理由は簡単だ。昨日の話を聞きたいと那奈美に部屋に呼ばれ、入った瞬間、予備のタブレッドを渡され今に至る。

どうやら、次回のイベントが、間近に迫っているにもかかわらずネームしか書き終えていないらしく、俺がアシスタントとして白羽の矢が立ったらしい。

「でさ……」

「宗吾、少しは黙って作業しない?私だって、アンタと話すためにアシスタントを頼んだ訳じゃないんだから」

まあ、俺も、ただ作業を手伝うだけでは、つまらないので、話しかけるのだが少し、那奈美に鬱陶しがられてしまっていた。

「へーへー、すんませんね。ポンコツアシスタントで」

「本当よ……あ、そうだ、完成した原稿、アンタの使っているタブレッドに送るから、女性器と男性器に黒糊付けておいて」

「分かった……しかし、イカ丸先生。未成年が、R18同人を描くのは倫理的にどうかと思うぞ?」

「イカ丸言うな!それに買うのは、良くないけど描くのは、良いの!最近のアニメキャラだって同じようなこと言っていたしセーフ」

いや、完全にアウトだろう。

そんなことを口に出すと、話がこじれてくだらない喧嘩が始まりそうだったので言わないでおいた。そして俺は、メールで送られてきた原稿を開く。

そこには、男性器に乱れる七重(をモデルにしたキャラ)が、書かれているのだが疑問が生まれた。

「イカ丸先生は、男性経験豊富なのか?」

「え、恋愛したことすらない糞オタク女ですが、なによ、この期に及んで嫌味かしら?後、しつこいけど、イカ丸言うな」

那奈美は、凄く面倒そうに俺を見るのだが、俺は、そんな痛い視線以上に気になっていた。だってイカ丸先生は、女性同人作家のはずなのに、男性器がなぜかうますぎるのである。

「いや、男性器にリアリティが妙にあるからさ、何かモデルにして書いているのかと思って……」

「あぁ、それは、無修正の裏エロ動画サイ……違う!び、美術のデッサン用男性ヌード写真を見たのよ!」

完全に現役女子高生の言ってはいけないワードが聞こえた様な気がするが那奈美は、かなり下手な誤魔化し方をしてきた。

「なるほど、那奈美は、淫乱なのか」

「い、淫乱ちゃうわ!女の子だって保健体育で、ちゃんと、子作りの仕方とかだって教わるんだから!女の子=性に関して無知は、二次元だけ!」

「あ、はい。で、このページに黒糊貼ったら、どうする?メールで送ればいいか?」

「完成原稿は、メールでおk。後で確認する……じゃなくて、宗吾って、私の趣味、引かないの?手伝って貰って言うのは、あれだけど、私の趣味って少し特殊じゃない?」

……心配そうに聞いてくる那奈美。

「何をいまさら、まあ気になりはするが、なんで那奈美は、イカ丸先生として同人活動をするようになったんだ」

「あれ、覚えてない?私の趣味の原因は、もとはと言えば、宗吾のせいなのよ」

「覚えていない。そもそも俺はオタクじゃない。まあ、最近、那奈美に影響されて幼女ペロペロ日記のアニメを見ているが……」

俺は、元々アニメをあまり見ていなかった。そんな俺が、オタク文化を那奈美に不況した覚えはない。俺が、那奈美女たちと会っていたのは、昔、旅行出来た一回だったし。

「幼女ペロペロ日記見たの!サリナたんかわゆくない!?」

「サリナたんは確かに可愛いが、いちいち主人公のモノローグが入るのがちょっと引く……じゃなくて、俺のせいで、那奈美がイカ丸先生になった理由を聞いているのだが」

「ちぇ、サリナたんに語りたいけど、なんで私がオタクになったかよね……簡単よ、アンタがうちに泊まった時に忘れて言った漫画……テニサーのお姫様、あれを読んだ時が始まりだったのよ」

……テニサーのお姫様。

そうだ!思い出した!俺が、家族と色々な所に旅行していたころ、まだ俺は、温泉があまり好きでなかった。その時、俺の退屈しのぎに必ず両親は、旅行前に漫画を買ってくれていた。おそらくその中の一冊だろう。

「あー、思い出した。そう言えばあの頃やけに流行っていたな。テニサーのお姫様」

「そう!次くるときに返そうと思っていたんだけど、それまで、漫画が読まれないのはかわいそうって幼いながらに思ってね。テニ姫を読んだらハマっちゃって、自分でお小遣いを貯めて、新刊が出るために勝っていたのよ。けどテニ姫の最終巻が出ちゃったのよ」

そうだ、確かにテニ姫……テニスのお姫様は、その後、連載をしっかり終えた。当時の読者たちは、驚いただろう。人気の中での連載終了に……

しかし、綺麗に話が終わったので今では、伝説の一冊となっていた。

「そう、けど私、思ったのよ……話は終わるけど主人公たちの人生は続いて行くの。それなのに私が見られないのは我慢ができない!そうして、一代発起した私は、自分の妄想を絵にするようになった。そして気が付いたらどっぷりオタクの沼に浸かっていた訳」

