第10話 たまには、真面目な話

「と言う訳で、本格的に湯上温泉町の復興について話していこうと思う。美湖さんと幸さんも悪いけれど、少し付き合ってください」

 その日の夜、俺は、食事が終わった後、七重や、黒川家を呼び止め、本来の俺の目的、湯上温泉街の復興について、意見を聞こうとした。

「私と幸さんは、大丈夫よ~」

「あぁ、湯上に住むものとして、話を聞かないといけないのは、私も理解している」

美湖さんも幸さんも、多忙なのにもかかわらず、話を聞いてくれることになったが、那奈美だけは不満そうな顔をしていた。

「アンタ、さっきあんなに、私達のことを思い出して喜んでいたくせに切り替えが早すぎじゃない?」

「なんじゃ?宗吾が、昔のことを思い出して一番喜んでいるのは、確かに那奈美かも知れんが、許してやってくれ。これは湯上の今後にかかわることなのじゃから」

「お姉ちゃん……どんまい」

「ちょ!あんたら!なんで私をかわいそうな子を見る目で見るのよ!」

そして、七重たちも、なんやかんやで聞いてくれることになり、俺が話す環境が整った。確かに、あの帰りだけじゃ積もる話も語り終えていないので後で那奈美達とは、話をしようとは、思ったが、今することを見失ってはいけない。

「おほん!では、少し場をお借りします。時間もそこまでかからないのでご安心ください」

俺は、わざと咳払いをしてからみんなの目を改めてみる。みんなは、俺を真剣な目で見る。この感覚はいつぶりだろうか。確かに、俺は、いくつかの会社の筆頭株主として、多くの人の前でしゃべる機会があり、そこまで緊張はしなかった。

「まずは、結論、湯上温泉町は、今後、空き家を宿泊施設として利用する。なぜかと言われれば、簡単だ。単純に使わないのに所有されている土地がここは多すぎる。それは財産の無駄である。俺は、無駄の有効活用をして、利益を出すことを提案します」

「ほう、聞いたことのある話じゃのう。なあ、幸よ」

俺の提案に面白そうに、しかし厳しい目で幸さんを見る七重、理由はなんとなく想像がついていた。

「ええ、確かにそれは、私も提案したことがあります。しかし、湯上温泉は、腐っても温泉街、宿泊施設が多く、民泊や、住宅宿泊がうまくいった場合、旅館の利益が減る。さらに言えば、民泊のための整備が、空き家の管理人にはできないからか認可も簡単に下りずこの計画は瓦解してしまった」

「でしょうね。ただ空き家に止めるだけだと、ここに住む人には利益がない。なら利益を作ればいいと思いませんか?」

「ははは、パンが食べられないなら菓子を食えか。妾は好きじゃ言ってみい、宗吾」

七重は、俺の言いたいことを恐らく理解している。

そのうえで、俺に説明させようとする当たり、ただ単に日朝を見るだけのポンコツでは無い様だった。

「まあ、問題として、宿泊施設の利益問題、それに民泊を管理する一般住民の負担。この二つは、ここに解決するのは確かに難しい。だが、一つに纏められれば、簡単に出来る。民泊の管理は、湯上温泉町の旅館が組合として管理、空き家の所有者は、一定量の利益を組合に渡す代わりに、管理をしてもらえればいい。こうすれば、旅館には利益が入る。それに、空き家の管理者も利益が0では無くなる」

そう、お互いがお互いを頼るならこの問題は簡単に解決するのだ。そうすれば民博自体は可能になる。

しかしその意見に疑問を持ったのは、意外にも美夜だった。

「あの、確かに宿泊施設は、増えるかもしれませんが、人は、それだけでは来ない気がします。宿泊施設だけは、前からあった湯上です。今更、泊まるところが増えても人が来るとは思えないのですが」

そう、湯上は、名前からも分かるように温泉で栄えた町。そんな町は、他の田舎に比べて、宿泊施設は、多いしかし、それは問題で無かった。

「今回のターゲットは、あくまで日本を知らない人に向けて、外貨取得が目的だ。旅好きな外国人が海外旅行に求めるものは何だと思う」

「えと、観光地ですか?」

美夜の答えも正しい、旅行は、あくまで観光が目的。観るため、楽しむためが目的。

そもそも観光の由来は、中国の易経にある一説『国の光を観る、持って王に賓たるに利し』という、国の威光を観察する所からきている。

その国の威光……つまり、その土地の良い所が見たいのだ。

「外国人が求めるのは、なにも寿司や、天ぷら、富士山だけじゃない。彼らは、俺達の何気ない文化が見たい、歴史の光が見たい。異文化を体験したい、ここでしか体験できないことがしたい」