「あー、つまり俺のテニ姫を読んで目覚めたと」

「そう!故に宗吾が全部悪い!」

「ぐえ!だからなんでタッチペンを投げつける!」

俺にビシッと指を指した那奈美だったが、持っていたタッチペンが手から抜け、的確に俺の目に当たり悶える。

「ご、ゴメン今回は、わざとじゃないの!」

俺の悶え方に少し申し訳なさそうに謝る那奈美。まあ、それは俺も分かっていた。

「だ、大丈夫だが……那奈美の方こそ大丈夫か?」

「へ?何が?」

ダメだ、分かっていない。なんで俺が、原稿を手伝っているのかを完全に那奈美は、忘れていたのである。だから、冷静に事実だけを伝える。

「〆切。後、数時間中に印刷会社に原稿送らないと当日、コンビニのコピー用紙を何回も駆逐することになるぞ」

「や、ヤバい、ヤバい!本当にまずいって!こんなこと話している場合じゃなかった!はやく描かないと!SNSで、またイカ丸先生が魔法使いになったとか言われる!」

青ざめた、那奈美は、俺に投げつけたタッチペンをひったくると、原稿を書き始める。

「さあ、やるわよ!宗吾!もうひと頑張り!」

「へいへい……」

こうして俺達は、無駄話をやめて、作業に戻るのだが……那奈美は、原稿を描いている内に段々様子がおかしくなってきていた。

「あ……らめぇ!そんなの入らないよぉぉ!りゃめにゃの!」

「……」

「ひぎぃ!あぁぁ、あん!しょこ!ずぶ!ぬぷぬぷぷぷぷ!い、いやあぁぁぁぁ」

「……」

「ふふ、そこが気持ちいんだろう!おら!上のお口がご無沙汰だぞ!あ、ああ、じゅぼ!じゅぼぼぼぼ!」

ペンが乗っているのだろうか、漫画の内容を、危ない目をして、現役女子高校生が決して口にしてはいけない事を言っていた。

うん、うるさいし、竿役の男とエロ効果音を一緒に口にしているからか、どんなに那奈美の容姿が良くてもドン引きしてしまう。

「なあ、那奈美少し、うるさいぞ……こんな所、美湖さん達に見られたら……」

「うるさいわよ!男なら、黙って、尻の穴で語りなさい!」

「最低だな!この糞オタク!」

完全に入ってはいけないゾーンに入っている那奈美は、女の子らしくないセリフで罵倒し始める。そして、俺の使っているタブレッドにすごい勢いで原稿が送られてくる。

「う、うわぁ」

「引くな!常識に媚びるな!自分のやっている所業を顧みるな!エロ同人作家には、最終〆切で原稿など落とせないのよ!」

「だが、流石に……」

「私達は、原稿の脱稿させないといけないんだから!死ぬ気で書きなさい!」

「ひぃぃぃ!変態だぁぁぁ!」

そこからは、七重のあられもない原稿が、永遠と送られてくるのだが、その時心の声が、聞こえてきた。

『宗吾よ……ここの女性器、修正し忘れておるぞ』

「あ、本当だ……って!」

エロ同人のモデルでもある七重の声であった。俺は、慌てて、那奈美に七重がいることを伝えようとしたが、七重はそれを止めてくる。

『面白そうじゃから宗吾は描き続けながら、心の声で答えればよい。黙読と同じ要領じゃ』

『こうか?』

『そうじゃ、宗吾。うむぅしかし、妾とて神じゃ、こんなことで簡単に貞操を民に奪われるなぞせんぞ?それにここは、もっと白濁汁を足した方がいやらしくかけるぞ』

いやだなぁ、自分が漫画の中でいやらしい目に会っているのに冷静に状況を解説して、アドバイスまで入れてしまう神様なんて。

『なあ、七重いつから、起きていたんだ?それに自分のエロ同人なんて書かれているのに止めないのもどうかと思うが』

『そうか?趣味は人それぞれじゃしのう。文句など言わんよ』

「宗吾、どうしたの?集中力が切れているわよ!血反吐を吐きなさい、死になさい!脱稿するために!」

「死ねるなら、死にたいが……死因が、エロ同人とか嫌だな」

那奈美は、七重がこの原稿を読んでいるって知ったら、どうなるんだろうな……きっと、この原稿は、脱稿してしまうだろうから、言わないが。

『あ、宗吾!ここの修正、この女性器の性感帯は、修正しないと販売停止になるぞ』

『詳しいな!この神様!』

『まあ、神だからのう』

神は、万能とよく言うが、エロ同人に詳しい土地神様って言うのは嫌だなあ。

 こうして、数時間が立ち、日が昇り始めるころようやく、原稿がすべてチェックし終わり、見事同人は、完成した。

それによって、ギリギリのところで、印刷所にデータを送ることができたのだが、本当に全力で物事に取り組むと人は、倒れるように崩れ落ちる。

例にもれず、俺と那奈美も例にもれず、床にそのまま寝そべっていた。

「あー、無理!もう無理!今すぐ寝たいのに、栄養ドリンク飲み過ぎて、眠れない」

「珍しく意見が合うわね……もう私、ここから一歩も動きたくない」

「そうじゃのう……妾も疲れたわい。意外とアシスタントと言うのも大変じゃのう。日朝アニメを作っているスタッフさんたちは、毎週こんなことをしているなんて、すごいのう。彼らは、神の類なのか」

あれ……腹が重い。俺は、残った力を振り絞り、顔を上げると、七重が俺の腹の上で寝そべっていた。

俺は最後の方、七重のアドバイスを聞きながら、作業をしていたため驚かなかったのだが。

「な!七重様あぁぁぁ!?」

那奈美は、驚きのあまり、物凄い大声と共にタブレッドを隠すように立ち上がったが、七重は、鬱陶しそうな声で、反応した。

「なんじゃ、妾も、神でも疲れは感じる……気分的に。それに流石に長時間、エロ同人の修正を手伝っていたら疲れる。きぶんてきにっだが黙って寝よう……ふわぁ……」

「い、い、いや、ナナエサマ?いつから、居て……というより同人の手伝いとは……」

那奈美は、不自然なほどに震えているのは、はじめて見た。まあしょうがない。エロ同人のモデル本人がそのエロ同人の修正をしているのだ。

「そんなの最初からじゃ。宗吾は、妾の器……簡単に言えば、自分の家そのものじゃ。妾の家に妾がいてなんの不自然がある?それに、宗吾だけでは、修正不足になって当日の会場で修正する羽目になっておったぞ。感謝はされても驚かれるのは心外じゃ」

「宗吾?」

「な、なんでしょう」

あぁ、那奈美の顔、あれは本気で起こっている顔だ。俺は、無理に体を起こしたことにより、七重が、俺の膝まで滑り落ちていた。

「いた!宗吾!立ちあがるならいうのじゃ!びっくりするじゃろう!」

「す、すまん」

俺は恐怖のあまり七重のことを考えず立ちあがってしまった。しかし、望みを捨ててはいけない。那奈美はこう見えてしっかりお礼の言える子だ。

きっと笑顔で許してくれるはず……

「手伝ってくれてありがとう!」

「あ、はい……グエ!」

ほら素直にお礼を……と思ったのは一瞬で、次の瞬間タッチペンが俺の目に飛んできた。

「このアホ!七重様がいるなら、ちゃんと言いなさいよ!事情を知っていたら、アンタじゃなくて美夜を呼んだのに!」

「や……八つ当たり反対!そもそも、七重のエロ同人を那奈美が描かなきゃよかったじゃないか!」

「あふれだすリビドーを抑えろと!?」

「抑えようよ!」

理不尽な那奈美の激怒に俺は、物申すのだが、七重は、呆れた様に一言だけ言う。

「いやはや、夫婦喧嘩は、犬をも食わぬというが……これは何とも」

「「夫婦ちゃうわ!」」

「完全に夫婦なのじゃが」

……いや、七重、俺達は、夫婦じゃないから、その言葉の使い方は、間違えている気がするぞ。今だって、俺達喧嘩しているし。

結局、この日は、思いっきり口喧嘩をした後、お互いに体力の限界に達してしまい、喧嘩の勝敗はうやむやになりその場で眠りについてしまった。


 日中、本当なら、この時間は、空き家利用者を増やすための調査を行いたい時間だったのだが、学生という身分上、週に五回は最低でも学校に通う必要がある。

俺は、昨日、観光協会が、空き家を貸し出ししてくれる人への利益について、夜中まで考えていたので、教師の声を子守歌にうつらうつらとしていた。

「おーい、有馬ぁ。成績が良くても寝ていたら俺は容赦なく単位を落とすぞ」

「ね、寝てないですよ!いやですね小野原先生!」

「そうか、じゃあ、教科書の132ページを読んでみろ」

「はい!えぇ、今は昔、竹取の翁……」

小野原先生に、言われて、俺は、教科書を開き、内容を読もうとしたが、気が付いた。小野原先生の担当は数学。

俺が開いている教科書は、古文の教科書である。恐る恐る、小野原先生は、満面の笑みで、俺の肩を叩いてきた。

「数学の時間に、竹取の翁と言う数式があるんだな。ふむ、なら、その数式について、詳しく聞こうか」

「すみません、寝ていました」

「よし、有馬には、特別に宿題だ。明日までにリーマン予想の答えを出して、提出な」

「ミレニアム懸賞問題!?」

解いたら100万ドル貰えるっていう数学問題の答えを明日までに提出とか鬼ですかこの教師。

「冗談だ。だが次、寝たらその時は、本当にリーマン予想を宿題に出すからな。未提出は、落第と言う優しい特典付きでな」

「鬼!悪魔!」

「馬鹿め!俺は、高校教師であって、鬼でも悪魔でもないわ!」

こうして、俺は、教師特権と言う恐怖政治により、授業中、寝ずにしっかりと起きている様、眠気と戦闘し、時間は過ぎていった。

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