「はい、確かに私も旅行するのでしたら、言う事をしたいですが、それが今の話と何の関係があるのですか?」

美夜の意見はもっともだ、きっと観光の由来の話をしても、今回の空き屋利用の話とはつながらない。なら繋げればいい。

「日本への旅行慣れしている外国人が温泉旅館に泊まるならどこが良い?そうだな、言葉が悪くなるが、日本一の温泉旅館と湯上にある代り映えない通の旅館、美夜が止まるならどっちがいい?」

「ま、まあ。それは、日本一の旅館です」

「だろう。温泉旅館は、温泉地には、必ずある。それなら、ここにしかないものを日本一の旅館との引き合いに出せばいい。その引き合いに出てくるものが、湯上にある空き家だ。ここの空き家は、多くが昔の日本家屋の形をしている。ざっと見てだが、かまどのある空き家すらあった。これは売れる」

そう売れる。自分の利点と言うのは、持ち主が見つけるのは難しい。そこにあるのが当たり前だから。

「売れるって……古い空き家と日本一の旅館なんて、比べるまでも無く、みんな日本一の旅館に泊まりたいって思うわよ」

突っかかってくる那奈美。悪意ではなく、純粋な疑問である。

「まあ、そう言う人もいるかもしれない。しかし、観光客には、こういう人もいるはずだ。普通の旅行はしたくない。日本家屋に泊まって、昔の日本人の生活を体験したい。そう思う外国人なら、昔ながらのかまどがある空き家民泊と日本一の旅館どっちに泊まりたいと思うだろうか、絶対に民泊を選ぶ」

「そ、そんなの屁理屈じゃない!そんな人、観光客の中でも限られているわ」

「那奈美の言うことは確かだ、屁理屈かもしれない。けれどまずは、知ってもらうことが大切だ。約75億人の人口を誇る地球の中には、必ず那奈美の屁理屈と言った理屈で旅行をする観光客だっている。それをまずは、掴む。そして、その客をリピーターとして口コミで評価が広がれば、0が1。今の湯上に必要なことは、数字を確実に増やすことだ」

場が鎮まる。凍ったわけではない納得して貰った。故の沈黙。

その沈黙を破ったのは、那奈美だった。

「あー理解したわ。けど覚悟はあるの?並大抵のことじゃない。人一人の力でどうにかなることじゃないそれを理解した上でなら私は手伝うけれど」

「ありがとうナッちゃん」

「ナッちゃん言うな、馬鹿」

それに続いて、美湖さん達も嬉しそうに話しだす。

「幸さん、良いですね。こういった新しい風が湯上に吹くって」

「あぁ、依然として、問題は山ずみになる可能性はあるが、それは、なにも宗吾君一人に抱え込ませなければいい。子供に出来ないことをしてあげるのは、大人の責務だからな」

巫さん達も俺の考えに賛同してくれた様子だった。しかし、余りに嬉しかったのか、美湖さんは、那奈美が二次元美少女を見つめる時のような少し危ない目で、俺の両肩を掴む。

「ねえ、宗吾君?うちに婿としてこない?那奈美や、美夜とは、昔面識があるみたいだし、二人とも自慢の娘よ。どっちを嫁に出しても恥ずかしくないわ。那奈美は、気が少し強いけど、優しいし、美夜は、奥ゆかしい日本古来の美少女よ!どっちも優良物件だと思うの!なんなら、二人とも嫁に貰っていいわよ」

「え、えっと、幸さん?」

「宗吾君。私に美湖は、止められない」

俺は、幸さんに助けを求めるが、幸さんは、諦めた様に俺を見る。そして他の人に助け舟を出すも……

「ママ!私は、こんな男と結婚なんてしないわよ!」

「あう、結婚……ですか……うぅぅ恥ずかしい」

「あら、二人ともシャイね?私なんて、幸さんが好きになったその日に部屋に押しかけて、幸さんを押し倒したのよ?それぐらいの勢いがないといつまでたっても結婚なんて」

「み、美湖!子供にそう言う話はするなと!」

ダメだった。

「七重!助けてくれ!」

那奈美は、美湖さんに食いつき、美夜も恥ずかしがるだけである。俺は、最後に希望と言わんばかりに七重の方に助けを求めるが、七重は、面白そうに俺を見ると面白そうにこちらを見るだけであった。

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